久しぶりのいつも通り
さて、言われるがまま導かれるがまま歩いているが目標のモンスターは見えてこない。
「あのさ、宵原さん」
「何?てか、その宵原さんってのやめてよ。アヤメって呼んで」
何!?出会って間もない女性を下の名前で!?しかし、ここで苗字で呼び続けるのも関係性を保っていく上では悪手だろう。やるしかないか⋯⋯
「じゃあ、あ、アヤメさん」
「ん、何」
「こういう事って良く起こるの?」
「そうねぇ。まぁ、月イチくらいの感じで起こるわね。あ、でも侵入者云々って話はかなり珍しいよ」
なるほどなぁ。地上は地上で大変だ。ダンジョン内にいる時はモンスターが湧いてるなんて日常だったけど、地上じゃそうはいかないもんな。
何だかんだと雑談を交えながら目的地に到着。確かにオーラの残滓の様なものがある。でも、何か不自然というか。まるで敢えて残してるみたいな。
「うーん、目標のモンスターがいないわね。ちょっと手分けして探しましょ。なんかあったらスグ呼んでよ」
アヤメさんの提案で別れてモンスターを探す事に。正直、助かる。アヤメさんと居るのが辛いとかでは無くて、純粋に人と居るのが大変なのだ。何せ、長い事一人で過ごしてきたからな。
とりあえず、オーラの残滓を良く見てそれに似た空気感とも言うべきものを探していく。オーラの残滓って程じゃ無いけど、似た様なものだ。まぁ、感覚的な話になってしまうので説明は難しいな。
しばらくして、少し気になる場所を見つける。パッと見はただの空間なんだけど、なんだか揺らいでる気がしてならない。
遠い場所で強いオーラの反応。かなり強いオーラがぶつかり合っている。
「今のは──」
思わず呟いて振り返ってしまった。その瞬間、風きり音。左腕にオーラを纏い、攻撃を受け止める。剣がカタカタと音を鳴らして留まっている。力を入れて、腕に触れている剣を弾く。
後ろを振り返るとそこには、青白い顔の細身の男がいた。後ろの空間が半透明の膜が破られた様になっている。どうやら勘は当たってたみたいだな。
「あんた、何だ。急に攻撃仕掛けてきてさ。友好的じゃないな」
目の前の男はギョロギョロと目を動かして俺を見つめる。まるで品定めされてるみたいだ。
「んん、お前。何者だ?協会の手の者か?それとも、デュナミストか?」
何だ、急に?変な事聞いてきやがって。というか斬り掛かる前に聞けよ!
「どっちでもないよ。ここに湧いたモンスターを倒しに来ただけだ。お前に用なんて──」
無い、と言おうとしたところで喉が詰まる。こいつ、侵入者じゃね?だとしたら、捕まえた方がいいよな?まず聞くか。
「なぁ、お前。もしかしてこのダンジョンに勝手に入ったりしてないよな?」
数瞬の沈黙。そして。
ギャリリンッ!と壁と接触した剣が火花を散らす。先程まで俺がいた場所に剣が複数回振られていた。青白男はふぅふぅと息を荒らげて俺を睨む。
「理解無き不信心者よ。我が神の名のもとに裁きを与えよう」
「話通じないな。とりあえずぶっ飛ばしてやるよ」
オーラを纏い、構える。目の前の敵も同様に構える。正直言うと対人戦には自信が無い。モンスター相手なら数え切れない程やってきたけど、対人となると両手の指で数えられる程度だ。
青白男が真っ直ぐ突っ込んでくる。まぁ、やる事は変わんないか。俺が死なずに相手を倒す。久しぶりのいつも通りだ。
切っ先が迫り来る。軌道を予測して、体を少し逸らす。剣が体を過ぎた所で裏拳を顔へと打ち込む。
鼻血が出て体が傾く。その勢いのまま、掌底を胴体に入れて吹き飛ばす。
「ぐぅ、この愚か者め」
青白男は鼻血を拭いながら立ち上がる。んー、これじゃ倒しきれないか。もっと強めにいこう。纏っているオーラを少し強める。
「こ、これは!」
「どうする?どうせお前じゃ勝てないよ。諦めてお縄につけぃ」
最後はふざけちゃった。でもこのまま戦意喪失してくれたら助かるな。なんて理想通りに行く訳も無く。
「舐めるなよ、小僧!我が神より授かりし力を見せてやろう!」
その言葉と同時に男の姿が消える。いや、影に落ちたのだ。そして、俺自身の影から剣が飛び出してくる。
「ふんっ!」
俺は剣が刺さるであろう場所のオーラを強めて、剣を体で受け止める。バキンッと金属音が響き、剣は粉々に砕けた。
「な、何?!」
「俺を貫きたいならもっと鋭くて強力なオーラ纏ってきな」
俺の影から半身を出していた青白男を掴み、影から引き摺りだす。空中に投げ飛ばし、ジャンプをしてそれに追いつく。
