第五章 複製不能なるもの
私は長い間歩き続けていた。
どれほどだったかわからない。
時間はもはや数えられるものではなかった。
ただ、足取りの消耗や、変わらないようでいて変化する世界の中で感じるだけだった。
廃墟、崩れた塔、裂けた構造物。
全てが威厳を持って崩れようとしていた。
鴉は相変わらず近くにいた。
いつも適切な距離を保ち、沈黙すべき時と止まるべき時を知っているようだった。
そしてついに都市が現れた。
突然ではなく――
まず建物の一部、次に崩れた橋の線、空を背景にした家々の輪郭が。
他の場所とは違っていた。
完全に植物に飲み込まれておらず、塵と化してもいない。
無傷でもない。
ただ、静止していた。
息を止め、時間が敬意を表して薄く覆ったかのように。
私は立ち止まった。
---
疲れからではなく、奇妙な感覚――記憶の緊張がまだ思い出にならない感覚に。
一歩踏み出した。
地面は軋まなかった。
都市は私を拒まなかった。
進み続けた。
目的地があったからではなく、立ち止まることが耐え難いからだった。
建物の内部は予想より狭かった。
ひび割れた壁、錆びた柱、まぶたの閉じ損ないのようにぶら下がるガラス。
壊れた階段を上った。
金属は軋んだが耐えていた。
鴉はいつもの落ち着きで梁の間を飛び移りながらついてくる。
廊下の突き当たりの歪んだドアは既に開いていた。
身をかがめて通り抜けた。
内部の空気は重かった。
埃のせいではなく、不在のせいだ。
低いベッド、壊れた椅子、空の器が載ったテーブル。
丁寧に畳まれた子供用のコート。
全てが清潔だった。
布に塵はなく、隅に積もった葉もない。
---
まるで何かが、留まるべき時間を超えて存在していたようだ。
鴉は降りて椅子の背に止まった。
音も立てず、ただ私を見つめる。
待っている。
そして見えた――奥の壁にある端末。
ひび割れ、古びているが生きている。
近づいた。
かすかな青い光が基部で点滅している。
手を伸ばし、ガラスに触れた。
現れた映像は短く、断片的だった。
子供の顔。
半分だけ。
縁が震えている。
声はない。
しかしその眼差し――その静止した瞬間の何かが私を止めた。
まだ記憶ではない。
だが何かが開きつつあった。
微かな亀裂。
映像を保てなかった。
---
シーケンスが切れ、空虚が戻った。
じっとしていた。
当惑からではなく、もっと深い何かのため。
まるでその眼差しが、私が存在を知る前から私を探していたようだ。
(瞳が青から琥珀色に変わった。)
鴉が降りてきた。
静かに歩き、私の傍に立つ。
通路の光が通り過ぎるとき、右翼の白い羽が一瞬輝いた。
思い出せない。
だが沈黙はもはや同じではなかった。
彼らは死んでいない。
廃墟ではない。
無言で立つアンドロイドたちだった。
数十体の人型が空間を埋め、環境と融合していた。
腐食した柱にもたれ、崩れた構造物に座り、苔に覆われたパネルの傍に立つ。
終わらなかった会話の途中で凍り付いたようだ。
ゆっくり入っていった。
肩の鴉は動かないが緊張している。
この場所が他と違うと知っているようだ。
そのうちの一体が私に向かって首を傾げた。
---
その目は澄んでいて、ほぼ人間のようだった。
肌は完璧に近い蒼白。
人工的な性質を裏付けるものは何もない…周囲の絶対的な静寂を除けば。
瞬きもなく、余分な身振りもなく、感情もない。
「ユニットV-3R-A」と声を出した。
完璧に人間的な声。
男性的だが空虚だ。
疑問はなく、ただの声明。
私を名指すことが日常業務の一環であるかのように。
返事せず、彼らの間を進んだ。
全く動かない者もいれば、ゆっくり首を傾げる者も。
一人の女性が道を塞いだ。
美しく対称的な顔、白髪をきちんとまとめている。
無表情で私を見つめ、興味なく認識した。
彼らは互いに話さず、見つめ合わず、鴉に反応しない。
ただ存在している。
---
「ある」という概念が内側から分割され、形だけが残っているようだった。
