麒麟と乙女の何でも屋

棘蜥蜴

第1話あいつらの話


いいかい?これは夢だ。

今からする話の主人公はどうしようもないクズ人間ばかりだ。

でも、よく聞いてほしい。

確かに許されない奴らだった。

でも、人間だったことも事実なんだ。

これはわたしのエゴだけど、今からするクズ人間どもの話がどうか君の頭の中に残りますように。そう願っている。


本題に入ろう。

まず、誰から語ろうか。

………。

まずは史上最悪の天災と呼ばれた罪悪感の怪物の物語から。

彼の名前は水城香。

普通の平和な日本の大グループの創始者である水城の家に長男として生まれた。

彼には双子の弟がいた。

二卵性だったが。

弟とは生まれてから死ぬまでずっと仲が悪かった。

会えば言い争いになり酷い時には殴り合いに発展して厳格な父に叱られたりもした。

そして、彼を語る上で最も重要な人物と出会ったのは彼が5歳の頃。

水城は古くから続く名家。使用人も多くその中でも先祖代々水城に仕えていた一族があった。

その一族の少年が彼の世話係、遊び相手として彼に仕えることになった。

その出会いは必然でも運命でもなかったがこの出会いがのちに与えた影響は計り知れない。

少年は、彼の従者は彼と同い年の優しい心を持つ優秀な人間だった。

そうして彼は仲間たちに囲まれてすくすくと育ち、小学5年生になった。

ここで彼の趣味について説明しよう。

彼は背も低くかわいらしい顔立ちのためよく女子に間違われた。

そして、7歳ほどのある日思い立ったのだ。こっちの方がいいなと。

髪を伸ばし始めた。

服は青いような色の着物を好んだ。女物の。

彼は女装が趣味だった。

控えめに言ってもかなり似合っていて、喋らなければ男とわからないほどだった。

話を戻そう、それが起きたのは3月のこと。

崩壊。

全人類の9割が死亡したそれはまさに世界の終り。

大津波に地震、異常気象。

世界中で起きた災害のオンパレード。

彼は、生き残った。

そして、彼は異能者だった。

異能者のほとんどは崩壊時10代20代で彼らは人ならざる力を持っていた。

あるものは火を吹きあるものは草木を操りあるものは触れずにものを動かした。

そして、そのほとんどは崩壊時いたところから別のところに飛ばされていた。

彼は崩壊直後の混乱の中で差別され、食料もなくその中でも生き残った。

そして1年後、壊滅した東京のかわりに発展した福岡の孤児院に拾われる。

そこでもいじめられた。

そんな彼の心の支えになったのは白木美希という女性だった。

彼女は病弱で部屋の中でずっと寝ていた。

話せば明るいわけでもなくしかし人を元気づけるような強かさが彼女にはあった。

恋をしたのはある意味で当然だったかもしれない。

しかし、その恋が叶うことはなかった。

最後まで一方的な片思いのまま彼女は病気で死んでしまった。

打ちひしがれていた彼に悪魔の手が差し出される。

「久しぶりだね、女装野郎。いい能力持ってんじゃん。」

大嫌いな弟。

彼は異能者だった弟に傀儡にされそして、災害が生まれた。

彼の能力は魂喰らい。

視界内の生命の魂を喰らい、操る邪眼。

弟は傀儡にした彼のその能力で虐殺を繰り返した。

自分のせいで人が死ぬ。

そう思った彼はナイフを首に当てた。

ロープに輪を作り頭を入れようとしてみた。

わけもなく建物の屋上に上がった。

しかし勇気が足りなかった。

いや、そんな勇気はない方がいいのだが。

しかし追い詰められた彼の心はゆっくりと壊れていった。

そして、決定的な一打は再開した元従者を道連れにしたこと。

元従者を操り人を殺させた。

彼は全てがどうでも良くなった。

福岡市は壊滅した。

しかしそんな日々は幸いなことに長くは続かなかった。

崩壊前の仲間たちが、助けてくれた。

彼女らは何でも屋をしていてそこに元従者と共に誘われた彼は、希望を持った。自分にも人を助けられるのではないかと。

助けられた人は助ける人になる。

彼の能力は人々の生活を脅かす魔獣たちにも有効だったし人々の笑顔はやりがいだった。

そうして彼は、いつのまにか史上最悪の天災と呼ばれていた被害者は助ける人になるはずだった。

しかし、そうはならなかったから彼はここに最低なクズとして語られている。

元従者は、心優しい少年は人を殺して壊れた。

「アナタのせいですよ!」

人を殺して興奮を覚える化け物になった。

