第11話お茶の時間の謎

 「事件は、“紅茶”から動き出すのじゃ」


「また突拍子もないことを……!」


ミナのツッコミが響くなか、マヨイは台所に置かれたティーセットをじっと見つめていた。


「先代が亡くなる前日の夕方、東堂が紅茶を

出したという記録がある」


「記録っていうか、東堂さん本人がそう言ってただけですけど」


「つまり証言じゃ。重要じゃ。……で、わしはふと思った」


マヨイはくるりと振り返って言った。


「“紅茶のタイミング”がズレていたら、それが“遺言状が消えた瞬間”なのではと!」


「……え、まさかのタイムトリック?」


「ふふふ、いわば“午後の時間差トリック”!」


「名前だけはそれっぽいけど内容がスカスカ!」


 


マヨイは急須の蓋を開け、ティーバッグを確認した。


「紅茶の濃さ……お湯の温度……東堂が注いだという時間と、実際に冷めた時間……このズレを利用して“犯行”が」


「無理ですって! 紅茶、万能すぎるでしょ!」


「いや、侮るなかれ。紅茶は文明と歴史の象徴、そして真実の味じゃ」


「哲学始まった!」


 


そのとき、東堂が静かに部屋に現れた。


「……失礼いたします。少しお時間を頂いても?」


「もちろんじゃ。“紅茶の謎”について、お主の見解を聞こうかの」


「謎……?」


ミナがフォローを入れる。


「すみません、マヨイさん今ちょっと暴走してまして」


「通常運転です」


 


東堂は構わず口を開いた。


「先代に紅茶をお出ししたのは、夕方の五時頃。少し早い時間でしたが、“金庫の前でナポレオンを叱った直後”だったと記憶しています」


「む。ということは、金庫の中に遺言状がまだあった可能性が高い」


「ええ。そのときは、まだ“終わっていない表情”でした。逆に、夜にお部屋を覗いたとき、先代は書斎で手を組んで、何かをじっと見つめておられました」


「それはなんじゃ?」


「わかりません。ただ、暖炉の上に飾ってあった家族写真を、長い時間眺めていたようでした」


ミナがぽつりと呟く。


「写真……あれ、もしかして……」


「ふむ。“紅茶”と“写真”と“金庫”。線が繋がってきたのう……」


「本当に繋がってます? 妄想の線じゃなくて?」


「実際は線というより、点じゃな。だが点も集まれば、やがて真実になる!」


「なりませんって!」


 


しかしこの紅茶と家族写真にまつわる証言が、

次の“最後の一手”への伏線になるとは、ミナはまだ知らなかった。


マヨイだけは、なぜか得意げににやけていた。


……たぶん。

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