第8話
授業1日目。
私は、気合を入れて登校する。
「おはようございます!」
「おはよう」
よし。1時間目は…現国だ。
「では、このページを…青木さん!」
「〜〜」
一発目、ちゃんとした授業かあ…。
「では続きを、隣の大﨑くん」
「〜〜」
今どこらへん読んでるんだろ?私の番に来なかったらいいな…。
「はい!それでは…この作品はですね、〇〇が…」
んー?なんて言ってんのー?
「ね、みなみくん。先生なんて?」
「ああ、なんか、情景描写が大事なんだって。今黒板に書いてるやつ」
「あ、あれか!ありがと」
そしてまた…。
「ごめんねまた。今どこ読んでる?」
「今はこのページ。…なあ、先生の言ってること、分かりづらいか?」
「えへ、まあ…」
黒板の方向きながら大事なことは話さないでほしいんだよね…。本当はダメだけど、勝手にタブレットに話し声を文に書き起こしてくれるアプリ、インストールしちゃおうかな…。
「せんせー、佐々木さんが、話してる内容が分からないから、分かりやすく話してほしいそうでーす」
げっ⁉︎みなみくん⁉︎
「ちょ、ちょっと」
あんま目立ちたくないからやめてー‼︎
「あ、佐々木さんって…あ、そうだね。耳が不自由なんだっけ?どこだ佐々木さん」
「あ、すみません。そうなんです」
「あ、佐々木さんいたいた。先生、こっち向いて話せばいい?」
「すみません!お願いします」
でも…まあ良かったのかな。
それ以降、なるべく私が分かりやすいようにこっちを向いて話してくれるようになった。
休み時間。
「みなみくん、ありがとう。おかげで助かった」
残りの授業時間は、なんの弊害もなく受けられた。
「いいってことよ。いつでも頼って」
「あれ、みなみくんって、意外に面倒見いいタイプ?」
「あ?」
フレンドリーだし、全然戸惑わず助けてくれるし。
「あー…。まあ、妹いるしそれでかな」
「え!どんな子どんな子」
「あとで写真見せてやるよ。んなことより次移動教室だぞ。鍵当番困らせる前に早く教室から出てけ」
「はーい」
次は…生物だ。今度は自己紹介とかで1時間終わればいいなあ。
「…あれ」
…またここだ。おかしいな。移動教室くらい、私なんとかなると思ってたけど…。
「生物室どこ⁉︎」
うぅ…。確かに元より方向音痴だけどさ‼︎高校生にもなって迷子とか恥ずかしくて顔赤くなりそうなんですけど…。
しかもあと1分くらいで授業始まっちゃうし!わ〜、マジでどこにあるの⁉︎私、全フロア見たと思うんだけど…。
「大丈夫?」
わっ!びっくりした。あ…3年生?
「あっ、えっと、生物室が分かんなくて…」
「ああ、渡り廊下分かる?」
「…」
「こっち。ついてきて」
「もうすぐチャイムなるので大丈夫です!お気遣いありがとうございます」
「ううん。気にしないで。あ、ほらあれだよ」
ぱっと顔を上げると、そこには一度も辿り着かなかった渡り廊下が…。
と思ったところで、先輩がびくっと体を震わせた。──チャイムが鳴ったんだ!時計を見ると、確かに授業が始まる時間。
「すすすすみませんっ…‼︎」
「いいのいいの。じゃね、頑張って!」
そういうと走り去っていった。
私も生物の授業に急いで行かないと。とはいえ、まだ場所が分からない。とりあえずこの渡り廊下を渡ればいいんだよね…。
え、こんなフロアあったんだ。別館?古くて暗くて気味悪い。うぅ…こっち?
とにかく明るい部屋を探して、急ぎつつそろそろと歩く。
こんな場所初めてだ…。えぇ、どの部屋も暗くてどこに生物室があるのか分かんないよぉ…。
階段を降りてみると──。
あっ‼︎理科の実験室だ!てことはこの辺に理科の部屋があるってことだよね⁉︎
私は一目散に走り出し、生物という字を頑張って見つけ出そうと目に集中した。
「あっ、あった…」
恐る恐る、ドアを開ける。
ガラガラガラ…。
「遅れてすみません…」
「あー!やっと来た。今ね、ちょうど委員長の夏目さんに、探しに行ってもらってたのよ。会わなかった?」
「えっ…」
どうしよう、私のせいでクラスメイトが行方不明に…!
「佐々木さん!ようやく追いついた〜」
え、もしかしてずっと追っかけてた⁉︎気づかなかった…。
「よかった2人ともいて。それじゃあ授業始めるわよ。席について」
「今日は、授業の説明と、私の自己紹介をしたいと思います」
やった!授業しないんだ。ラッキー、新学期の醍醐味だよね。
「今日は忘れ物取りませんが…」
あれ?もしかして、私が分かりやすいように、こっち向いて話してくれてる…⁈
「先生、授業中こっち向いて話してくれてありがとうございました」
「いいのよいいのよ!それより大変ね、何かあったらいつでも相談してね」
この先生…神だぁ…‼︎
「ありがとうございます…!」
そんなこんなで、午前の授業を全てこなし。お昼ご飯の時間だけど、未だ友達はみなみくんだけの私はぼっち飯。みなみくんは、みなみくんの男友達で学食に行ったからいないんだ。ぼっち飯とかなかなかしたことないから寂しくてたまらないけど、まだ初日だししょうがない、か…。
「あ、佐々木さん!もしかして1人?私たちと一緒に食べない?」
「あ、えっと、いいの?」
この子…誰だっけ…。
「うん!食べよ」
「凛華ー。誘えたー?」
こくりと頷くその子は、宇野凛華ちゃん。
「こっちおいで!」
私の、初女友達…!
「佐々木さん、私なんて呼べばいい?」
「あ、えっと都とかみやちゃんでいいよ」
「じゃー都ね!」
「私みやちゃんって呼ぶー。可愛い!」
それで…
「皆んなのことはなんて呼べば…」
「私、
「栞菜ちゃんとかでいいよ!」
「私も!」
凛華に、栞菜ちゃん、実咲季ちゃん。
「よろしくね!」
「そういえば、都って耳聞こえないんでしょ?」
「うん。いつも皆んなの口を読んでるんだ」
「自己紹介の時、耳聞こえないって言うからはじめびびったー。話とか伝わる感じで安心したわ!」
「分かるー。それな」
「てか普通にすごいよね」
「マジでそれ!」
3人がわちゃわちゃ話している。いわゆる陽キャって感じの3人だ…。私、この3人の輪に入って大丈夫なのかな⁉︎
「あ、でも授業のときとか皆んなに迷惑かけちゃって…」
「あー現国のやつ?全然気にしてないって!ね、実咲季」
「うんうん。あれはあのおっさんが悪い」
おおおおっさん⁉︎笑。
「あはは、ありがと」
ノリが良くて、案外私もついて行けるかも。
「てかさ都ー!私、せっかく席隣なんだから話しかけてよー」
そう。凛華は隣の席なのだ。でも、超明るくて眩しすぎて話しかけられなくって、ずっと遠慮してたんだよね。
「こうやって凛華と友達になれて私も嬉しい!栞菜ちゃんも実咲季ちゃんもこれからよろしくね」
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