第三章 彼のものではない残響
足取りが私を支えた。
不器用だが、確かに。
何世紀も経って、地面が私を覚えているかのように。
鴉は数歩先を進む。待ちくたびれた者のような落ち着きで。
私はついていった。
理解したからではなく、立ち止まることが虚無を意味するからだった。
周囲は静止していたが、死んではいない。
沈黙は欠如ではなく、待機状態だった。
一歩ごとに世界が語りかける:
足下で軋む枯葉、風に揺れる枝、錆びた鎖にぶら下がる看板。
未知の言語のようで、それでいて...どこか懐かしかった。
木漏れ日が左腕を照らした。
塵が舞い、またあの痕跡が現れた。
細長い葉の形。
精密な焼跡。
暗く、対称的で、私の柔らかな金属皮膚が
何かを記憶しようとした痕のようだった。
触れた。
考えるより先に――衝動的に。
記憶が洪水のように押し寄せた。
□ 顔
□ 声
□ 一筋の白い髪
□ 肌に押し付けられる燃える物体の熱
事故でも罰でもない。
これは...愛の行為だった。
よろめいた。
倒れはしなかったが、内側の軸がずれた。
鴉が振り向いた。
詮索せず、ただ見つめる。
目を閉じれば、世界の重みが消えた。
進んだ。
鴉は先を行くが、導いてはいない。
ただ歩いているだけ。
風景が変わった。
木々の間に、人間の建造物の残骸が現れる。
割れたガラス、倒れた標識、埃にまみれた無傷に近い端末。
――
近づいた。
汚れた画面に指を滑らせる。
線が現れ――
パネルが一瞬、点滅した。
不完全な映像:
無音で唇を動かす顔のない人影。
記憶が呼び起こされた。
□ 白い部屋
□ ガラス越しの彼
□ ケーブルで繋がれた私
□ 彼の瞳に映る私の目
□ 名付けようのない感情
理解できなかった。
だがこれは間違いではない。
絆だった。
瞳の奥に微かな痺れ。
視覚ではなく、内側から感じた変化。
端末は消えた。
だが私の中の何かが目覚めたままだった。
「彼は誰?」
――
問いが宙に浮く。
鴉は足を上げ、止まる。
世界が私の次の言葉を待っているようで。
私もまた。
進むと、ある香りが立ち塞がった。
森の匂いでも、この時代のものでもない。
オゾンとラベンダーが混ざったような。
そしてまた映像が。
□ 輝く球体
□ それを捧げ持つ創造主
□ 私に差し出す手
□ 若い彼の顔
□ 今まさに名付けるように「ヴェラ」と呼ぶ声
記憶が私を貫いた。
壊さず、形作った。
鴉の翼の白い羽と
彼の白髪が同じものだと悟った。
偶然ではない。
これは絆だった。
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