こちらになります
協会ビルの応接室の一室。朝比奈さんと連れ添いの女性、その対面に俺が座る形で話をしていた。
「いやー、凄かったねぇ。一撃で撃破とはね」
朝比奈さんが手を叩きながら言った。こんな事、急にやらされて危ないでしょうが!全くもう。
「はぁ、もう終わったことなのでグチグチ言わないですけど。ランク認定っていつもこんなんですか?」
「いや、いつもは手続きとか準備とか煩雑な作業があるよ。君は特別」
全然嬉しくない特別だ。というか、朝比奈さんの隣の女性が凄い目つきで俺を睨みつけてくる。恨みがすんごい籠ってる。
「あ、あの。なにか失礼な事しましたかね?えっと〜?何とお呼びすれば⋯⋯?」
「宵原 アヤメ。別に?アタシが油断したからやられただけだし?アンタの演技に騙されただけだし?」
えぇ〜?どゆこと?俺あなたに対して何もしてないよ!
「ははっ、気にしないでやってくれ。彼女のモンスターを君がアッサリと倒しちゃったから拗ねてるんだよ」
朝比奈さんの補足助かります。なるほどなぁ。ん?彼女のモンスター?
「えと、彼女のモンスターってのは?」
「言葉のままさ。君が戦ったフェンリウス、アヤメのスキルで生み出された存在だったから」
スキル!しかもモンスターを召喚!凄いな、俺がダンジョンに入る前はそんなスキルは聞いた事がない!
「スゲェ!モンスターを召喚出来るスキルなんて!」
それを聞いた宵原さんは少し機嫌を直したみたいで目つきが少し柔らかくなった。
「そうでしょ、凄いんだから!アタシは!もっと褒めなさいよ」
そこから思いつく褒め言葉をペラペラと喋り、ご機嫌取りは完了した。ふぅ、ようやくプラスマイナスゼロにまで持ってこれた。
「さて、それじゃ。黎君のランクが決まったみたいだから発表といこうか」
おぉ、ついに!別に期待してる訳じゃ無いが、テストの結果発表とはいつでもドキドキするものだ。
「では、じゃーん!こちらになります」
朝比奈さんが腕時計型のデバイスを操作すると俺たちの中間の空間にホログラムが現れる。そこには俺の結果が示されていた。
九重 黎・C+に認定する。
おぉ〜、おぉ?これはどうなんだ?
「これってどうなんですか?」
素直に聞いてみる。これだけじゃ何も分からなすぎる。
「これは認定を初めて受ける人が貰える最高ランク。つまり、凄いってことだよ」
おぉ!どうやら凄いらしい。いい成績じゃなくても⋯⋯なんて思ってもいたが、やっぱりいい成績だと分かると嬉しくなってしまうものだ。
「まぁ、これからダンジョンに行って成果をあげればドンドン上がっていくよ、黎君は。戦闘能力だけで見ればA級は確実だからね」
なるほど、どうやら俺はA級探索者と遜色ない強さらしい。A級は探索者のトップと呼んでも差し支えない存在、ちょっと褒め過ぎじゃないか?
「アタシも始めはC+からだったわ!アンタも励むのよ!」
「こらこら、黎君の方が年上だからね?」
「いえいえ、全然気にしてないんで大丈夫です。励まして貰います!」
宵原さんをここでもう一度ヨイショしておく。すこぶる機嫌が良くなったみたいで、今までの経験を語ってくれた。楽しくなってきたな。
「じゃあ、後は身体検査を受けたら帰ってもらって大丈夫だから」
雑談がそれなりに盛り上がった後に、朝比奈さんがそう切り出した。ふむ、いい頃合いだ。
「じゃあ、受けてきます!」
今日は久しぶりに体をしっかりと動かしたのでかなりスッキリした。今日はグッスリ出来そうだ。
ピロロと朝比奈さんのデバイスが鳴る。どうやら電話がかかってきたみたいだ。
「すまない、席を外すよ。少し待っててもらえるかな」
そう言って朝比奈さんが部屋を出る。部屋には俺と宵原さんが二人きり。女性にあまり免疫がないので、緊張してきた。
「ねぇ、フェンリウスを倒した時どうやったのよ」
そう宵原さんが切り出した。
「どうって言うのは?」
「だから、一瞬で消えてフェンリウスの首が落ちたでしょ!アレはどうやってやったのかって聞いてるの!あー、思い出したらムカついてきた」
いかんっ!ここは話題を盛り上げて気を逸らさなくては!