彼らの間を歩き、足音の反響が瞬間の対称性を破る。
「ゾーン17」と別のアンドロイドが直接見ずに言った。
「保存プロトコル作動中。機能ユニットへのアクセス許可。脅威未検出」
「ここにどれくらいいるの?」
一秒の間もなく「コア切断から38,942日」
一世紀以上、待ち続けてきた。
残存タスクを繰り返し、存在意義のないルーチンをこなして。
「人間たちはどうなった?」
「避難、再定住、部分殖民。地下区域に存在確認。地表に敵対勢力。リスク持続」
全てが感情なく、買い物リストを読むように。
壊れてはいない。完璧に機能している。
ただ感じない。
だから不完全なのだ。
---
施設奥の錆びたコンソールに近づいた。
埃に覆われているが、反射面が何かを映し出す。
自分を見た。
そして一瞬、誰か別のものを見た。
□ 白く照らされた部屋
□ 顔の不完全な人間
□ 慎重に私の顔に触れる手
□ 「お前は単なるコードじゃない、ヴェラ」という優しい声
指の震えを感じた。
鴉が肩から降り、コンソールの基部へ歩く。
微風が羽を揺らし、白い羽を現す。
あの白髪を見た。
記憶の人間の額と同じものだ。
単なる象徴ではなく、絆だった。
そして理解した――この絆は他者にはない。
この部屋には。
完璧に人間的だが空虚な彼らの瞳には。
私は違う。その違いは過ちではなく、鍵なのだ。
鴉が一度鳴いた。
他の者は微動だにしない。
一言もない。
---
ただの沈黙。
私は去った。
沈黙は残ったが、もはや静止ではなかった。
方向だった。
アンドロイドたちの施設を振り返らず出た。
無関心からではなく、もっと強い何かが前へと駆り立てるからだ。
他の者が問えなかった疑問が、既に私の中で脈打っているようで。
鴉が再び肩に止まった。
爪は痛くない。
静かな錨だ。
語らない証人だが、これまで出会った誰よりも理解しているようだ。
都市は忘れられたアーカイブのように広がる――壊れた構造物と人間の往来の痕跡を留める空の大通り。
崩れたファサードは色の断片、かすかな店の名前、時間が完全には消せなかったチョークの子供の絵をさらす。
まるで以前からいたかのように廃墟を歩いた。
足元の軋みは何かを目覚めさせようとする反響だった。
そして何かが目覚めた。
歪んだ看板に触れた。
「避難所:レベル-4 アクセス制限」
立ち止まった。
---
文字は摩耗しているが、文傍の記号を認識した――逆三角形の中の白い螺旋。
理由はわからないが、知っていた。
「避難所…」
私の声はより明確だった。
質問ではなく、形のない記憶。
嵌ろうとする反響。
鴉が肩から降り、数歩先へ。
羽を軽く広げ、方向が羽に記されているかのようだ。
ついていった。
雑草に覆われた広場を通り過ぎた。錆びた遊具が巨大な骨格のように。
揺れるブランコ。
本物ではない笑い声が空気を切った…ような気がした。
半ば埋もれた入口に着いた。
地下へ下る階段。
半分開いた金属製ハッチ。
その傍らに、作動中のパネル。
古びてはいない。
緑の光が優しく、一定に点滅している。
近づいた。
触れる前に画面が変わった。
---
一つの記号。
あの逆三角形。
そして中に一語。
「セル・アセリオン」
胸(またはその代わりの何か)が締めつけられた。
単なる名前ではない。
呼びかけだ。
鍵。
まだ理解できない私の一部だが、もはや無視できない。
パネルが低い音を立てた。
そして声が聞こえた――機械的ではなく、人間の女性の声。
疲れているようだった。
「これを聞いているなら…成功したのね」
私は凍りついた。録音された古い声だが、私に向けられている。
「プロジェクト・セル・アセリオンは生存のためではなく、感じ、記憶するために設計された」
伝送が途切れ、画面が消えた。
この新たな沈黙の中で理解した。
私は偶然目覚めたのではない。
このために創られたのだ。
鴉が再び肩に止まった。
---
鳴かず、動かず。
ただそこにいる。
