ランク認定を受けよう

さて、のんびりするとした矢先。戸籍の手続きをしたり病院行ったり、今の地上についての知識を仕入れたりと中々忙しく過ごした。


そんな日が2週間程過ぎたある日にダンジョン管理協会から呼び出しを食らってしまった。要件は俺のランク認定と身体検査についてらしい。


まぁアマテラスで受けた検査を、より精密にしたやつを受けるだけやろなぁなんて心持ちでダンジョン管理協会の本部ビルへと赴いた。


「ようこそ、本日はどう言ったご要件で?」


ビルの受付でお姉さんが愛想のいい笑顔で出迎えてくれる。いいね、こういうやり取り。大人な感じだ。


「今日ランク認定を受けに来た九重 黎です」


お姉さんは少々お待ちください、と言うとパソコンをカチャカチャと操作する。


「はい、ご確認出来ました。こちらをお持ちになって3番のゲートへとお進み下さい」


手渡されたカードを持ってゲートへと進む。前に辿り着くとレーザー光線がぶわんと俺の全身をスキャンした。すげぇ、未来だ。


スキャンが完了したのかゲートがガシャンっと音を立てて開き、中へと入れる様になる。


「凄いな、未来ずら〜」


思わず呟く。パソコンやスマホで情報は調べていたが実物を見るのはやはりドキドキするものだ。ちなみに今はスマホが主流ではなく、ARグラス型のデバイスか、情報を空中に投影するホログラムデバイスがかなり幅を効かせているそうだ。


入ろうとした瞬間、身体にピリッとした感覚が流れる。自分のモノでは無いオーラに触れた時の感覚。ゲートから飛び退き、身体にオーラを纏う。


「こ、九重様!どうされましたか?」


先程対応してくれた受付の人が駆け寄って来て訳を聞いてきた。一旦警戒を緩める。


「すいません、あのゲートを通ろうとした時にイヤな感じがしまして」


「あ、それはですね───」


「私が説明しようじゃないか」


そんなセリフと共に現れたのは黒いコートを来た背の高い男。コイツ、オーラを。本来オーラは意識しなければ身体から少し漏出する。しかし、コイツにはそれが無い。俺がダンジョンでコソコソする時と同じだ。


「自己紹介をさせてくれ、九重 黎君。私は対異災特務庁、第一特務課白鎧で主任特務官やってます朝比奈 響介(あさひな きょうすけ)と云います。どうぞよろしく」


「あぁ、よろしくお願いします。それであのゲートの変な感じ、何ですか?」


「あぁ、それはね。あのゲートは転送装置なんだよ」


転送装置?確か調べ物をしている時にそんな言葉を見たことがある様な⋯⋯?


「ん、分からないって顔だな。なら簡単に説明すると、オーラを使って空間を繋げる技術がだいたい5年程前に確立されてね。それからダンジョン庁や重要な場所などにはこういった転送装置が置かれるようになったんだ。君が感じたのは転送装置を使う為のオーラだよ、あれもオーラでうごているからね」


「なるほど」


まさかそんな激凄な技術が出来ているとは。まだ一般には出回ってはい無そうだが、その内これが発展すれば海外旅行とかももっと身近になんのかなぁ。


「という訳で、心配せずに通ってもらって大丈夫だ。怖いなら手を繋ごうか?」


「いえ、結構です」


お姉さんならいざ知らず、野郎に握られても嬉しくないな。まぁちょっと怖いのも認めるが。そんな一悶着もあったが、俺達はゲートを潜り抜けた。


その先にはかなり広大な空間、というか野っ原だった。相変わらず、オーラに晒されている感じがする。腰を落として地面に触れる。そこで違和感。土じゃない?なんか手触りが悪いというか、もさもさしているというか。


「ここは結界術を用いて作られた人工的な空間。今日はここで君の能力がどれ程の物かテストさせてもらうよ」


「分かりました、所でテストってのはどんな事するんですが?」


「あぁ、それはね」


突如、景色が歪み俺の前方に大きなモンスターが現れる。大きなオオカミの様な見た目に手足に鋭いブレードが付いていた。身体はゆらゆらと黒いモヤがかかっている。


「コイツと戦ってもらう。じゃあ、自分が出たら試験開始だよ。頑張ってね、10年戦士君」


「ちょ、んな急な!」


振り返った時には朝比奈さんは消えていた。ということは試験が始まったという事で。


「危なっ!」


オオカミが突進してくる。ビュウッと風が辺りに吹き荒れる。スピードは中々、アマテラスで戦った矢代君と同じくらいだ。さて、どうしたもんかな。


──────────────────────


訓練場のカメラルーム。


そこには黎を案内した朝比奈と、朝比奈の部下である宵原 アヤメ(よいはら アヤメ)が戦いを眺めていた。


「うーん、なんだかなぁ。10年間なんて聞いてたからもっと凄いの想像してたんですけどね。それこそ緋弦っちみたいなの」


アヤメはそうこぼす。彼女はモンスターを召喚するスキルを持っており、現在黎が交戦しているのは彼女のモンスターだ。


「まぁ、確かにね。ボスモンスターを単独で撃破、なんて報告があったもんだから試してみたけど眉唾物だったみたいだ」


それを聞いたアヤメがふんっと鼻を鳴らす。


「そりゃそうですよ!等級の低いダンジョンならまだ分かりますけど、S級ダンジョンのボスモンスターなんて格が違いますからね。どうせ死にかけにトドメさしたくらいでしょ?」


