第24話 考えればわかる?話
「ええい、小童め、すっこんでいろ!」
アモールがディーノを遮り、口を挟む。
「そんなことより、ポニー・レイン=サンシャイン。引退すると記憶を消されると言っていたが、あれは真実か?」
そういえば前回、そんな話をしたような気もする。
「……そうね、消されると思うけど? そんな話だったわよね、ディーノ?」
確認すると、ディーノが小さく頷いた。それを見たアモールがググッと拳を握り締め、突き上げる。
「許せん! 私にはそれが許せん! お前が私の存在を忘れてしまうなどっ、お前の中から私が消えてしまうなどあってはならんことだ!」
「……なんでよ?」
眉間に皺を寄せ、軽く突っ込んでおく。
「私との戦いで、お前は成長を遂げた。あんなに未熟だったお前が、力を付け、諦めることなく私に立ち向かってきた。今までの魔法少女とは違う、その目の輝き!」
よくわからないが、どうやらめちゃくちゃ褒められている。
「そしてなにより……あの日の、涙」
アモールが自らの胸に手を置くと、目を閉じた。当時を思い出すかのように、しんみりとした顔で、続ける。
「泣きながら、お前は言った。『社畜になんかなりたくなかった』と」
「ぶはっ」
ポニーが咽る。思い出したくない黒歴史を、アモールは語ろうとしている。
「どんなに働いてもなくならない残業。止まないパワハラ。出来て当たり前、出来なければ生きている資格がないと言われ、仲間たちが次々と倒れていく様を、私は見ていることしかできないのがつらいのだと、お前は泣いていた……」
「ぎゃー! そんな話しないでぇぇ!」
ポニーが赤い顔で喚く。
「夜は眠れず、神経は休まらず、それでも明日がやってくる恐怖に震えながら、お前は社畜であり続け、それでも魔法少女であることも諦めなかった!」
その当時は、とんでもないブラック企業で働いていた。体も心も疲弊し、それでも、働かなければ生活できないと、真面目な凛音は働き続けてしまった。自分さえ頑張ればいい、頑張りが足らないから駄目なのだと思い込み、会社にいいように使われた。
その時の凛音にとって、魔法少女であったことは救いだった。アモールとの戦いはいつだって引き分けだったが、自分の存在を肯定し、価値を感じられたのだから。
あの日、アモールとの戦いの最中に心が壊れたのは、放たれた些細な言葉。
『お前如きが私を倒せると信じているのなら、それは愉快な話だな!』
ありがちな、魔法少女に対する敵ボスのセリフだろう。だがあの日は、アモールのこの言葉を聞き、凛音の中で何かがポキッと折れてしまった。職場での毎日を思い浮かべ、努力も報われず、傷付いた仲間も救えない自分の不甲斐なさに気付いた。
お前如きが……。
そうだ。自分には何の力もない。会社をよくすることも、倒れ行く同僚を救うことも。魔法少女は正義の味方のはずなのに、誰一人救えない。
急に泣きだした凛音に、アモールは明らかな動揺を見せる。敵同士なのだから、魔法少女を泣かせたとて、どうでもいいのではと思うが……。
『なっ、なにも泣くことはないだろうっ! お前はお前の正義のために戦っているのだから、自分を信じて戦い続ければいいのではないかっ?』
冷静に考えれば、「いや、あんた敵じゃん? なにフォローしちゃってんの?」なのだが、その時の凛音にとっては、何故かアモールの一言が胸に染みてしまったのだ。自分を信じて進めばいい、というその言葉に。
「ポニー・レイン=サンシャインよ……あの時のお前の涙は、美しかった」
アモールの話を聞きながら、当時のことを思い出す。
「……そう。私はあんたの一言で目が覚めた。あんな会社でいくら頑張ったって無駄なんだ。私の頑張りを、あの会社の連中は絶対に認めたりはしない。ハートブレーカーの、暗黒の王であるアモール・ヴァンデロスですら、私に敬意を払おうとしてくれているのに、人間であるあの連中はそれ以下なんだとやっとわかった。だから速攻で辞職して、今の仕事に就いたの。それに関して言うなら、私はあんたに感謝してるわ、アモール」
素直に感謝を述べる。
「では、私の妻に……」
「だからさぁっ!」
一呼吸置いて、声を荒げる。
「なんでそこから急に『妻』とかいう話になるのかがわかんないっての!」
「泣きながら戦うお前を見た時、私の中でなにかが動いたのだ! あの日を境に、私は変わった。“社畜”なるものがなんであるのか、そこからお前を救うためにはどうすればいいのか、そればかりを考えるようになった!」
「……は? 私を……救う?」
どんどんおかしな方へと進んでいく。
「そして答えを導き出した。私が変えればよいのだと!」
「はい?」
「この世界から、社畜なるものを消し去ればいい! いや、いっそ魔法少女をやめて私の妻になればいい! 我々は戦いを放棄しよう。さすれば、そこにいるコル・イラディアの若造の目的も達成できるのではないか?」
確かに、アモールが他世界への侵略をやめるのであれば、魔法少女は必要なくなる。しかし、そんなことが可能だと?
「そんなの納得できるわけないだろうがっ! ポニーは渡さない!」
ディーノがポニーを背に庇い、短い両手を広げた。
「ふんっ、いつも魔法少女の後ろに隠れているだけの小童が、それで体を張っているつもりか? なんの力もないお前がどうやって守る気だ?」
馬鹿にしたような半笑いでディーノを見下ろすアモール。
「くっ、俺だって、やるときゃやるんだよっ!」
パッと地面に手をかざすと、金色の光が広がる。魔法陣が広がる。
「撤退!」
ポニーの手を掴むと、素早く魔法陣へと飛び込む。
「ほえっ?」
穴の中に引っ張り込まれるような形で、落ちるポニー。ハッとした顔で穴に消えていく二人をアモールが見ていた。
「卑怯な!」
叫ぶアモールの顔を視界の隅に捕らえ、ポニーはアビスゲイトから遠ざかっていった。
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