第9話一枚の家族写真

 「あれじゃ……! あの中に、犯人が写っておる!!」


「は!? いきなり何を!?」


マヨイが突然指を差した先には、リビングの壁に飾られた、古びた家族写真があった。

白黒で、やや色あせてはいるが、先代とその家族たちが並んで写っている。


「この中に、“封筒を燃やした人物”がいる!」


「写真は証拠じゃないですよ!? フィクション脳すぎますって!」


「見よ、この配置。先代のすぐ右に立つ女目が

笑っておらん。つまり、遺産狙いの目じゃ!」


「それ私の母ですけど!?」


「……あっ。……む?」


ミナが深いため息をついた。


「いいですか? これは十五年前の写真です。祖父の還暦祝いに家族で撮ったやつなんです。封筒事件とは時系列が違います」


「うぐっ……ま、まぁ、時空を超えて残された“罪の予兆”という可能性も……」


「もう黙っててください」


 


写真の前でしばし沈黙が流れる。

マヨイは小さく咳払いして話題を切り替えた。


「……しかしじゃ、この写真、微妙に位置がズレておらんか? 本来あるべき場所より、わずかに右に傾いとる」


「まあ……たまに落ちかけて直したりしてますけど」


「ふむ、つまり“頻繁に触られている”可能性がある」


「掃除のたびにずれますって」


「だが、その裏この写真の“裏”が怪しい。額縁の裏に、遺言状が挟まっておるのではないかという、この名探偵の直感!」


「それ、だいぶ前の刑事ドラマで見た展開ですよね」


「名探偵たるもの、先人の知恵をなぞることも時に必要なのじゃ!」


 


そう言いながらマヨイは、慎重に写真を壁から外し、裏側を調べる。

紙くず、埃、木片の欠け……しかし、遺言状らしきものは何もなかった。


「……ないのう」


「でしょうね」


「ぬぅ。では、この裏に“もう一枚の写真”が隠されていた説はどうじゃ?」


「それはもうホラーです」


「ならば、写真の目線の方向に“何かがある”説は?」


「もうやめて! 写真が迷惑そうに見えてきた!」


 


やがてマヨイは、写真を元通りに掛け直しながら小さく呟いた。


「……じゃが、やはり気になる。“なぜこれだけが今も飾られていたのか”。先代が選んで残した、たった一枚の写真じゃ」


ミナもその写真を見つめる。


「祖父は家族との時間、そんなに多くなかったですから……この写真だけは、ずっと飾ってありました」


「ふむ。思い出は、金庫よりも深く仕舞われる……そういうことかもしれぬのう」


「またそれっぽいこと言ってますけど、ぜんぶ外れてますからね?」


「うむ、まだ当てるつもりはないからの」


「は?」


「“最後に当たれば、それは名推理”という名言があってな」


「絶対マヨイさんのオリジナルでしょ、それ」


 


写真は喋らない。けれどそこに写る家族の視線が、何かを訴えているような気がしたマヨイ以外の誰かには。


……たぶん。

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