第30話 社畜たちの話

「……あんたたち、本気で言ってんの?」


 アモールとの婚姻を勧めてくる四天王に、改めて確認する。


「本気だっ」

 自棄になって叫ぶ赤鬼風。

「だってこの前は大反対だったじゃっ……ああ~」

 脱力し、憐れなものを見る目つきで四人を見る。


「なんだその顔はっ」

 黄色ドラゴニュートに指をさされ、思わず凛音は肩を竦めた。

「そうよね、所詮あんた達もピラミッドの頂点には逆らえない、ただの社畜なんだわ」

「なんだその言い草はっ」

「そうだぞっ、言っていいことと悪いことがある!」


 納得いかなとばかりに、やいのやいの言ってくるということは、つまり社畜説が正解という証拠。アモールに言われ、仕方なくこのような茶番をしているのだろう。ディーノを捕まえ、命が惜しくば言うことを聞け、というやつだ。まるで子供向けヒーロー番組の悪役のようなチープさに、少しばかり同情する。


「あのさぁ、気持ちはわかるよ? 私も昔、社畜やってたし。でもさ、トップが明らかに間違った選択をしようとしてる時、それを止めるのが、本当の部下ってもんじゃないの?」

 凛音の言葉に、四人が顔を見合わせる。


「あんたたちは本気で、私がアモールと結婚すればいいって思ってるわけっ?」

 強めの言葉で問い質すと、四人はそれぞれの顔を見ながらモジモジし始める。

「……ったく、なんなのよこれっ」

 凛音は額に手を当て軽く首を振ると、

「とりあえず、ちゃんと話さない? ディーノの拘束、解いてよ」

 と、歩み寄った。だが、

「それは出来ぬ!」

「こいつは渡さん!」

 四人から頑なに断られる。


「どうしても助けたいというなら、力ずくで来るがいい!」

「俺たちとの勝負に負けたら、大人しくアモール様の元へ行くという条件でな!」

 各々が武器を構え、凛音を挑発する。なるほど、拳と拳でぶつかり合って、勝敗を付けるという、少年漫画のあれだ。


「ああ、そうよね。それが一番分かりやすいんじゃないかって、私も思ってたんだわ!」

 凛音の目がきらりと輝く。檻の中のディーノが、激しく首を横に振っているのが見えた。

「待っててね、ディーノ! 今自由にしてあげるからっ」

 そう言うと、ポケットからコンパクトを取り出し、開く。


「ぱぴぷぺポニーの、らりるれ輪舞!」

 飛び出したステッキを手に、お決まりの呪文を暗唱する。軽くステップを踏みながらくるくるとステッキを回せば、その体が光に包まれた。

 ぽいん、ぽいん、と生成される戦闘用の魔法服。レースもフリルもいつも通り可愛く揺れて、髪がきゅるんと伸び、トップで纏まる。

 最後に頭の上に大きなリボンが結ばれれば、完成だ。


「涙の雨は、私が照らす! ポニー・レイン=サンシャイン参上!」

 可愛くポーズを決め、ウインクを一つ。


「んんーっ! むぅぅぅ!!」

 ディーノが何か言っている。だが、まったくわからない。


「魔法少女よ、覚悟しろ!」

「それはこっちのセリフだわっ。今日こそ白黒はっきりつけようじゃないっ」

「望むところだ!」

「ぷるぷるぷりずむ きらめきバースト!」

 ポニーがステッキを振るい、四天王に向け技を繰り出す。青ライオンが手をかざし、ポニーの攻撃を防ぐ。

「我らの盾よ! サイレント・エンブレイス!」

 見えない膜に跳ね返され、攻撃が届かない。


「くっ、なかなかやるわねっ。それならっ!」

 両手をかざし、空に向かって叫ぶ。

「煌めく永遠! エターナル・プリズムレイ!」

 ステッキからキラキラと光りの結晶が舞い上がる。やがてそれは星のように上へとあがり、金色の刃が四人へと降り注ぐ。

「砕け散れ! ブレイク・ハートクエイクッ!」

 赤鬼風がそう叫ぶと、金色の刃がすべて砕け散った。


「チッ」

 魔法少女らしからぬ舌打ちをするポニーに、今度は四天王が仕掛けてくる。


「拘束せよ、バインド・リグレット!」

 緑のゴーレムが暗唱すると、地面からにょろりと蔓が伸びてくる。ざわざわと地面を這い、ポニーの足に絡みつく。

「くっ、邪魔よっ! ぷるぷるプリズム、きらりんソード!」

 みるみる間にステッキが大ぶりの剣へと変わる。横にひと凪ぎすると、足元に絡みついていた蔓がぶちぶちと切れ、枯れていく。


「バインド・リグレッド!」

 しつこく植物を差し向けてくる緑ゴーレム。あとからあとから絡みついてくる蔦に、いつしか動きを封じられてしまう。

「くっ、このっ、ああもう!」

 カシャン、と手にした剣が床に落ちる。


「どうした、ポニー・レイン=サンシャイン。息巻いていた割には、あっけないな」

 赤鬼風が勝ち誇ったように笑う。

「冗談じゃないわっ、こんなことで勝った気にならないでよねっ」

 そういうと、目を閉じ神経を集中させる。


「はぁぁぁぁぁっ!」

 ビリビリと体中を力が走り抜けていく。


「この鼓動、届け!――セレスティアル・ハートビート!」

 パンッ! と風船が弾けるような音と共に、ポニーを縛り付けていた蔦が消滅する。


「ほぅ、なかなかどうして。それでは、これでどうだ!」

 青ライオンの掛け声とともに、四人が同時に暗唱を始める。


「砕け散れ! ブレイク・ハートクエイクッ!」

「全てを切り裂け! サイレント・ルアークラッシュ!」

「焼き尽くせ、ジェラス・フレイム!」

「拘束せよ、バインド・リグレット!」


 すべての攻撃を一気に受け、ダメージを食らう。


「きゃぁぁっ」

 飛ばされ、体を投げ出す。さすがに、四人相手は厳しい。このままでは、追いつめられるのも時間の問題かもしれない、と眉を寄せた、その時。


「市原さんっ!」


 あってはならないことが、起きてしまった……。

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