第37話金庫と封筒と社長の顔
「助手殿、事件の香りがせんか? ……茶葉の香りじゃないぞ?」
「知ってますよ。というか、紅茶を鼻に近づけすぎです、マヨイさん」
探田探偵事務所の午前中は、基本的に静かだ。
この日も変わらず、マヨイは窓辺で優雅にティーカップを揺らし、
ミナは資料をまとめながら、たまにツッコミを挟んでいた。
そこへ、コンコンとドアをノックする音。
「おぉっ、依頼の予感じゃな!」
「反応早っ。まだインターホンすら鳴ってませんけど」
扉が開き、背広姿の中年男性が入ってきた。
額に汗をにじませ、落ち着きなく両手をもじもじさせている。
「す、すみません……ご相談がありまして……」
「ようこそ、探田探偵事務所へ! わしが名探偵・探田マヨイ、そしてこちらが助手のミナ殿じゃ」
「助手のミナです。えっと……どういったご用件で?」
男性は深く頭を下げてから名刺を差し出した。
「草間製作所、社長の草間健三と申します」
「ふむ、社長殿か……さては横領か、スパイか、いや宇宙人との癒着か」
「いきなり攻めすぎですよマヨイさん! 話聞いてからにして!」
草間社長は苦笑しながらも、机の前に腰を下ろした。
「今朝、会社に出社したら……金庫が、開いていたんです」
ミナの表情が少し真剣になる。
「壊されていたんですか?」
「いえ、暗証番号はそのまま。金庫に破損はなく、他の中身も無事でした」
「ふむ、それは不可解じゃな。何か、盗まれたものは?」
「……“青い封筒”です」
草間社長は声を潜めた。
「中には……会社の機密、というか、個人的に……とても大事なものが入っていました。
誰にも見られたくない。……いや、見られたら終わるような」
「こ、これは……!」
マヨイが身を乗り出す。
「“闇金と社内恋愛と国家機密”を同時に抱えた爆弾封筒じゃな!」
「違う違う! 絶対そんな爆弾じゃないですから!」
草間社長は困ったように笑ったが、
ミナは内心、ふとひっかかりを覚えていた。
「本当に、それが“ただの紛失”で済む話なんでしょうか?」
そう。金庫は開いていた。だが荒らされていない。
そして消えたのはたったひとつ、“青い封筒”。
迷探偵と助手の、新たな調査が幕を開ける。
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