第2話清子の話

出会わない方がよかった

あたくしがその人と出会ったのは崩壊から3年後のことでした。その時あたくしはすでに吸血鬼で、何人か眷属がいまして生活にはさして、苦労していなかったのですけれど、何か物足りなさを感じていましたの。

そして、一目で恋に落ちました。

整った顔立ちに幼い頃から仕込まれていたであろう佇まい。

探している人がいるのだと言ったその目には強い意思があり、とても素敵でした。

手伝ってあげるからと騙して眷属にしてあたくしの野望のために協力してくれました。異能はとても役に立ったし、傷つかせることを好まない優しいところも好きでした。しかしそれは崩壊から9年後のことでした。いきなり連絡が途絶え命令を出しても帰ってこない。戻ってきたのは半年後、その時にはあたくしの愛したあの人はいなくなっていました。

「伏見サマ、お久しぶりです。俺、人殺せるようになりました。」

笑ったその顔はあたくしが好きだったくったくのないものではなくそこにいたのはただ血まみれの殺人鬼。

その後も彼はよく働いてくれました。あたくしの夢に向かって、汚れ仕事も進んでやりました。

そして崩壊から10年。彼は言いました。出口のない部屋が欲しいと。なにも言わず与えました。家具などは自分で運び込んだようでその部屋に入ることはついぞなかったけれども誰がいるのかはわかっていました。彼の探していた人なのでしょう。ああ崩壊に巻き込まれて死んででもいてくれれば、彼はあたくしのもののままだったのかもしれないのに。

そして、あたくしは傲慢でした。眷属にしたそれだけでかれを思い通りにできると思っていたのです。感染る変種、吸血鬼。解除するには大元である真祖が死ぬか、別の物に変種するか。彼は自力で吸血鬼になっていました。

「さようなら伏見サマ」

ああこんなことなら、あたくしをなんとも思わないようなあなたなら、あたくしを殺すことになんのためらいもないあなたなら、あたくし以外を愛するあなたなら、あたくしたち出会わない方がよかったのじゃあないかしら。

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