第12話遺言状はここにある

 「ふむ……すべては、最初からこの家の中にあった」


マヨイがゆっくりと立ち上がった。背後では、ミナと東堂が並んで見守っている。


「金庫、封筒、猫、屋根裏、焼却炉、懐中時計、紅茶、家族写真、ダイレクトメール……」


「最後のだけ明らかに異物ですけど」


「この名探偵、探田マヨイ。ついに結論にたどり着いた!」


「ついに“迷”が取れる日が……!」


 


マヨイは先代の書斎へと歩き、家族写真の前に立った。

その写真の下、何気なく置かれていた木製の額縁付き書類それは、ずっと“記念証”だと思われていたものだった。


「これじゃ」


マヨイは額縁の裏をくるりと外す。


「写真でも絵でもない。“飾るための遺言状”。それが、先代の最後の意思表示だったのじゃ」


「えっ……?」


額縁から出てきたのは、手書きの一枚の文書。


 


《わたし佐伯信三郎は、持てる財産の大半を処分し、

孫娘・佐伯ミナの名義で公益団体に寄付することとする。


金銭よりも、大切なものを残す。それが、わしの遺志じゃ。》


令和六年十月十二日 佐伯信三郎


 


「……これが、遺言状……?」


「そうじゃ。“金庫”に隠すのでも、“封筒”で封じるのでもなく、“家族の目に触れる場所”に、“日常の中に”混ぜていたのじゃ」


「最初から……見えていたってこと……?」


マヨイはふっと笑った。


「真実とは、“探さぬ者には見えず、見ておる者には気づかれぬ”。その好例じゃな」


東堂が深く頭を下げた。


「……まったく気づけませんでした。お恥ずかしい限りです」


ミナはゆっくりと額縁の文書を両手で受け取った。


「……ずるいなぁ、おじいちゃん。こんな形で、遺していくなんて」


「ふふふ。だが、先代らしいといえば、らしいのう」


「……ありがとう、マヨイさん」


「礼には及ばん。わしの仕事は、“迷った先で真実を拾うこと”じゃからの」


「……かっこいいこと言ってるけど、8割外れてましたからね?」


「うむ。でも最後が当たれば、それでよし!」


「……まあ、否定できないのが悔しい」


 


こうして、失われた遺言状は、家族の思い出の中にこっそりと眠っていたことが判明した。

それは“隠された”のではなく、“飾られていた”という、先代からの静かなメッセージだった。


そして迷探偵・探田マヨイは、またひとつ、遠回りの末に事件を解決した。


たぶん、次も迷う。けれど、それでもきっと、辿り着くのだ。


 


それが、探田マヨイである。

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