「そら、よっと!」
落下の勢いを拳に乗せてそのまま殴りつける。青白男は勢い良く地面へとぶつかり、動かなくなった。
「怪我しても悪く思うなよ、先に仕掛けたのはそっちだからな」
青白男にそう投げ掛けて視線を向ける。すると、青白男がヤ○チャしている横にまた別の人物がしゃがみ込んでいる。黒い外套を着ていて、詳しい姿形は分からない。
こいつ、ヤバいな。今のところ、地上で見た誰よりオーラがダンジョン寄りだ。
「あんた、誰だ。そいつの連れなのか?」
「やれやれ、こうも一方的とは。日本の覚醒者もなかなか侮れませんなぁ」
俺の問に答えること無く、そうぽつりと呟いた。俺は警戒を強めて、オーラを纏う。こいつと一戦交えるならと、刀を持って来なかったことを少し後悔する。
「ん、おや。そう殺気立つものではありませんよ。私は貴方と争う気はありません。今日はあくまでも視察ですから」
そう言うと外套の人物は倒れている青白男を担ぎあげる。そして、オーラを使い、後ろにランク認定を受けたビルにあったゲートの様なものを作り出す。と言っても機械を生み出したのではなく、その中にあるゲート本体の部分といえばいいのだろうか、それが煌々と光を放ち揺らめいている。
「では、私達はこれで。ご縁があればまた会いましょうぞ」
「そうか」
俺は引き止めはせずにそのまま行かせる。二人はゲートの中へと入っていき、程なくしてゲートは消えた。
止めた方が良かったのだろうが、やぶ蛇とも言うべきかな。あれにちょっかい出すのは躊躇われた。
ぶぶぶ、と貰ったデバイスが振動している。そこにはアヤメさんからモンスター発見の報告。一旦第一目標は達成できそうだな。
「あ、いた。もう終わったわよ」
合流した頃にはモンスターは黒い霧に還元されている途中だった。アヤメさんの周りには鳥のモンスターが二匹と黒豹?の様なモンスターが一匹アヤメさんに体を寄せていた。
「複数体も召喚できるのか、便利そうで良いね」
「でしょ〜実際便利なのよ」
「あぁ、それで伝えたい事があってさ」
そこで先程起こったことを伝えた。侵入者と思わしき連中にゲートの事。
「そんな事が⋯⋯ごめん、アタシがついて行くべきだった」
「いや、それは全然。俺誰かと連携するの慣れて無いし。俺の方こそ、モンスター討伐手伝えなくてごめん」
「そこは全然いいのよ、アタシの仕事だからね」
外で情報をまとめている、ささまるさんと朝比奈さんにモンスター討伐の報告と俺が遭遇した連中の情報を送る。
ささまるさんからの返信は『了解、朝比奈は現在交戦中と思われ。行けそうなら援護に向かわれたし』との事だった。
「どうする、このまま引き上げても問題無いと思うけど」
アヤメさんは俺を気遣ってくれてるみたいだ。でも、さっきの外套を見た後だとな。朝比奈さんは強いだろうし、問題無いと思うけど。
「いこう、一応。念には念をってね」
「分かった!」
人数が多いに越した事は無い。朝比奈さん達の援護に向かう事にした。
──────────────────────
黎達の戦闘が終わる少し前。
朝比奈達の戦闘はまだ続いていた。辺り一面はかなり荒れており、粉々に砕けた地面に破壊された施設設備。戦闘の激しさが伺えた。
「あはぁぁあ、血ぃぶちまけろやぁあ」
侵入者が手を振ると地面に大きなクレーターが出来る。近くにあったベンチや壁がクシャリと潰れていた。
「どおりゃ!」
伊狩の叫びと共に、炎が空に留まっている侵入者へ襲いかかる。しかし、炎が届く事はなく下へと落ちていく。
「ふむ、なるほどなるほど」
朝比奈はその様子を観察しながらオーラを集中させる。高まったオーラをスキルへと流し込み、指を鳴らす。
「かっ!?」
侵入者は目を見開いて驚く。絶対防御を誇っていた自身のスキルを簡単に突破され、地面へと落ちる。
「ッ、響介さん!」
地面へと落ちた敵に追撃をかけようとした伊狩を朝比奈は視線で止める。
「まだ油断しないで、浅かった」
ビクビクと体を体を震わせながら、侵入者は立ち上がる。その顔には相変わらず笑顔が貼り付けられていたが、目には激しい怒りがこもっていた。
「てんめぇ〜、このベリアル様に舐めたマネしてくれちゃってよぉ〜。あぁ〜もうムリ、ガマン無理、ガチイッちゃうからさ。なぁ、おぉい」
