第20話浮気か否か、それが問題だ
「……それでこれが、その“証拠写真”というわけですな?」
マヨイがスマホを老眼鏡のようにかざし、画面を凝視する。
向かいには依頼人・田之上奈津子が、やや怒り気味に腕を組んで座っていた。
「そうです。この距離感見てくださいよ。
うちの司と、見知らぬ若い女が、こんな距離でランチ!? おかしくないですか!?」
スマホの画面には、オープンテラスで談笑する男女の写真。
確かに、距離は近い。けれど、
「ふむ、確かに“近い”。が、決定打には欠けるな。助手殿、どう思う?」
「この写真だけじゃ、ただの“仲のいい同僚”にも見えますけど……
でもこれ、グラスがワイングラスですよね? 昼間から?」
「それだ! 昼ワインは怪しい!」
「それだけで浮気認定は乱暴すぎるでしょ!」
静香はさらに、封筒から一枚の紙を取り出す。
「それに、今朝夫のカバンからこんなメモも見つけました」
『例の件、検査結果は大丈夫そう。
あとはどう話すかですね。お昼、例の場所で。』
ミナの眉がぴくりと動く。
「……検査結果? また、健康方面ですか?」
「またって何ですか!? うちの人、前科みたいに言わないでください!」
マヨイは椅子の上で正座し始める。
「むむむ……これはまさかの“浮気を装った健康意識”パターン! これはわしの得意分野!」
「そんな分野あったんですか!?」
「ある。わしの前世はたぶん保健室のカーテン」
「意味わかんないです!」
マヨイは机に身を乗り出した。
「助手殿。ここはひとつ、立て続けに“浮気未遂事件”を解決した我々の手腕、見せてやろうではないか」
「手腕って……前回のとき、最初“完全に黒”って断言してましたよね?」
「うぅ……心が痛む……が! 迷っても真実にたどり着くのが迷探偵! わしの迷は“愛され迷走”なのじゃ!」
「自己肯定力の高さはすごいと思います!」
静香は小声でぼそり。
「……浮気じゃなかったら、何なんだろう……あんなにニヤニヤして……」
マヨイがにやりと笑う。
「ふっふっふ……笑っていたから浮気とは限らん。
わしなど、コンビニで“レジ袋要りますか?”と聞かれただけで笑ってしまう」
「それただの人見知り!」
こうしてまた、新たな調査が始まった。
浮気か、誤解か、それとも思いもよらぬ“やさしさの変装”か
探偵と助手は、軽口を交わしながらも、しっかりと“真相”の匂いを追い始めていた。
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