第8話
気持ちと夢。そして現実は全く別な物で、つながってはいない。いや、気持ちはつながっているかも知れないが、それだけあっても仕方ない。
「老朽化が進んでいる、ですか」
冒険者ギルドの帰り。いつものように孤児院を訪ねると、院長先生に申し訳なさそうに告げられた。相当言いにくい話なのは確かで、とはいえ本当は俺が先に気付くべきだった。
「分かりました。直すか建て替えるかは、1度大工に相談して下さい。金は俺がなんとかします」
杖で突かれる足下。分かってるよ、俺だって。
「それと、補助金が出ないか調べてみます。よし、なんかやる気が出てきた」
「あなたの悪い癖が出てきましたね。追い込まれるほど、より喜びを感じる性癖が」
「変な言い方をするな。いざとなったら、竜を1匹か2匹狩ってくれば良いんだろ」
「最近は希少種に指定されて、特別な許可が無い限り狩る事は許されてませんよ」
そんな話し初めて聞いたというか、冒険者の憧れと言えば竜退治。それが許可制になったとは、これも時代という奴か。
家に帰り、先日渡された立て替えの見積もりを見つめる。これは家の見積もりで、孤児院の見積もりとはまた別。また孤児院の見積もりは、この額の数倍ではきかないだろう。
「良い知らせと・・・・・・」
「悪い知らせからお願いします」
少しは空気を読めよ。面倒な台詞なのは、俺も自覚してるが。
「まず孤児院の建て替え費用だが、今の手持ちでは間違い無く足りない。ただこの家の建て替えは、手持ちの半分程度で足りる」
「どちらも今すぐ住めなくなる訳ではないので、慌てる必要は無いでしょう」
「まあな。とはいえ、金が足りないのに変わりは無い」
本当にどうしてもなれば、昔手に入れた武器を売りさばくしかない。世界に2つと無い希少な物も幾つかあり、さすがに立て替え費用の足しにはなるだろう。
「あなたにとって武器収集は、唯一の趣味ではないのですか」
「唯一ではないし、今更使わない物ばかりだ。半分呪われてるような物もあるしな」
一時的に筋力を上げるが、代わりに体力が秒単位ですり減っていく長剣。竜の鱗すら貫くが、全身に苦痛が走り数日間は寝込む槍とか。
昔は短時間だけ使う事もあったが、今はそれを使うような魔物と戦う機会が無い。また竜討伐が許可制になったのなら、他の強大な魔物もその内規制が入るはず。
ますますそんな武器を保有しておく理由がない。
「ただ子供達は今の状況を敏感に察しているようです。生い立ちが生い立ちですからね」
「菓子や肉を持っていけば良い。という訳でも無いんだよな」
「そこで私に、考えがあります」
あまり聞きたくないんだよな、こいつの考えという奴は。
今まで、ろくな話であった試しが無いし。
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