世間を騒がせる連続殺人鬼、首裂き魔になった。

彼はもともと思っていた。

このまま幸せになっていいのかと。

自分のせいで死んだ人たちに申し訳なくないのかと。

彼は元従者が大切だった。

恋ではなくとも愛ではあった。

この場合の正しい愛は罪を償わせることだろう。

ただ、彼は壊れていた。

彼は、罪悪感の怪物になった。

そのあとはただ元従者の望むままに殺した。

償うために罪を増やし続けた。

その最後は罪にふさわしい罰ではなかった。

もとより死にたかった彼にとっての1番の罰は生きたまま罪を増やし続け終わらない贖罪をすることだっただろう。

嫌いだった弟に2度目の呪いをかけられて結局元従者が自分を恨んでいると思い続けたまま元従者に殺された。

これが、水城香という感情があったために悪に染まることしかできなかった男の話だ。


どうだった?この話を聞いて君は正しい愛し方をできると思うかい?心は簡単に壊れる。大切に扱わなければいけないね。

……………。

次は女王と言われた傲慢さの化身の話だ。

彼女は、伏見清子は幼い頃から狂っていた。

いや、それは子供のとしては正常だ。

自分は何でもできる。

なんでも手に入る。

ほとんどの人は成長過程でそうではないことに気づき改める。

彼女は挫折を知らなかった。

金持ちの家に生まれた彼女は崩壊前は溺愛され何不自由なく暮らし、崩壊後はその身を吸血鬼に変種させ眷属たちに面倒なことは全て任せて悠々自適に生きていた。

補足すれば変種は人間が神話、伝承の怪物に分類上は、なることでその怪物の能力を使えリミッターを外せば姿を丸ごと変えることも可能という崩壊によって生まれた人ならざる力。

彼女は吸血鬼だった。

どうせならと暇つぶしに世界征服の計画を立て始めた。その頃、彼女は恋をした。運命の人だった。

心優しく見目麗しい少年は主を探していた。

一目惚れした彼女は少年を噛み、眷属にし、寵愛した。

そんな生活が数年続いただろうか。

最愛の少年と連絡が取れなくなった。

いや、その頃すでに少年と言える域は過ぎていて青年といった方が正しかったか。

吸血鬼の繋がりはある。

しかし命令に応答がない。

吸血鬼は上位存在に抗えない。

これは明らかに異常事態だった。

そして、1年後青年は戻ってきた。

心優しい純粋な人ではなく、冷酷な殺人鬼として。

彼女は傲慢だった。

だから、結局愛していたのは彼女だけで青年は彼女のことを恨んでいた。

眷属たちもただ1人を除き彼女に自分からついていったものはいなかった。

彼女の罰は最愛に裏切られ罵倒され殺されたこと。

彼女はついに何が悪かったすらのかわからないまま死んだ。


最大の罪は罪を認識できないことだとわたしは思う。

成功し続けるのも考えものだね。

………。

次は前の2人の話にも出てきた今世紀最恐の殺人鬼、首裂き魔。たった1人にだけ向かう愛のために生きた男の話だ。

彼の名前は羽賀賢人。

代々水城に仕えていた羽賀の次男として彼は生まれた。

彼がその人に会ったのは5歳の時。

彼はその時恋をした。

彼は良くも悪くも善人だった。

そして物分かりのいい子供だった。

だから、この感情は閉じ込めて墓場まで持っていき死ぬまでせめて共にいようと本気でそう思っていた。滑稽なほどに、その頃の彼は純粋だった。

そして、崩壊。

彼は主を必死で探した。

総人口の9割が死んだのだ、生き残っている可能性は雀の涙。それでも探し続け、そして。彼は吸血鬼に噛まれた。女王は、清子は彼を愛して愛して愛し尽くした。

違う。彼が欲しいのは彼女の愛ではなかった。

だから、再開した時の嬉しさといったらもう言葉では表しようがなかった。

でも、その時すでに彼は人を傷つけていた。

テレポート。位置さえわかればどこにだっていける異能。

彼は殺していないだけで、人の血を吸わないと生きていけないような自分が嫌いだった。

ただ一目主に、香に会うためだけに生きてきたのだ。

なのに。香は、史上最悪の天災は彼に殺させた。

それが本人の意思ではなかったとしても。

愛する人から与えられた罪は彼を壊した。

その時何を思ったのかはわからない。

ただひとつ言えばそれから先、彼は人の首を切り裂き殺す殺人鬼になったし、墓場まで持って行こうとした気持ちを伝え災害に…たった1人の愛する香様に触れようとするものにはそれが何者であろうと無言で首を落とした。

