勇者パーティー討伐?の始まり①

 冒険者ギルドに熱弁していた男の言う通り、次の日の太陽が南に差し仕掛かる頃、グエル率いるウォーリアーズ・ビートがオーヴェロン森林入り口に立っているのを発見した。

 いつも通り高笑いしているグエル、高飛車な態度でケインに指示するアシュリー、それにおどおどしているケイン、ケインを庇うようにアシュリーを慰めるクレア、一人黙々と周囲を警戒するウェルナー、そしてがいた。

 その女の媚を売る動きにグエルはまんざらでもない態度を示す。

 木に紛れて観察していたレナは即座に気づく。彼女が新たなに加わったメンバーなのだと。そして、グエルが私を追放したかったのは彼女をウォーリアーズ・ビートに加入させるためだったと。そこに私を邪魔に思う気持ちも重なり事に至ったのだろう。

 グエルが女をメンバーに入れたい理由は明白であり私情を含んだ加入は快く思っていない他メンバーだが、全員がレナよりマシと考えて利害の一致で追放まで進んだのだろう。

 

 「グエルさーん、この先に進むんですか?アマリこわーい…」

 「大丈夫だ俺の後ろにいれば安心だからな」


 アマリと自分を名乗る女はグエルに下卑た声で抱き着く。グエルは耳を真っ赤にしながらカッコつけている。

 アシュリーは舌打ちをしながら小石を蹴る。珍しくこの気持ち悪いアマリにはレナもアシュリーも同意見だった。


 「ご、ゴッホン…グエルさん。とりあえず領主様がおっしゃっていた昔使われいた道を進む方針でいいですかね?」

 「そうだなそこまで荒れてないし予定通りでいいだろ」


 ケレンの質問にグエルは軽く首肯する。アマリへの反応とは正反対だった。

 ドラゴンが住み始めたこともありオーヴェロン森林にはモンスターはほとんど生息していない。そのためレナが作ったゴーレムトラップまでグエルたちは難なく進んでいた。


 (そろそろゴーレムを起動させるか)


 ウェルナー以外が警戒を緩んで談笑しているその先にある大きな岩。その裏にはゴーレムを隠していた。

 レナは頃合いを見計らってゴーレムに風魔法送り込む。レナの作ったゴーレムは野生のモンスターのように自動で動くわけではない。レナが送る風魔法によってマリオネットのように動かすのだった。


 「な、なんだあれは!?」


 最初に気づいたのはウェルナーだった。

 大きな岩の裏から平均的な人間の数倍あるゴーレムはゆっくり這い上がる。巨体が立ち上がると同時に支えていた木はたちまち折れてその頑丈さがうかがえる。

 

 「あれはゴーレムか?それにしても今まで見たことある奴も形が、なんかこう禍々しいな」

 「別にグエルさんゴーレムに一回しか遭遇したことないでしょ」

 「談笑は後だ。まずは俺が敵のゴーレムの攻撃を受け止める」

 「おっけーそこから私とクレアとグエルで畳みかければいいのね」


 ウェルナーを体よりも大きい盾を左手だけで持ち上げ正面にいるゴーレムへと構える。

 他のメンバーも各々武器を構え始める。


 「アマリはケレンの横へ!すぐに片付ける」


 グレンはアマリに優しく微笑むとすぐにゴーレムを睨む。

 大事な場面では急に本気になるギャップが信頼される由縁でメンバーを引き付ける理由のだろう。

 戦闘はひと時も許さずに始まる。レナはまずケレンを狙いを定めてゴーレムを動かした。ケレンはまだバフ魔法を詠唱中だ。最初に後衛を狙うのが得策だろう。

 図体では想像できない脚力でケレン目掛けて飛んでいく。

 左フックで魔法の詠唱を阻止するつもりだったが、


 「ケレ―――――――――ン!!」


 ウェルナーは飛んでくるゴーレムより先にケレンの前へ駆けつけて自慢の盾に全体重をかける。

 ゴォン!という鈍い音を鳴らしながら、ウェルナーはゴーレムの一撃を防いでいた。ゴーレムは慣性を抑えられずに後ろへ吹っ飛ぶ。


 「ウェルナー!?」

 「いいから詠唱を続けろ!」

 「っ…はい!

技を鍛えし勇ましき者よ 死をも恐れぬ猛き者よ

襲い掛かる脅威に 根源に眠りし崇高なる汝の其の御力の一片 勇みかからんとする勇者へ 我の名において最高の祝福を エルス・ハインズ!」


 ケレンの杖に周囲の金色の魔素が凝縮した瞬間、一気にグエル、アシュリー、クレアに流れ込む。

 魔法の詠唱は魔素をコントロールするのに必要な手順の一つだ。一般的に知れ渡っている初級魔法などは単純なセリフだが、巨大かつ特殊な魔法となると詠唱のセリフは教えを乞うた師匠によって異なる。

 ケレンの持つバフ魔法を教えた師匠はとても信心深い人だそうで代々聖書に書かれている言葉から着想を得た魔法を組み上げてきたそうだ。

 間髪入れずにウェルナーへゴーレムを突進させようとすると、

 

 「ウェルナーに続けていくぞ!」

 

 グエンは背中に携えた両手剣を引き抜くとゴーレムの足目掛けて突進する。そのひと振りは俊敏なだけなく非常に重い。


 (ここは接戦演出をしないと…)


