第8話

『AMANE』と書かれたプレートの掛かったドアを開けると、当たり前のようにドロップがくつろいでいた。

「クッション貸そうか?」 

 床に座り、本棚にあった本を読んでいる彼に声をかける。

「お気になさらず」

 ドロップは開いていた本を閉じた。

「読まなくていいの?」

「はい。雨音さんが来るのを待っていただけなので」

 ドロップはそう言い、私を見た。

 部屋の真ん中に折り畳み式の小さなテーブルを広げ、ドロップと向かい合うようにして座る。(先ほど断ったクッションを、ドロップはちゃっかり使用している)

「雨音さんは、いつも学校ではあんな感じなのですか?」

「あんなって?」

「常に読書をしているように見えました」

 学校にいる間、ずっと近くにいたのか。姿を自由に消せるって便利だな。

 私はそんなことを考えながら頷く。

「グループワークの時間、一言も話していないかのように見えましたが」

「相づちはしてたよ?」

「移動教室や掃除の時間、一人で行動してましたね」

「そうだね」

 きっとドロップは、人との関りを持たないことに不満があるのだろう。涙を流すことが遠のくから。

 そう思った私は、リュックの中から一冊の本を取り出した。

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