「嘘つき。」

最後までその愛が認められることはなかったが。

そして。天使襲来。

崩壊を起こした地球外生命体『天使』が地球を我が物とするために押し寄せてきたのだ。

人間は戦った。

彼は、正直自分と愛する災害がいればどうでも良かった。しかし災害は、水城香という人間はどれだけの命を奪っても彼のように悪には染まりきれない人だったから天使を使って人類滅亡を目論む大嫌いな弟と戦うことを望んだ。

しかし最後まで希死念慮も消えることはなかった。

そして人類滅亡を目論むネズミ狂の方が一枚上手だったから史上最悪の天災はもう一度傀儡になりまたひたすらに喰らった。

見られた瞬間、痛みも感じずにあの世行き。

誰も歯が立たなかった。

簡単に殺せていれば天災などとは呼ばれない。

そういうことだ。

しかし、彼ならば容易にできた。

何せ瞬間移動だ、見られないうちに真後ろに移動し首を落とせばいい。

何十回とやってきた行為だ。躊躇いは……あるに決まっていた。

彼の中に水城香に対する恨みや憎しみがあったかどうかはわからない。

そうあるのが当たり前のようなこともされたが。

しかし憎しみがあったとしてもそれは愛を燃え上がらせる燃料になっていたことだろう。

憎さ余って可愛さ100倍、というわけだ。

彼が水城香という存在を愛していたことは疑いようのない事実だった。

水城香は罪悪感の怪物だった。

それが自分のせいだということを彼はわかっていた。

だから彼は決断した。

これ以上愛するあなたに殺させるわけにはいかない、と。

それでも彼はその災害がいない世界など考えられなかったから、愛する香様に殺されようとした。

方法は簡単だ。

手で目隠しをしながら首を裂くだけ。

それだけで2人は死ねる。死んだ……はずだった。

しかし彼は死なずに目覚めた。

なんということだろうか、彼の愛しい災害は彼だけを、生かした。

彼は気が狂った。牢屋の中で。

彼の罰は、たった1人の大切な人がいない世界で何もできずゆっくりと死んでいくことで、愛する人を殺した罪悪感を抱える続けること。

彼が、首裂き魔が死んだ時。人々は喜んだ。

命を脅かす害獣が1匹駆除されたと。


彼はどうすればよかった思う?

