第21話夫のスマホ、開けられたら苦労しない
「だから、顔認証が通らないんですってば!」
田之上奈津子がスマホを握りしめてマヨイに詰め寄る。
その様子は、もはやスマホに恋する乙女か、もしくは恋に敗れたプリンセスか。
「ほう……つまり、ご主人・司殿のスマホは、顔でも心でも開かぬと。
いわば“夫婦ロック”状態じゃな」
「それだと離婚寸前みたいに聞こえますけど!?」
ミナがため息をつきながらスマホを受け取った。
「でもこれ、パスコード方式なんですね。
予想つくような数字、心当たりありますか?」
「うーん……誕生日、記念日、ペットの名前……全部試したけど、全滅です!」
マヨイが突然、机をバンッと叩いた。
「よし、ここは名探偵マヨイの第六感でロック解除じゃ!
こういうのは“愛の深さ”で突破できるんじゃ!」
「無理です! それ“心の鍵”の話で、物理パスコードには効きません!」
マヨイは“114514”と入力してみる。ブーッ。
「何その不穏な番号!? 遊んでるでしょ絶対!」
「違うのじゃ! “いいよこいよ”の暗号じゃ!」
「もっとダメです!!」
静香は深いため息をついた。
「……やっぱり、ロックなんて無ければいいのに……。
“見られて困るもの”があるから、隠すんですよね?」
ミナが少し考え込む。
「うーん……たしかに、疑わしいけど……
健康系の何かって可能性もあるんですよね。以前も、そうでしたし」
「また“健康意識が浮気に見える問題”ですか?」
「もういっそ、“やさしさ病”とか名前つけた方がいいかもですね」
「正式名称:関係性誤認型やさしさ過多症候群
略して“KGO”!」
「どこで学会通すつもりですか!」
そのとき、スマホに“メール受信”の通知が入った。
差出人は、「健診センター」
件名:「再検査についてのご案内」
ミナが顔を上げる。
「……やっぱり、健康関係みたいです」
静香は一瞬だけ驚いた表情を見せ、それからゆっくりと微笑んだ。
「……あの人、昔からこういうところ、変わらないなぁ。
自分の心配事は、ぜったいギリギリまで言わないんです」
マヨイが神妙な顔でうなずく。
「それもまた、やさしさの“裏目”というものじゃな。
大切にしてるからこそ、伝えられないこともある……」
「でもそこを“怪しい!”って疑っちゃうのが人間ってやつですよね」
「うむ。まことにややこしき生き物じゃ。
だがそれゆえに、探偵の仕事は尽きぬ!」
「ええ……でもその前に、マヨイさんの変なパスコード試行が原因でスマホロックが強制ロックになったら、訴訟モノですからね」
「むっ、助手殿……それは“名探偵訴訟事件 File.0”として永久保存では……」
「全然保存しないでください!!」
迷探偵と敏腕(ツッコミ)助手。
ふたりはまた、遠回りしながら“真実”へと歩き出す。
ほんとうの答えは、数字じゃなくて、心の中に!
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