第38話封筒が語る重要任務

「まず確認ですが、その金庫にアクセスできるのは誰ですか?」


ミナが手帳を開き、淡々と尋ねる。


「わたしと、副社長、それから経理主任の3人だけです」


「つまり……社長、副社長、そして“犯人”ですね!」


「即決するな! マヨイさん、容疑者増やす前に整理してください!」


 


草間社長は苦笑しながらも、どこか落ち着かない様子で椅子に座り直す。


「……正直、社内の誰かが開けたのか、それとも暗証番号が漏れたのか……それすらも分からなくて。

ただ、どうしても中身が心配で……」


 


「中身……と言いますと?」


 


草間はしばらく沈黙したのち、意を決したように口を開いた。


「……会社の、飲み会で披露する予定だったギャグのネタ帳です」


 


「ギャグの……」


ミナがペンを止めた。


 


「ネタ帳、じゃと?」


マヨイが、ものすごく真剣な顔になった。


「なるほど。つまりこれは、社の命運を握る“笑撃の機密文書”ということじゃな……!」


 


「ちが──いや、ちがわないかもですが、そういう大げさなものでは……!」


社長は赤くなりながら弁解した。


 


「でも……私、今度の飲み会の司会進行なんですよ。

いつも“すべってる”って陰で言われてるのを、私は……私は……!」


 


「心で、泣いていた……」


マヨイが目頭を押さえた。


「わかるぞ、社長殿。笑われたい。でも笑われるのはこわい。

だから磨き上げた、渾身のギャグ……! それが、封筒に託されたのじゃな!」


 


「そこまで深く考えてませんでしたけど……まぁ、そういうことになります……」


 


ミナはため息をつきながらも、静かに社長に問いかけた。


「封筒の見た目に特徴は?」


「はい。青いクラフト紙で、“重要”って朱書きしてありました。封はマスキングテープで止めて……」


 


「“誰がどう見ても怪しい封筒”ですね。よりによってそんな仕様に……」


 


「ふむ……封筒が目立つ、金庫は壊れていない、他のものは盗まれていない……」


マヨイが腕を組んでうなった。


 


「これは、“笑い”を狙った犯行すなわち、笑撃的内部犯の仕業と見た!」


「だからそれ大げさなんですよ!」


 


だが確かに、状況は不可解だった。

“誰か”が封筒を持ち出した目的は、社長のギャグか、それとも別の意図か。


次に向かうべきは、現場検証と、社員たちへの聞き込みだった。

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