第5話

正面玄関で学校指定の上履きに履き替え、階段を上る。上って一番右端にある教室が、二年A組だ。

 私は引き戸を開け、窓側の前から三番目の席に座る。

「望月ちゃんおはよー」

「おはよ」

 振り向いて挨拶してくれたのは、窓側の二番目に座っている浜田 美空はまだ みくちゃん。皆からはみっちゃんと呼ばれている、元気で明るい子。大きなたれ目と少しぽっちゃりしているところが可愛いと、男子が噂しているところを何度か見たことがある。

「みっちゃん優しいね。望月にも声かけるんだ?」

 少し低めの声に、私は思わず下を向く。声の主は、窓側の一番前に座る中野 麗華なかの れいかちゃん。ツインテールの似合う、名前負けしないくらい綺麗な子。でも、私はこの子が苦手だ。私にだけ言葉がきつかったり、今みたいにちらっと私を見て鼻で笑ったりするから。最初にやられた時は怖くて震えていたけど、今はその付き合い方も分かってきた。

 ひたすら聞こえていないふりをすればいい。

 私は気を紛らわせるため、リュックの中から本を取り出した。



 

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