第11話

「・・・・・・それで、いつ苦悩と悲嘆と。後何でしたっけ。それが来るんですか」

 至って静かな、明日の天気でも尋ねるかのような口調。美少女は自身へ向けられた杖に手を伸ばし、その光を遮った。

「な、何故効かんっ」

「ああ、この光がそうですか。生ぬるい感覚があるので、ここから熱でも出ているかと思ってました」

 美少女は両手をかざし、1人で頷いた。

「この程度で絶望する方がいるとすれば、きっと本当の地獄を見た事が無いのでしょうね。1度、ご自身で試してはいかがですか」

「何、を・・・・・・」

 美少女が宝石に触れると光の向きが反転し、大臣を包み込む。その途端体が崩れ、床に倒れてけいれんをし始めた。

「たわいもないですね。この程度で倒れるとは、お大臣様とも思えません」

「その呼び方だと、意味が違ってくるだろ。それで、お前自身は大丈夫か」

「ええ。精神攻撃を仕掛けてきたようですが、一体私を誰だと思ってるんでしょうね」

「元勇者だろ」

 魔力を殆ど失ったとは言え、その肩書きは伊達では無い。人の生み出す魔法程度では、彼女の心を苛むなど不可能に近い。

 それを分かっていても、冷静さを失ってしまったが。


 馬鹿でかい棍棒片手に出てきた店主に縄を持ってきてもらい、2人で大臣を縛り上げる。というか、その棍棒で何をしようと思ったんだよ。

「さて、こいつはどうする」

「なますにして、川へ流せば良いのでは」

「簡単に言いやがる。いっそ穴にでも埋めて・・・・・・」

 派手な勢いで扉が開き、人が飛び込んできたと思ったら床に転がっていた剣士に躓きそいつも転がっていく。

 しかし俺も店主も構えはしないし、美少女も動きはしない。

 理由はただ1つ。見知った顔だからだ。

「え、あれ? あの、何故先輩達が」

「話は後で聞く。・・・・・・お前ら、そいつを連れて外へ出ろ。それで、絶対他の連中を中へ入れるな」

 剣士達は激しく頷き、大臣を引きずって外へ出ていった。俺が言うのもなんだが、もう少し運び方という物があると思う。

「それで、お前はどうして正座をしてるんだ」

「いや。何かあれば正座と、先輩達に教わったので」

 床に正座をし、姿勢を正す若い男。

 それと向かい合う俺達。

 確かに過去、こういう光景が何度もあったのを思い出す。

「さすがにそういう訳にもいかないだろ。カウンターに座れ」

「はっ、直ちに」

「親父さん。果実水を全員分」

 うっそりと頷き、果実水をグラスに注いで店の奥へ戻る店主。棍棒を置いていくなよ。

「それで、一体何の用だ。王子様が」

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