第23話 脳内大パニックの話

「とっ……なっ、あっ、いっ!」


 わなわなと手を震わせながら、ポニーはアモールを指し、言った。正確にはきちんと話せていないが、本人的には「突然なにをあんたは言ってるのっ!」と口にしているつもりだ。


 プロポーズ。


 これが、遠回しな「一生傍にいたい」や「君なしの人生は考えられない」といった言葉であったならば、無理矢理にでも

「それって『どっちかが命を落とすまで勝負はやめない』って意味ねっ?」

 くらい、言い返せたかもしれない。だが、そのものズバリ、アモールは「私の妻になってほしい」と言ったのだ。これをプロポーズの言葉以外で解釈するのは難しい。


「お前、なに言ってんだっ!」

 わなわなしているポニーに代わり、ディーノが前に出ると、アモールを指し、声を荒げる。


「ふん、コル・イラディアの民か。お前には関係のない話だ」

 半笑いで、アモール。

「関係ないわけないだろうっ、ポニーは俺のっ……」

 そこまで口にしたところで、何故か固まるディーノ。

「ちょっと、なんでそこでやめるのよっ」

 ポニーが突っ込む。ここはディーノの口から「俺の大事な相棒だ!」というセリフが飛び出し、顔を見合わせ深く頷き合う場面だと信じて疑わなかったのだから。


「……ポニー」

 ディーノがふわふわと宙を飛び、ポニーの目線に合わせて、止まった。

 少し目が泳いでいる。思いつめたような顔で、落ち着きなく思考を巡らせている風。しかし、最後にはブルーグレイの瞳がまっすぐにポニーを捉える。


「……あんたまでどうしたのよ、ディーノ?」

 さすがに心配になり手を伸ばすと、ディーノがその手をきゅっと握った。肉球が気持ちいい。


「ポニー……俺にとってお前は、ただの魔法少女じゃない」

「え?」

「俺にとってお前は……大事なっ……」

 頬を赤く染めて、もじもじしながら何かを伝えようとするディーノを前に、いよいよもってポニーが焦り始める。これは、期待しているセリフとは違う言葉が出てきそうである。


「えっ? えっ? あんたまでそんな顔するの、なにっ? 一体なんなのっ? 待って、ディーノってばもしかして、今から『それ言っちゃダメだって!』ってこと言おうとしてる? ねぇ、これってこんなっ、戦闘中にする話じゃないと思うんだけどっ? だ、大体! あんたもあんただわ、アモール! 今まで散々敵同士として戦ってきて、なんで今になってそんなっ、おかしなこと言い出すのかわかんないわっ。私はねぇ、今までの怠惰な自分を反省して、今日こそはキッチリ勝負を付けようって思って、覚悟をもってここに来てるんだからねっ? それをいきなり……つっ、妻って……。あんた、私が十四の時からの付き合いでしょうがっ? ハッ……ロリコン? もしかしてロリコンだった? あ、でもだったらなんで今更? もっといい時代があったはずじゃないのっ? もうすぐ三十路だってときになって、なんで今更っ」


 もはやパニック状態だった。当然だ。ついこの前まで、充実した生活を送っていたのだ。仕事をし、魔法少女をし、自己肯定感アゲアゲで、平和な生活。恋愛をしないというだけで、楽しい毎日を過ごせていた。それなのに、魔法少女引退目前、というところまできて急に湧いて出た恋愛話。一方的に詰め寄られても、今まで恋愛をしてこなかったポニーにはわからないし、わかってしまったらそこで終わる。魔法少女終了だ。


「危機じゃん!」

 頭を抱えうずくまる。


「ポニー、俺はっ、俺は昨日今日思ってたわけじゃないんだ。もっとずっと前から」

「ポニーレイン=サンシャイン、お前が気になり始めたのはもっとずっと前のことなのだ」


 ディーノとアモールが同時に口をつく。ポニーは両手で耳を塞ぐと、

「ああああ、も~~!」

 現実逃避に走る。せっかくやる気になっているというのに、全く違う方向からの茶々。しかも専門外。対処不能になっている。


「あんたたち、まさか私が魔法少女だってことを忘れたわけじゃないでしょうねっ? 私は選ばれし魔法少女、ポニー・レイン=サンシャイン! アモール・ヴァンデロス率いるハートブレーカーを倒し、コル・イラディアに平和をもたらす使命を持ってここに存在してるの! 恋愛なんかしてる暇ないし、そもそも恋愛しちゃったら、そこで私の魔法少女人生が終了するんだってば!」


「わかってる! お前が今まで一生懸命、使命を果たそうと頑張ってくれてたことは、隣でずっと見てたんだから俺が一番分かってるよ……」

 ブルーグレイの瞳がポニーを見つめる。ずっと一緒だったからこそ、ディーノが真実を語っているのだということが、ポニーにもわかる。


「ディーノ……」

「俺、そんなお前のこと……」


 ポニーの肩に手を置いたところで、アモールが堪らず口を挟んだ。

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