 レナの魔法精度ならやろうと思えば避けることは可能だが、今回はあくまで倒してからが本番だ。

 グエルの一撃を防御するフリをしてから、甘んじて受け入れる。

 土石で出来ている足は幾つかの破片を零してゴーレムは体制を崩した。


 「クッソ…前に戦ったゴーレムはもっと脆かったぞ」

 「私たちもグエルに負けてらんないわよ。私は左足を狙うからクレアはゴーレムの核を狙って」

 「はい!」


 アシュリーはレイピアをゴーレムの左足に照準すると、目にも止まらぬ速さ突く。グエルほどの威力は無いが、足止めには十分だった。

 クレアはその隙を逃さない右手に持った短剣へ左手を重ねる。


 「私の水は羽ばたく蝶のように吹き荒れ舞い散る刃と化す ウォータークロス!」


 クレアの持っていた短剣は見る見るうちに水流を纏った大剣に様変わりする。

 クレアは剣士として戦士学校に在籍していたが、魔法の才覚もあり五大魔素を平均的な魔法使いレベルなら扱えた。

 そのため自身の短剣に敵に相性の良い魔法を纏わせて戦う魔法剣士なのである。

 クレアは水流を意のままに操ってゴーレムの核である胸に一突きする。


 (まあ、私が作ったゴーレムだから核なんて無いんだけどね。クレアがそうするなら、ここはこうして…)


 本来核がある場所を貫かれたゴーレムを、レナはまるでモンスターが絶命するかのように痙攣させる。


 「やったのか…?」


 グエルは両手剣を地面に突き刺し安堵の表情を見せる。

 しかし、ゴーレムの胸部から現れたのが宝石のように輝く核ではなく、一枚の薄汚れた紙であった。

 

 「なんだよ…これ?」

 「全員、俺の後ろに下がれ!!」


 グエルが安易に近づこうとするのをウェルナーは叫んで止める。

 グエルたちが全速力で下がろうとした瞬間、ゴーレムの胸部はまばゆい光を放ち始めて爆風を起こす。

 レナが用意した爆発魔法は火力は少ない。そこらにいる小動物を狩るので限界だろう。

 しかし、特筆すべきは爆風にある。火力からは想像できないほどの爆風を風の魔素で補っており周囲にある土石などは神速ともアシュリーの剣術とは比べものにならない速度で飛んでいく。

 グエルは持ち前の足の速さでウェルナーの後ろに駆け込めたが、足に自信の無いアシュリーと爆発魔法のすぐ隣にいたクレアは間に合わなかった。

 飛んでくる土石はアシュリーの体中にぶつかり右足は在らぬ方向に曲がっている。クレアは土石と一緒に吹き飛び横のある木に勢いよくぶつかり血飛沫をあげる。幸いなことに両者とも命に別状は無いようだった。

 ウェルナーも盾の力を入れケレンもエルス・ハインズをウェルナーにか付与する。激しい轟音の末、ウェルナーは後ろにいる三人を守り抜いた。


 「二人とも大丈夫…なのか?」


 二人の姿を見てグエルは絶句する。


 「おいケレン、二人は治るんだよな?」

 「分かりません…やれるだけのことはやってみます」

 「わ、私も手伝います…」

 「いりません!役立たずがやっと消えたんですから邪魔者をこれ以上増やさないでください」

 「いや待てケレン。アマリ、君の得意な魔法はもしかしたら回復のできる魔法なのか?」

 「はい、神聖魔法です」

 「ほんとか?それじゃあ僕はクレアを治すからアシュリーの方お願いします」

 

 「わかりました」と、アマリは首肯すると、アシュリーの横に座り純白の魔導書のあるページを開きながら両手を広げる。すると、アマリを中心に青白い光がアシュリーを包み込む。

 神聖魔法とは魔法使いの中でも特に貴重な存在として扱われる魔法の一つだ。エドワール王国の教会に在籍してかつ高い魔法適正が無ければ教えてもらうことすら叶わない回復に特化した魔法である。

 ケレンとアマリは必死に魔素を練り上げるが一向に治る気配がない。


 (やばい…さすがに威力強すぎたかな?まあこれくらいの罰は必要か)


 レナは心配したがすぐに杞憂に終わる。

 練り上げた魔素はアシュリーとクレアの傷ついた体にくっついて修復される。

 次第に青白くなった肌も赤みを取り戻して二人は目を覚ました。

 

 「いったぁーーーーー。ちょっとなんなのよ!ゴーレムが最後に爆発するなんて聞いてことが無いわ」

 「僕も初めて見ました。おそらく新種のモンスターなのではないでしょうか?ゴーレムが持っている魔素の形も歪でしたし」

 「それにケレン、あんた回復遅いのよ!どんだけ私が痛かったって思ってんの!!」

 「それに関してはアシュリーの誤解だぞ。アマリのおかげで治ったんだ。まずはありがとうだろ」

 「そうです。それに僕は今日かなりの量の魔素を扱いましたのでどちらか一方を治すのが限界だったかもしれません。アマリさんのおかげで助かりました」

 

 アシュリーは苦虫を嚙み潰したような顔をしながらもイラつきを心の奥底にしまう。


 「……ありがとう」

 「私の力がお役に立ったのでしたら何よりです」


 アマリはおごらずに朗らかに笑い返す。その姿は彼女を照らす太陽も相まって女神のようであった。

 アマリはアシュリーにてを差し伸べると、何も言わずにアシュリーは手を掴んで立ち上がる。

 クレアはウェルナーにおんぶされて少々恥ずかしがっている。


 (これ以上ゴーレム動かすとパーティーが死にかねないな。できる限り苦しめなければ)

 

 レナはゴーレムに使った魔法を全て解除する。そして爆発魔法が起動しないように刻印の書かれた紙を燃やすのであった。

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