第6話焼却炉の灰に

 「……これは、焼いたな」


マヨイが仁王立ちでそう呟いたのは、屋敷の裏手にある古びた焼却炉の前だった。

赤茶けた鉄の扉は少し開き、内部には灰がうっすらと積もっていた。


「ええ、確かに先代が生きていた頃から、ここは使われてましたけど……」


「ほう、となると“証拠隠滅”にはちょうどいい場所じゃ」


「待ってください、まだ何も燃やされたって決まってませんよ」


「いや、わしの鼻が言っておる。これは“封筒を燃やしたニオイ”じゃ」


「鼻って万能なんですか……?」


ミナが若干引き気味に後ずさる中、マヨイはずかずかと焼却炉の灰を棒でつついた。


「……ん? これは……?」


「何かありました?」


「ほら、これ。焼け残りの紙片じゃ。字が……うっすら、“い”?」


マヨイがつまみ上げたそれは、焦げた茶封筒の一部のようだった。


「まさか……これ、遺言状の……!」


ミナの顔が強ばる。だが、マヨイはすぐさま頭を横に振った。


「……違う。これは、“電気代の請求書”の封筒じゃな。前にも見たやつじゃ」


「またそれ……」


「うむ、つまりナポレオン(猫)がくわえて持っていったあの封筒、ここに持ってきていた可能性が高い」


「それ、猫にとって焼却炉は“保管場所”ってことになりますけど……」


「ふふふ……猫は、火の番をする生き物でもある。昔は“火伏せの神”として」


「それって完全に民間信仰とかそういう話ですよね?」


「とにかく、ここは怪しい。封筒の焼け残りがある限り、真相はこの灰の中に眠っておる」


マヨイは勢いよく腕を振ったが、灰が舞って自分の顔にかかり、ひどくむせた。


「げほっ……けほっ……! ……この現場は、危険じゃ……!」


「灰かぶってるだけですよ」


「証拠の灰じゃ!」


マヨイは鼻の頭を真っ黒にしながら言い張ったが、どう見てもただの掃除不足だった。


 


このときはまだ誰も知らなかった。

マヨイがうっかり拾い損ねた“もうひとつの紙片”が、数日後、とんでもない波紋を呼ぶことになるとは


……たぶん。

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