モニターの中では黎がオオカミの攻撃を避けて、いなしてを繰り返している。


「しかし、トドメを刺すのだってそれなりに実力を求められるよ。S級のボスモンスターを倒しきれる実力なのか測るのが今回の目的だからね」


「わかってますよぉ。だから召喚出来るモンスターの内で最高クラスのフェンリウス呼んだんですよ。てか、怪我させたらアタシが怒られたりしないですよね」


アヤメはジト目で上司を見つめる。ここで責任を求められるのはお断りだと強い意志を込めた目だった。


「ははっ、そこは問題無いよ。自分がここの全ての責任を持つよ」


2人はモニターに再び目を戻す。相変わらず黎は避ける事を最優先にしているように見えた。そこで朝比奈はすこし違和感を覚える。何故、反撃しないのか。出来ないのでは無く、していないように見えた。


「アヤメ、彼の動きをどう見る?」


「どうって、何か避けるのに必死て感じ、じゃないですか?反撃するタイミング頑張って探している様に見えますけど」


それを聞き、少し考え込む。九重 黎がいたダンジョンはS級。アヤメが召喚しているフェンリウスは等級換算でA級のモンスターであり、S級ダンジョンである場所には当然同じ様な強さを誇るモンスターがそれなりに出る。


そのモンスターを相手に防戦一方というのは少し怪しい。そんな力で、仮に10年間隠密特化で過ごしたとしてもやり切れるものなのか。


「なぁ、アヤメ。この訓練場、確か中に声を届けられたよな?」


「まぁ、出来ますけど。どうするんですか?テストの中止でも伝えるんですか?」


朝比奈はその発言を否定するために首を振る。身を乗り出してマイクを設定を確認し始める。


「いや、少し彼に確認を取ろうと思ってね」


──────────────────────


はぁ〜!めんどくさぁ〜!!!かれこれ10分くらい、オオカミちゃんと鬼ごっこを繰り返している。突っ込んでくる、躱す、ブレード振るってくる、いなす。これの繰り返し。


うーん、ぶっ飛ばしてもいいが。それで殺したら後味悪いしなぁ。まぁテストって事だし、俊敏性のアピールでもしておくか。


強さをアピールし過ぎる必要は無い。そんな事したらアニメや漫画よろしく厄介事に巻き込まれる事間違いなしだし。程々の認定を受けて、程々の付き合いで過ごしていきたんだよ、俺は。


『あーあー、テステス。黎君聞こえる?』


部屋全体に朝比奈さんの声が響く。急にこんな事させられて、軽い感じで声を掛けられてちょっとイラッとした。


「聞こえてますよ!これいつまでやるんですか?」


『君がソレを倒すまでって言ったらどう?』


はぁ〜?何その、君に任せるよ!みたいな感じ。飯食う時に何でも良いよって言ってくるやつみたいでムカつき度がアップだ。


「倒すって言ったって、手加減とか分かんないんで殺しちゃいますよ?ホントにいいんですか?」


早く終わらせて欲しかったので強い言葉を投げかける。殺すとかあんまり口にしたい言葉じゃないからな。気持ちよく無い。


『あぁ、殺して良いよ。むしろ殺してくれなきゃ終わんないよ』


なんと、飄々と告げられた。やれやれ、じゃあ最終確認だけしとくか。


「ホントにやりますよ?後で何言われても知らないですからね?」


『構わないよ。君の力、見せてくれ』


最終許可確認。では終わらせるか。スマンな、オオカミ。俺とあの高身長男を恨め。


──────────────────────


『ホントにやりますよ?後で何言われても知らないですからね?』


モニターの向こう側ではね回っている黎はそう叫んでいた。


「何その言い方?いつでもやれますって?アタシのフェンリウスの事舐めちゃって〜」


アヤメは黎の言い草が気に入らなかった様で腹を立てているようだ。そして、朝比奈に気付かれないようにこっそりとモンスターを強化する。素体でA級モンスターの力を持つフェンリウスを強化する事によって、S級モンスターと戦えるレベルへと変貌する。


「ははっ、ただのビックマウスかどうかはすぐに分かるよ」


朝比奈は部下の勝手な行動を黙認した。彼も見てみたかったのだ。果たして、ウワサの程はどうなのか。


モニターを注視する2人。どう転ぶにしても、もうすぐ終わる。2人とそう思っていた。その瞬間であった。カメラから黎が一瞬消える。超高性能のカメラが捉えられない速度。次に姿が現れた時、フェンリウスは動きを止めていた。


「え、」


アヤメは言葉を詰まらせた。彼女は自身の召喚したモンスターの状態をそれとなく分かる。故に理解した。


「わぁお、これは凄いな」


モニターを見て微笑む朝比奈。モニターの向こう側では背伸びをする黎と首がずしゃりと地面に落ちて黒い霧に変わっていくフェンリウス。


「いいね、九重 黎。ウワサに偽り無し、かもな」

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