第9話

「図書室で借りておられましたね」

 ドロップがそう言う。

「この本、感動するって有名なんだよ」

「ほう......」

 ドロップは本を受け取り、ペラペラとページをめくる。

「悲しみに分類されますね」

「ネタばれしないで」

「これは失礼」

 ドロップはぺこりと頭を下げる。

「人と関わらなくても涙は流せると思う」

「ですがこれでは、ジャンルが限られてしまいます」

 怒りや不安はどうするおつもりですか? 

 ドロップは、あくまで穏やかにそう続ける。

「その時はそういう本で試すよ」

「ですがそれでは、ひどく遠回りになるかと思われます」

「いいよ」

 私は頷く。

 確かに、ドロップの言う通りかもしれない。今の私に、本を読んで涙を流す姿は想像できない。

 それでもいい。もしかしたら運よく泣けるかもしれないじゃないか。とにかく、人とは関わりたくない。

  

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