きっと愛する人を間違えた。でも、それは間違いなく愛であったから。誰も彼を否定できない。

………。

次は、全てに絶望した爆弾魔で、壊れたただの人間だった男の話。

彼は、中野佳樹という。

彼は、厳しい家に生まれた。

親の言うとおりに進学校に通って親に言われるままに国立の難関大学に合格し親が望むままに大企業に内定が決まってさあ働くぞと言う時だった。崩壊が起こったのは。

彼もまた、異能者で。親は崩壊で死んでいた。

どう生きればいいかわからないままなんとか働き口を見つけて。で、そこで同僚に言われた言葉が全てのトリガーだった。

「佳樹くんって自分がないみたい。」

ないのは当然だ。自分の意志は全部押し殺してきたから。そうしないと捨てられるから。

どこに行っても求められる自分は自分じゃないのだ。

だから。

「もったいないなあ。今ここで死んでもお前が嫌いだった奴らは痛くも痒くもなんともないよ?」

彼はやっと気づいた。

自分のことをカケラもわからず強制してくるだけの人間なんて、社会なんて嫌いだったのだと。

悪魔の囁きだった。

彼は、頷いた。

崩壊から一年後のことだった。

彼が人間嫌いのネズミ狂の唯一信頼できるコマになったのは。

彼の異能は爆弾化。

無機物を爆弾にする能力。

その手で人を殺めるのは簡単だった。

そのまま彼は唯一自分を、“私”を認めてくれた悪魔が望むままに爆破して爆破して爆破した。

天使襲来の時も彼は戦った。

負けた。

彼は収監された。

真面目だった、故に壊れてしまった彼の依存先は戦いの最後に死んだと聞かされた。

彼の罰は、空っぽな自分を認めてくれる人もなくたった1人で逝くこと。

爆弾魔は結局愛を感じられずに死んだ。


愛してくれる人も場所もあったはずだ。

皮肉な話だ、世界が壊れたせいで彼の人生は狂ったのにその元凶に仕えるなんて。

……………。

最後は、全ての元凶であり自分勝手に生きて死んだクズの話だ。

彼の名前は水城触。

後に史上最悪の天災にした大っ嫌いな兄の、水城香の双子の弟として生まれた。

いつから、と言えば最初からとしか言いようがない。それくらい生まれた時から嫌いだった。

人間が。

かわりに好きになったのはネズミ。

邸宅の彼の部屋には何匹ものネズミが飼われていた。

生きにくかっただろう。人は1人では生きてはいけない、子供の頃は何をするにも大嫌いなモノの手を借りなければいけなかった。

どれだけの恩をもらっても助けられても嫌悪感は消えることはなかった。

彼は人が嫌いで嫌いで嫌いで。

そして頭が良かった。

地球外生命体にあった時瞬時にそれを使って嫌いなモノを全て壊す策謀を巡らせるくらいには。

それらは言った。

私達は大昔にこの世界にきて崇められていた。

しかし最近の人間は私達を信じもしない。

だから全ては私達のおかげだとわからせようと思うのだ、と。

好都合だった。

こいつらを唆して世界を壊させ大嫌いなモノを減らしてそのまま消してしまおうと。

地球外生命体、天使たちをうまく使い自分に都合のいい条件で世界を壊させた。

こうして、彼が11歳の春。崩壊が始まった。

その結果は全人類の9割が死亡。

しかし彼は満足しなかった。

人っ子1人残さず地球上から消し去るのだと。

彼の能力は呪い。

魂を装飾し書き換える異能。

人を、傀儡にする能力。

彼は、使えるコマを探し求めた。

そして、崩壊から一年後。

彼は唯一嫌いではなかった人間と出会う。

その時中野佳樹は3階建ての廃ビルの屋上にいて、いわゆる飛び降り自殺をしようとしていて。

空っぽな佳樹は彼の目にどう映ったのだろうか。

彼は優秀なコマを手に入れた。

人を、じっくり減らしていく。

2人は共依存だった。

唯一嫌いじゃない意思疎通の取れるものと唯一自分を認めてくれた悪魔。

けれど愛ではなかったから、あくまで依存だったから。そして何より2人とも悪だったから。2人は幸せにはなれなかった。

酷いことをいくらでもしてきた。

悪行の数は数えきれない。

そうして出会った最強のコマ。

魂喰らい。

大っ嫌いな双子の兄。

もちろん傀儡にしてそして。先にも語ったように福岡は人のいない死の街になった。

全てが順風満帆というわけにはいかなかった。

邪魔はされたし魂喰らいも一度手放した。

けれど最後はまた天使たちをうまく使って天使襲来と俗に呼ばれる最終決戦を起こして。

傀儡や天使を操り。そうやって。

もとより彼は、自分の思い通りになったとしたら死ぬつもりだった。自分も大嫌いな自分勝手ですぐ保身に走り愛を語りながら裏で人にナイフをたてられるような醜い醜い人間だったから。

だから、別に良かったのだ。負けても勝っても。どうしたって自分は死ぬから。地獄行きだから。

恨まれ続けていた彼は大嫌いなモノたちに追い詰められた。

自分のせいでどれだけの人が不幸になったか。彼はそんなこと知っていた。

知っていてそれでもやらずにはいられなかった。

彼の罪は一度、負けて殺されるだけでは贖えない。

地獄なんてものがあれば世界が終わるまでそこに閉じ込められることだろう。

どうしようもないクズだった。

でも、心があったのだ。

崩壊は、終わった。


いいかい、これは夢だ。

どうしようもないクズ人間だった。

人間、だった。

人は共感できるから。きっと知らないだけだ。

彼らを憎んだっていい。

ああでも。少しでも、彼らに共感してほしかった。

それだけだ。

おやすみ。

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