「その、特別な事は何もしてなくて。詰められるタイミングを見極めて、後は魔力刃、いやオーラブレードっていた方がいいのかな。これでズバッとね」
俺はオーラをブレードの形にして、目の前で軽く振るってみせる。それを見た宵原さんは口をポカンと開けた。
「何、アンタスキル持ってたの?」
「いや、これはスキルとかじゃないよ。単純なオーラ操作の範疇だよ。見てて」
俺はオーラをぐねぐねと動かして、右手に猫ちゃんを作り出した。左手は猫じゃらしに。それをピロピロと動かして遊んでみせた。
このオーラ操作は俺がダンジョンで生き抜く為に覚えた一番最初の小細工だ。昔を思い出して背筋が凍る。ダンジョンに楽しい思い出は殆ど無かったからだ。
「こんなの、見た事が無い。あ、アタシにも出来る?」
妙にしおらしく聞いてきた。まぁやった事ないから難しく見えるのだ。やってみれば存外出来たりするもんだ。
「出来るよ、先ずは────」
そこからは軽く講義をした。宵原さんはかなり飲み込みが早く、俺が数週間かかったレベルをこの30分ちょっとで追いついてしまった。
「その、この技術をアタシに教えて良かったの?すごく貴重な情報なのに」
「うん、構わないよ。今知るか後で知るかの違いじゃん。だったら早い方が良いからね」
「ふーん、そっか。優しいんだね、その、ありがと」
くっ、何て後輩力が高いんだ!宵原さん!この子はきっと出世するぞ。次から次へと俺が知ってることを教えたくなる。
「んじゃ、次は───」
「アヤメ、黎君。すまないが力を貸してくれないか!」
部屋のドアを開け放ち、朝比奈さんがそう叫ぶ。どうやら良くない事が起こったみたいだ。
──────────────────────
大阪府・市街地C-15ブロック。ここはかつてユニバーサルで素敵な遊園地であった場所。今はダンジョンの入口が現れたという名目に封鎖されている。
その実、侵界型ダンジョンなる珍しい形態のダンジョンである為に四方を高い壁と結界で封印している状態なのだそうだ。
朝比奈さんと宵原さん、他二人を伴って俺たちは壁の前に集合していた。
「さて、改めて説明する。現在C-15内にて異様なオーラ反応とモンスターの発生が確認されている。まぁ、ここまではいつも通りなんだけど」
いつも通りなんだ⋯⋯夢の国が今じゃ修羅の国だな。
「今回少し違うのは監視カメラに人影が複数確認された事だ。まぁはっきり言うと侵入者だ。僕たちの任務はモンスターの討伐と侵入者の捕縛て って事になる」
「侵入者って、この壁と結界抜けてきたの?何者よ」
宵原さんの言う通りで、目の前に立ち並ぶ壁とそれを覆うオーラ。偶然入ってしまいました、という事態は起こらないだろうな。
「さてね、監視員が言うには壁にもオーラにも、なんなら計測器にも反応は無し。カメラに映っていた映像だけが今のところの証拠だよ」
わざわざダンジョンに侵入するなんて、そんな危ないこと⋯⋯いや、やめておこう。これ以上は墓穴を掘る気がする。
「で、気になってる人もいるので紹介しておくと彼は九重 黎君。先程ランク認定を終えたばかりの新人君です!」
「どうも、ご紹介に預かりました九重です。なんでここに連れてこられたか何も聞いてません、よろしくお願いします」
憐れみの目と拍手に迎えられる。この反応、朝比奈さんちょくちょくこういう事してそうだな。
「いや、黎君。見ての通り緊急で動けるのが僕たちしかいなかったもんでね。君の力は頼りになるから」
朝比奈さんは周りの人を指さしてごめんね、と言う。まぁ暇だったし、困ってるならしょうがないか。
「さて、じゃあ今回の布陣は私と伊狩が侵入者の確保。アヤメと黎君でモンスターに対応して貰いたい。ささまるはここで情報を纏めておいて」
各々がハイ、と返事する。
「じゃあ、これ渡しとくね」
朝比奈さんから渡された機械を手に取り、眺める。どうやら朝比奈さんが使ってる腕時計型のデバイスと同じやつみたいだ。
「討伐が完了、もしくは問題が起こったらそれで連絡してくれ。アヤメ、作戦概要をよく確認しておく事と無理はしないこと。んじゃ、動くよ」
ではいざ、壁の中へ!