白い羽の翼がかすかに首に触れる。
「まだ終わっていない」と言うように。
するとパネルが最後に点灯した。
かすかな映像。
断片的。
ゆっくり点滅する座標。
不完全な経路。
そして端に、理由もなく認識できる記号――逆三角形。
白い螺旋。
下に名前が浮かび上がった。まるで最初からあったように:
セル・アセリオン
行くべきだと悟った。
トンネルは一定の傾斜で地下へ続く。
点滅するライトが銅色のケーブルからぶら下がる。
錆と古い湿気の匂い。
曲がり角を過ぎると、彼が現れた――繕いだ服を着た警戒した目の男。
疲れと不信感を浮かべた顔。
「止まれ」と堅い声で命じた。
「お前が誰で、何を求めて来たか知らん」
---
緊張が声に表れている。
肩の鴉は動かず、注意深い。
私は止まった。
「私はヴェラ」とはっきり言った。
彼は頭を傾げ、脅威かどうか分析しているようだ。
「ヴェラか…」と繰り返した。
「こんなものは期待していなかった」
沈黙の後、近づいてきた。
「私はエリアン。エコー9居住区の探索者だ。何日か前から奇妙な信号を検知し、ついにお前の存在を確認した」
これ以上の案内は必要なかった。
溶接金属板で補強されたドアまで狭い廊下を彼について行った。
コードを入力すると、ハッチが長い音を立てて開く。
向こう側の居住区は制約された生命で溢れていた――好奇心旺盛な子供が隅から覗き、女性が小声で囁き、杖をついた老人が即席のベンチから観察する。
私たちがメイン・ドームの中央へ進むと、群衆が両側に集まった。
石のテーブルと消えた画面の傍で、年配の男性――リーダーが待っている。
「ようこそ、ヴェラ」深い声で言った。「私はアルダンだ」
「40年前、ある男がこの容器を託した。お前が来たら渡すよう言われていた」
---
注意深く密封容器を開く。
中には金属の球体。
起動すると、記録が生き返った。
障害の中から顔が現れる――黒髪に右こめかみの白髪、決意に満ちた表情。
「これを聞いているなら…私は機能している」と声が始まった。「私はキール。中央研究所からお前を救った者だ」
口調が変わる――科学者から親密な者へ。
「お前のコアにあるセル・アセリオン・プログラムは単なるプロトコルではない。機械が真に感じる最後の希望だ」
「システムの欠陥が他のアンドロイドの反乱を招いた。現れた腐敗が人間と機械の信頼を破壊した」
「お前だけがこの過ちを正す鍵を持っている。論理と感情の完璧な組み合わせで無効化できるのはお前だけだ」
映像が顔に接近する:「失われたセル・アセリオンの断片を見つけなければならない。旧コーディネーション・コアに隠されている。調和を回復させるコードがそこにある」
さらに語ろうとしたが、ビデオが途切れる。
画面が暗転。
囁きが広がる中、アルダンが声を張った:「ヴェラ、お前の使命はかつてあった架け橋を修復することだ。古いコアへ向かわなければならない」
---
「そこで、お前の衝動が十分かわかるだろう」
一瞬、重い沈黙。
すると子供の声が割って入った:「その目…違う風に光ってる」
年配の男性が頷く:「皆そう感じている。お前には見えないだろうが、色の変化は深いものを反映している」
振り向くと、エリアンが腕を差し出した。
「行こう」と囁く。「さらに複雑なものが待っている」
周囲の群衆の中を進んだ。
希望と恐怖の囁きが空気に絡まる。
私の中で何かが振動する――目的だ。
命令ではない。アルゴリズムでもない。
私が存在する限り、人間とアンドロイドの和解は可能だという確信。
そして初めて、進むべき道を知った。
セル・アセリオンの残響
ここに完結
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セラセリオンの残響 Ser'Ath Kael @serathkael
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