グオンとベリアルを中心に目に見える紫の半透明のドームが現れ、急速に広がる。朝比奈と伊狩がそれから逃れようとするが、凄まじいスピードで二人をドーム内に捉える。
「ぐっ!」
「これは⋯⋯!」
朝比奈が片膝をつき、伊狩の体は完全に地面へと押し付けられていた。
「あはぁぁは、てめぇらにゃその姿がお似合いですよぉ」
ドームの中心で嬉しそうに手を叩くベリアル。ゆっくりとした足取りで二人の元へと向かい始める。
「まず、そもそもなんで俺様が手加減しなくちゃならんのだよぉ。意味わかんねぇよなぁあ。ここまでガマンしたんだから、二人ぐらい殺してもいいよなぁあぁあ」
ベリアルの手に纏ったオーラが強まる。伊狩は体を動かそうともがいているが無意味であった。
「響介さん!自分はいいんでやつを!!」
朝比奈はその言葉を受けて、静かに頷く。立ち上がり、オーラを強く纏う。
「あぁあ?生意気だなぁああ、お前。何立ち上がってんだよぉぉああ!」
ベリアルがドーム内の圧を更に強める。朝比奈は少し体を傾けたが変わらず立つことが出来た。しかし、伊狩は苦痛に声をあげることも出来ずにただ耐えていた。
朝比奈は伊狩がこのままでは死ぬ事を理解していた。狙うは一撃決着。捕縛は諦めて、対象の完全排除に決めた。
ベリアルと朝比奈、二人のオーラが高まっていく。決着の時は近かった。その時である。ドームの中に異物が入る。
先に気付いたのはベリアルである。振り返るとそこには平然とドーム内を歩く男。九重 黎であった。
「お前ぇえええ、誰だよぉおおおお」
朝比奈に向けて練られていたオーラが全て黎へと放たれる。迫り来るオーラの衝撃波に黎は動じずに左手を突き出す。
「はぁっ!!」
黎が気合いを込めると衝撃波がかき消されて、その勢いのままベリアルへと駆け寄る。鋭い拳がベリアルの体へと叩きまこれる。
「ごぁ!がっ!」
黎に蹴り飛ばされてベリアルが地面を転がる。その拍子にドームも消え去り、伊狩が咳き込みながら四つん這いになる。
「大丈夫ですか!えと、伊狩さん!」
「あぁ、すまない。助かったよ」
駆け寄った黎は伊狩に手を貸す。体に付いた砂利を払いながら伊狩は何とか自立する。
「黎君、私は?」
「あなたは普通に大丈夫でしょ」
朝比奈は残念そうに肩をすくめる。全員の視線は黎が蹴り飛ばしたベリアルへと向けられる。地面でうずくまり、ぶつぶつと何かを言っている。
「あれが侵入者ですか?」
「そう、なかなか手強くてね。でも黎君がいるなら捕まえられそうだ。改めて手を貸してくれ」
黎は頷き、全員が構える。すると空間が歪み、ベリアルの後ろから大きな手が現れる。
「何だ、あれ」
疑問に答えはなくそのまま、大きな手がベリアルを連れ去る。ベリアルの目には強い憎しみが宿っている。
「次会う時ぃい、お前ら全員殺すぅうぅうう!!!」
そんな絶叫を残して、ベリアルは消えた。
「あらら、結局情報は無しか」
朝比奈がそうぽつりとつぶやく。伊狩が悔しそうな表情を浮かべ、朝比奈に頭を下げる。
「すいません、自分が足を引っ張ったばかりに」
朝比奈は頭を上げさせて、肩に手をやる。
「いやいや、あれは相当な手練だったからね。仕方ないさ。それと改めて黎君、ほんとに助かったよ。君がいなきゃもっと事態は深刻だっただろう」
「いやいや、そんな。でも連中何者だったんですかね?」
黎の疑問に朝比奈が少し考え込む。
「まぁ現状だと何とも言えない。もちろんわかり次第、黎君にはそれとなく伝えるよ」
黎は顔をぴくりとひくつかせる。聞かなきゃ良かったと思ったからだ。
「や、まぁその時間があれば、はい」
しどろもどろな返答となってしまった。黎としては面倒事に巻き込まれたくないのが第一目標であるからだ。
「あ、やっと追いついた!みんな大丈夫〜!」
アヤメが遅れて登場。朝比奈が口頭で説明を行う。表情がころころ変わる様を見て黎は黎と伊狩は笑ってしまった。
「さてと、とにかくみんなお疲れ様!後は自分が上に報告するから任務は完了だ。となれば」
朝比奈が懐から財布を取り出して、ニヤリとする。
「もちろん行くでしょ?上司の奢りでご飯!」
「行くぅ〜!」
「行きます!」
伊狩とアヤメは元気よく返事をする。それを見て、そういう空気かと黎も理解。
「い、行きまぁす!」
誰よりも元気な返事になり、今度は黎が笑われる番となってしまった。
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