第2話

「涙を流すには、人との関わることが一番良いと思われます」

 ドロップは、私と向かい合った状態でそう言った。

「ならちょうどいいや」

 私はドロップに背を向け、クローゼットに掛かったセーラ服を取り出す。

「これから学校だから」

「素晴らしい」

 ドロップは芝居くさい拍手をする。

「今から着替えるからこっち見ないで」

「これは失礼」

 彼は頭を下げ、私の前からすっと姿を消した。

「人間じゃないんだ……」

 少し驚いだが、不思議と怖いとは思わなかった。


 セーラー服に着替えた私は、洗面所へ足を進める。ぬるま湯で顔を洗い、お母さんが使っている化粧水を少々拝借する。前下がりボブになっているこげ茶の髪を丁寧に整える。

 リビングへ行くと、お母さんが朝ご飯をテーブルに並べていた。バターのついた食パンと、スクランブルエッグにウインナー。どれも私の好物だ。

「おはよう」

 私が言うと、お母さんはいつものように笑顔を浮かべた。

「おはよう。今日は早起きだね」

「いつも早起きだよ。二度寝してるだけ」

「今日は二度寝しなかったんだ?」

 今日はドロップがいたから二度寝する暇がなかったの。

 まさかそんなことは言えず、おとなしくテーブルの椅子に座った。お母さんは、マグカップを両手に私の向かいに座る。中にはホットミルクが入っていた。

虹凪になは?」

 虹凪は、4歳離れた妹だ。

「お父さんが送って行ったよ。放送当番で、早く行かないといけないんだって」

「そっか」

 私は食パンをかじる。

「虹凪ね、お姉ちゃんみたいになりたいんだって」

「またそれ?」

 食べていた食パンをテーブルに置き、私はお母さんを見た。

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