第2話
街道沿いを歩いて街中へと入り、冒険者ギルドの扉をくぐる。
すぐに視線を向けられるが、それはいつもの事。歯牙にも掛けず、依頼の貼られた掲示板を眺めていく。
「この辺か」
他のギルドはいざ知らず、このギルドはどの依頼を誰だろうと受ける事が出来る。資格要件は、冒険者として登録されているか否かのみだ。
受付でも身の丈に合っていないと断る事は無いし、上手くはまれば初心者が一攫千金を得る場合もある。
その対価は己の命で、見極めるのは自分自身だ。
ちなみに俺が剥がしたのは、かなり強い魔物が出る場所での素材集め。本来ならそれなりの冒険者が徒党を組んで受ける依頼だが、正直俺としては物足りないくらいだ。
「これを頼む」
「はい、確かに」
愛想の良い笑顔で手続きを済ます受付嬢。仲間の冒険者が死んだと報告しても、この笑顔だからな。
「記載にない希少な素材がありましたら、当ギルドでも受け付けておりますので」
「ああ、その時は頼む」
そういう場合にここへ持ち込むか、個人的なつてで売りさばくかは個人の裁量。ギルドはさほど高額では買い取らないが、胡乱な業者に持ち込んで買い叩かれるよりはまし。
とにかく全ては、自己責任だ。
「元勇者の従卒ごときが・・・・・・」
この時点で、馬鹿げた台詞を吐いた男の頭を掴んで持ち上げる。オークくらいの大男だが、この程度は人形を持ち上げるのと対して変わらない。
「たまにリンゴを潰して果実水を作るんだが、お前の頭を潰すと何が出来るのかな」
腕を叩いてくるが、構わず頭を締め付ける。とはいえ潰して何が出来るのかを知りたい訳でもないので、扉まで行って外へ叩き出す。
ギルド内は静まり返るが、それは一瞬。すぐに元の喧噪へと戻り、今の脇狂言は無かった事となる。
何せ場所が場所。荒事は日常茶飯事で、受付嬢ではないが人の命など世の中で一番軽いと思っている連中の集まりだ。
「今日も荒れてるね」
軽く肩を叩かれ、振り向くと猫耳の小柄な少女が楽しげに笑っていた。
とはいえこの見た目を侮れば、結果はさっきの男どころではない。
「てっきり練り味噌にでもするかと思ったよ」
「ネリミソ?」
「東方の言葉。今日もあの子は、孤児院に?」
「ああ」
奴の預け先は幾つもあるが、あそこが1番落ち着く様子。俺も家へ1人で置いておくよりは、気が休まる。
「お前も冒険者に復帰するのか」
「まさか。届け物のついでに、君がいないか見に来ただけだ。それと今度、あの子を連れて酒場に来てよ。日付はまた連絡するから」
「ああ」
「後はこれを、渡しておいて」
手渡される小さな革袋。大きさの割には重みがあり、希少な金属か宝石の類いか。
「あのな」
「君があの子に贈り物をするとか、そういう細やかな事は求めて無い。ただ、あの子の幸せを願っているのは君だけではないって事」
「分かってるさ、それは」
あの時の仲間は質こそ違えど、誰もがお互いを尊敬し大切に思っていた。それは今この時も、変わらない。
「君は生きて帰って、無事な姿を彼女に見せるんだよ」
「ああ」
「まあ、その辺にいる魔物が君を殺せるとは思ってないけどね。いるとしたら、あの時の仲間くらいかな」
今すぐ試しますとか言わないだろうな、こいつ。
町を出て、森の中を歩く事しばし。草原と言う程でもないが、少し開けた場所に出る。この辺りは珍しい薬草や鉱物が多く、それ故素材集めの依頼としてほぼ毎日掲示されている。
しかし今いるのは俺と、遠巻きに様子を窺っている魔物くらい。つまり危険度が高いので、ここに来る冒険者はかなり限られる。
魔物もその辺は分かっていて、単身でここに乗り込むのは無謀な輩か相当に腕の立ついかれた輩。
襲ってこない所を見ると、今のところは後者と認識しているようだ。
俺も危害を加えない限り、手を出すつもりはない。戦って負けるつもりはないが、絶対という事はないのだから。
「よし」
かなり値の張る鉱物を1つ見つけ、その側に生えていた野草を少し摘み取る。鉱物の何かが作用して生える植生らしく、買い取り額も高いが何より味が良い。
「こんな所か」
全部取っては他の冒険者に悪いので、適当なところで切り上げる。まだ日は高いが、依頼分は十分に収穫できた。
今日の所は、早めに帰るとしよう。「
「っと」
突然目の前に降ってくる、双頭の大猪。牙を肘で受け流し、拳を突き立て喉を潰す。もう片方は後ろ回し蹴りで首を叩き折り、飛んできた硬質の尾を肘でねじ伏せる。
「・・・・・・少々油断したな」
好事魔多しというか、気を抜いた隙を狙われたよう。正直大した魔物でも無いが、それでも一歩間違えれば今頃こいつの餌になっていた。
緩やかな生活に慣れるのは良い事だが、こういう場面では良し悪しだな。
「で、こいつはどうするかだ」
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