第11話 待ち合わせの話
「昼も夜も飯いらんって、誰とどこ行くわけ?」
まるで同棲中のヤンデレ彼氏だな、と凛音は心の中で思った。だが、ディーノには“食事を作る”というミッションがあるため、報告は不可避だ。
「仕事先の会社さんが催しやってて、それに参加することになったの。夜は懇親会みたいなやつがあるから」
「ふ~ん」
亜門の話をした後くらいから、なんとなくディーノの態度がおかしい。それは凛音にもわかっているのだが、なにがどうおかしいのかと言われると、よくわからない。急にツンケンしたり、急に黙り込んだり、かと思えば普通に話したり。職場のお局さんから聞いた話を思い出し、これは思春期というより更年期のような反応だな、などと思ってしまった凛音だ。
「夜って、遅いのか?」
「そんなに遅くならないで帰るつもり。だって、今日あたりもしかしたら……ねぇ?」
適当な言い方だが、ディーノには通じる。
「ま、そうだよな」
定期でやってくる、アモールとの闘いの日。
「……ね、ディーノ」
凛音はディーノの腕を掴み、熱の籠った眼差しを向け声を掛ける。
「な、なに?」
いつもとは違う凛音の態度に、ディーノも緊張した面持ちで聞き返した。
「私さ、ちょっと反省したんだ。このままじゃ駄目だ、って」
「え?」
「私、ディーノのためにも、魔法少女引退前に、アモールたちをちゃんと倒そうと思うの!」
「えっ?」
ダラダラと魔法少女を続けていた凛音からの、聞いたことのないほどやる気に満ちた声を聞き、ディーノの心臓が跳ねる。
「なんで急に、そんな」
「うん、この前ディーノが部屋を出ていったでしょ? あの時、一人で色々考えてたの。これって私だけの問題じゃないのに、私、ずっとディーノに甘えてばかりいたんだな、って思って……だから」
「凛音……」
「ディーノの出世のためにも、私のけじめのためにも、頑張るね!」
ぐっと拳を握りポーズを決める凛音。
「あ、うん……?」
「じゃ、私着替えてくる!」
部屋に入っていく凛音を見ながら、ディーノが呟いた。
「……俺の出世って……なんだ?」
*****
約束の場所に着いたのは、きっかり十分前だった。社会人として当然の配慮である。しかも、相手は上司なのだから。
しかしそこには、女性に囲まれた亜門の姿があった。ラフな綿パンにTシャツ、紺色のジャケットを羽織った長身の亜門は、遠くから見てもわかるほど、モテオーラを出している。そしてそれに釣られた女性たちが群がっているのだろうと、理解した。
なんとなく声を掛けるのが憚られ、少しの間、観察してみた。
女性二人連れが近付き、声を掛ける。二言三言会話をすると、亜門が手を振り拒絶。女性たちはそそくさとその場を離れていく。そして一人になると、また別の女性が声を掛けている。ひっきりなしだ。四組目は、女性ではなく男性。チンピラ風のナリをしているが、名刺のようなものを渡しているのを見るに、あれはホストへのスカウトだろうか。
さすがに可哀想になり、声を掛ける。
「新海さん、遅くなってすみません」
凛音の姿を確認するや、亜門の顔がパッと華やぐ。恋をすると綺麗になる、とはよく言うが、あれは女性だけでなく男性も同じなのだろうか……などと考える。
「大丈夫です。私もさっき来たばかりなので」
嘘八百だ。凛音はおかしくなってつい、クスッと笑みを漏らしてしまう。
「それならよかったです」
ここで「さっきからいましたよね」というのは無粋というもの。素直に頷いて、この場をやり過ごすのが正解だろう。
「ランチ、結局なににしたんです?」
歩きながら訊ねると、
「実は、どうしても食べてみたいものがあるんですが……女性を誘うにはどうかと、迷っているところです」
「え? なんですか?」
「ラーメンなんですけど」
「えっ?」
凛音が目を輝かせる。まさかここでラーメンが出てくるとは思わなかったのだ。
「私、ラーメン食べたいですっ」
力一杯賛同すると、亜門が嬉しそうに
「いいんですか?」
と訊ねる。
「私もラーメン食べたいって思ってました!」
「それは……気が合いますね」
ニコッと笑う亜門は本当に嬉しそうで、凛音はなんだか気恥ずかしくなる。気が合う……。気が合っているのだろうか。
「では、行きましょうか」
亜門に連れられ、二人はラーメン屋に向かった。
有名な町中華の店だったようで、最高のランチとなり、亜門との会話も弾む。
その後、取引先の催しへ。ソーラーパネルの会社なのか、パンフレットや模型などが目に付く。週末ということもあり、先方の社員だけでなく、その家族なども顔を出しているようだった。
「新海さん! わざわざ来ていただけるとは!」
白髪の、いかにも偉い人そうな男性に声を掛けられ、亜門が頭を下げた。
「これは社長、ご無沙汰してます」
「子会社に出向になったって? なんでまた、君ほどの人が?」
「いえ、これも修行ですから。どこで仕事をしようが、自分は自分ですよ」
爽やか~に言い返す亜門を見て、しごできが噂だけでないことを、なんとなく理解する凛音だった。
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