──────────────────────
C-15内、アトラクションの横を通り過ぎる二人の男。
「響介さん。アンタの事だから何か考えがあったんだろうが、いいのかい?」
伊狩 茂人(いかり しげと)は隣を歩く上司へと疑問を投げる。朝比奈 響介という男は仕事はしっかりとこなすが、如何せん胡散臭いのだ。
「ん〜、まぁ正直に言うとアヤメだけでも大丈夫だと思うんだけどね。ちょっと気になる事があってねぇ。そんな時に戦闘能力は推定A級並、人間性と背景も問題無さそうな人材が現れたらね。使わない手は無いよ」
「いや、俺はそういうこと言ってんじゃ無くて。仕事と関係無い人間を呼び込むのはどうなんだって話をだな」
「状況によっては探索者に協力を要請する事もあるだろ?今回は少し変則的だけど、それと大差無いさ」
それを聞いて伊狩は溜息を付いて質問を止めた。不満はあるが仕事、そこは割り切らなければならない。
朝比奈はしっかりとそれを感じ取っている。しかし、敢えて説明をしないのは伊狩という男はどんな疑問や不満はあろうと仕事はやり遂げる事をわかっているからだ。
「伊狩」
「あぁ、わかってる」
二人が構える。その視線の先には何も無い。しかし、オーラ知覚にはしっかりと引っかかっていた。
伊狩が拳にオーラを溜めて、正拳突きを放つ。するとオーラが炎へと変わり、前方の空間を炎が包む。
パキン、という音がなり空間が崩れる。その先には人が座り込んでいた。見た目はかなり若そうに見え、体格は少し小さめだ。
それは笑っていた。その笑顔は無邪気で、無垢で、まるでおもちゃを買ってもらったばかりの子供のよう。ニタニタとした笑顔貼り付けたまま、立ち上がり歩き始める。
「止まれ!こちらは対異災特務庁だ!お前は協会の管理区域に無断で侵入している、大人しく拘束されろ!」
伊狩が叫ぶ。しかし、相手はまるで意に返さずにゆるゆるとした足取りで近付いてくる。相変わらず表情は楽しげであった。
「伊狩、もう一度」
「はい」
指示を受けた伊狩は再び拳にオーラを溜めて炎を放つ準備をする。それを感じ取った侵入者は足に力を込めて飛び上がる。
「ぴゃあ!」
と、おかしな声をあげて侵入者は二人に飛びかかろうとする。朝比奈は空中に飛び上がった敵を一瞥する。すると、壁にぶつかったかの様に動きが止まる。
「はい、じっとしてね」
朝比奈は一瞬で敵を制圧してしまった。伊狩はその腕前に息を飲む。これがS級の実力。いつ見ても圧巻であった。
朝比奈が顔を少し歪める。空中で捕まえられていた侵入者が体を捩り暴れ始める。ギギギと擦れる音が辺りに響き、朝比奈のオーラが揺らぐ。
「響介さん!」
「構え直して、逃げられる」
ガギャン!と音が鳴り、侵入者が拘束から逃れる。地面へと着地すると、相変わらずニタニタした表情で朝比奈を睨みつける。
「あー、お前ウザイなぁぁあ。人の体にベタベタ下品なオーラで触りやがって。ぜってぇ殺してやんよ」
言っている事はかなり過激だが、その声色はまるで親しい友人と話す様であった。その違和感に二人は寒気を感じる。
侵入者が明確にオーラを纏う。相当の練度である。ふわり、と浮かび上がり二人を物理的にも心情的にも見下す。
「ぶっ殺しタイムだぁあ」
「来るよ」
「はい!」
本格的に戦闘が始まった。
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