第40話社内の闇
草間製作所・社員休憩室。
この日、ミナとマヨイは社員数名に個別の聞き込みを行っていた。
「社長、最近やけにブツブツ言ってることが多くて……正直、ちょっと怖かったです」
そう証言したのは、営業主任の山岡大地だった。
「何を言っていたか、覚えてますか?」
ミナが手帳を広げながら尋ねる。
「えーと……“ここでスベったら終わりだ”とか、“笑いのタイミングが命”とか……」
「それ完全に芸人の追い詰められ方ですよね」
「おお、なるほど……それが“社長ギャグ覚醒前夜”だったわけじゃな」
マヨイはうんうんと頷いている。
「ちなみに、最近“青い封筒”を見たことは?」
「いえ、金庫の中身までは……。ただ、昨日、社長がパソコンの前で“ウケるぞこれは……”って笑ってたのは見ました」
「ウケるかどうかは社内アンケートで決めるべきだったな……」
続いて話を聞いたのは、新人の沢村みどり。
「うちの社長って……飲み会になると、すごく頑張るんです。
だから、ネタ帳とかあるって聞いても、“ああ、やっぱりなぁ”って……」
「え、聞いてたんですか?」
「山岡主任が社内LINEで一部ネタを回してました。
“お前ら、当日笑う準備しとけ”って。スタンプ付きで」
「情報流出してるじゃないですか!」
ミナが思わず立ち上がった。
「どれどれ……“しゃっちょのギャグ、まさかの全力投球”……“あかん、1ページ目で既に寒い”……」
マヨイがスクショを覗き込むように言う。
「む、これは……新手の心理戦かもしれん。“笑いすぎて社長を天狗にさせて失脚させる”作戦じゃ!」
「なにその謎の政略ギャグバトル!」
沢村は少し俯きながらも、ぽつりと告白した。
「……実は、私、そのネタ帳に……ちょっとだけ、落書きしちゃってて……」
「落書き?」
「“最近の若者ウケするギャグ例”って書き足しちゃったんです……。
社長に、少しでも受けてほしかったから」
それを聞いたミナは、しばらく沈黙したあと、優しく微笑んだ。
「もしかすると……この事件、もう“解決してる”のかもしれませんね」
マヨイも腕を組みながら、静かに頷いた。
「ふむ……ギャグとは、笑われることを恐れず、人を笑顔にしようとする者の戦場……」
「急に名言風にまとめようとしない!」
だが、失われたはずの封筒が、どこかで社内を巡り、
少しずつ“みんなの手”によって形を変えていたとしたら──
それは、たしかに“ただの封筒”ではなかったのかもしれない。
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