第23話助手、バイトで名乗られる

「いらっしゃいませ〜!」


ミナの明るい声が、ちょっとおしゃれなカフェの店内に響く。

制服姿の彼女が注文を取りながら笑顔を向ける姿に、客の何人かが密かに見惚れていた。


そう、今日は“バイトの日”。


「探偵助手は、生活のためにもバイトするのだ」と、マヨイが謎の理念を語った末、ミナは週に数日、ここで働いている。


 

しかし、


 

「……ねぇ、君ってもしかして、あの有名な“迷探偵の助手”の子じゃない?」


 

突然、レジ前の中年女性客に話しかけられた。


 

「へ? あ、え? は、はい?」


 

客は目を輝かせながら続ける。


「この前テレビの特集で見たのよ、“迷って当てる珍探偵と美人助手”って!

あなたその美人助手でしょ!? 名乗ってたじゃない、“佐伯ミナ”って!」


 

「えっ、ちょ、うわぁ……!」


まさかここで本名バレ!?

いや、というかそんなタイトルで出てたの!?


 

そこへ──ガラッ。


ドアが開いて現れたのは、トレンチコートをなびかせたひとりの影。


「ミナ殿、応援に来たぞ!」


 

「あ゛あ゛あ゛来たあああああああ!!」


 

周囲の客が一斉に振り向く。

マヨイは得意げに店内を見回し、手を広げた。


「名探偵・探田マヨイ、降☆臨!」


「お客様ァ! 入店即自己紹介はご遠慮くださーいッ!!」


 

しかもちゃっかりカウンター席に着くやいなや


「アイスカフェラテ! 無糖で! 迷いなく!」


「何その注文のしかた!? 迷ってくださいよちょっとは!!」


 

客のひとりがそっとつぶやく。


「ほんとにテレビのまんまだ……」


 

ミナは顔を手で覆いながら、厨房に消えていった。

しかしこの時、本人はまだ知らない。


このあとネットで「#探偵助手バイト中」がトレンド入りすることを──。


 


 

その夜。探偵事務所。


 

「……で、なんで今日来たんですか、わざわざ」


 

「うむ。あの女性客、わしのファンじゃった。サイン欲しい言われてな。

助手殿の名誉のために、すべて“わしが書いて”おいたぞ!」


「なんでェェ!? わたしのサインなのに!? え、なにで書いたんです!?」


「店のナプキンに、爪楊枝で……」


「ほんとになんでェェ!!」


 

事務所にはいつもの夕暮れ。

今日も、名探偵と助手は平常運転。


ギャグと迷走のすれ違いでも、不思議と

“心地よい”日々。


きっとそれが、彼女たちの“名推理”なのかもしれない。

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