第7話屋根裏部屋の鍵

 「屋根裏、ですって?」


ミナが目を丸くしたのは、執事・東堂の一言からだった。


「ええ、先代が亡くなる数ヶ月前、屋根裏に何かを運び込んだようでした。重たい箱のようなものを持っていかれたのを、一度だけお見かけしています」


「なぜ今その重要な情報を……!」


「聞かれていなかったもので」


「正論……!」


マヨイは早速、家中の間取り図とにらめっこを始めた。


「ここじゃな。この廊下の突き当たりにある天井裏。押入れの上に“秘密の梯子”がある」


「“秘密”というより、普通の収納階段ですけどね……」


2人は懐中電灯を片手に、廊下の天井に隠された階段を引き下ろした。ギイ、と軋む音がして、薄暗い天井裏が口を開ける。


「いざ、屋根裏へ!」


「本当に登るんですか……?」


「もちろんじゃ。ここに“失われた真実”が眠っておる可能性は大いにある!」


 


ぎし、ぎし……。


埃まみれの屋根裏は、懐中電灯の明かりだけが頼りだった。古びたトランク、使われなくなったラグ、古新聞、謎のガラクタそのなかに、確かに“それ”はあった。


「これは……将棋盤?」


「おおっ、かなり年季の入ったものじゃな……しかも、十数枚もある!」


「祖父、将棋好きだったんですよ。弟子もいたみたいで……」


「それは初耳じゃな。なぜもっと早く教えぬ……!」


「聞かれてなかったもので」


「正論!」


 


将棋盤の奥にあった古びた箱。鍵はかかっていなかった。そっと開けると、中には手紙が数通と、使い込まれた手帳が入っていた。


「遺言状……じゃないですね。これは日記……?」


「うむ。先代の字じゃな。“令和三年 秋。ミナの成長を見るのが楽しみだ”……ふむ、これは……なかなかの爺孫(じいまご)愛」


「読まないでくださいっ!」


マヨイはわざとらしく咳払いして、さらに手帳をめくった。


「……だが、これは“遺言状の下書き”とも取れるのう。“遺産は無駄に争わせたくない”とか、“思い出の品を誰に託すか悩んでいる”とか……」


「じゃあ、遺言状はこの延長線上に……」


「ありうる。だが、ここには最終稿はない。“未完の想い”じゃな」


 


埃まみれになって屋根裏を後にしたマヨイは、玄関ホールで腕を組んだ。


「つまり、遺言状はこの日記のあと、何らかの形で“仕上げられた”のじゃ。だが、まだ屋敷のどこかに隠されておる可能性が高い」


「隠された理由って、やっぱり……?」


「わからぬ。ただ一つ言えるのは“誰かが隠した”のか、“先代自身が隠した”のか、その見極めが鍵となる」


「それにしても……将棋盤、あんなにいるかな」


「ふふふ、将棋とは“二手三手先を読む”ゲーム。つまり、先代の思考そのもの……」


「なんか上手いこと言いましたね、今」


「わしはたまに光るのじゃ」


 


屋根裏は語らなかった。だが、そこにあった“思考の痕跡”は、確かに次の一手へとマヨイを導いていた。


……たぶん。

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