第7話
「…、〜。…!〇〇、〜…」
あー。暇。暇すぎる。
高校の入学式。式典は毎回のことながら、校長の話が長い。耳が聞こえない分、ほんっとおぉーに暇な時間だ。
「校歌斉唱、全員起立して歌いましょう」
「?」
あ、なんか皆んな立ってる。
「〜♪」
ピアノ弾いてるから、なんか歌歌うんだ。とはいえ、歌えないし。ただ立たされて、何もできない間にまた座らされて。どうせ何もしないしと思って、せっかく立てる機会の時に、周りを見渡してみた。
──あ、積哉だ。クラス遠いなぁ。話しかける予定もなかったけど、やっぱり話しかけることはなさそう。
──あれ、中学一緒の子だ。隣のクラスか…惜しいな〜。
私がのびのび暇を持て余していると、左隣の坊主頭くんにものすごい形相で睨まれた。
「⁉︎」
何があったのかも分からず、とにかくびっくり。ななな、何…?え、私だよね?睨んでる対象。
モヤモヤとしてるまま、クラスへ。
「えー1年5組の皆さん改めまして、担任の斉藤と言います。先ほど、既に話した人も数名いらっしゃると思いますが、皆さん初めまして。とりあえずー自己紹介からいきたいと思います」
斉藤先生か。女性の先生で、生徒と仲良さそうな先生だ。
「てことで〜、1番の青木さんから順番に自己紹介、していきましょか」
えっ…いや急に言われても‼︎あるあるだけど、絶対新学年のとき突然の自己紹介タイムくるよね。
「〜でーす。皆さんよろしくお願いします」
10人終わったところ。もうすぐ私か〜。緊張するって…。誰1人としてこのクラスに知ってる人いないんだもん…。
って考えてるうちに私の番。出席番号早いからな…。
「え、えっと…。13番の佐々木都です。みやちゃん、とか都って呼んでください。友達と公園で話すのが好きです。遊びとか誘ってください。私は耳が聞こえないのでそこらへん配慮してもらえると嬉しいです。1年間よろしくお願いします」
ちょっと堅苦しかったかな…?
クラス37人分の自己紹介が終わり、初めての休み時間。う〜、誰に話しかけよう…。意外にも初日にしてグループとか固まっちゃってるんだよな…。同じ中学の子もうちのクラスいないし、塾同じでも顔見知り以下くらいの子しか一緒じゃない…。前後は男子だし話しかけにくいな…。
「なあ、佐々木って耳聞こえねーの?」
「は、はいっ⁉︎」
「だから、耳聞こえないの?って…」
さっきの坊主じゃん!
「そ、そうだよ」
私が話すと、坊主くんはびっくりした顔をして、こっちを見てきた。
「え、耳聞こえない…で合ってるんだよな?」
こくりと頷くと、また顔をしかめて、一瞬考える仕草をした。
「なんで喋れんの?俺の話、聞こえてないよな?」
「ああ、口の動き、見てるから」
「ふーん。あのさ、だから校歌の時歌ってなかったんだ?」
「そうだよ」
君が睨んできた時ねっ!
「なんだ。てっきり耳聞こえてるのかと思ってた。俺とんでもない勘違いしてたわ、ごめんごめん」
後半は手で顔を覆って話してたからよく分からなかったけど、とりあえず悪い人では無さそう…?
「いやさ、校歌、なんで歌わねえんだろって思ってさ。うち家族皆んなこの学校だから結構思い入れあって。苦労して入ったのに、隣のやつ──佐々木が全然真面目に校歌斉唱しないから、腹立っちゃって…悪りいな」
「う、うん…だい、じょうぶ…」
「あ、ごめん色々話し過ぎて分かんなかった?」
「いえっ!大丈夫!慣れてるから…っ」
よかった。睨んできたの解決して。
「いやー、でも佐々木も悪いよ?」
はぁ?…え、なになにどういうこと?急展開きた…。
「だってさ、新入生点呼ん時、普通に返事してたじゃん!だから耳聞こえないのかなとか微塵も思わなかったよ。あれ聞こえてないのにどうやって返事してんの?」
ああ、皆んなに聞かれるやつね。
「あれは、前の人が立って返事してから、次の人がだって返事するまでの時間を見て、ちょうど同じくらいのタイミングで返事してるの」
「というと?」
「君が『はい!』って言った5秒後に、私も同じく『はい!』って言って立つの。そしたら、先生の点呼と大体が合うってわけ」
「すげぇな…プロじゃん」
ま、14年?聾者生活してますから。
「でさ、その『君』呼びやめてくれない?」
「は?キミヨミ?」
「違うって!あ、ごめん分かりにくかったよな、あの、俺のこと『君』って呼ぶの、なんかやだ」
「あ、なるほどね、分かった。それでえっと…君は…」
越田みなみくんね。
「…って、え!私の友達と同じ苗字…。すごっ」
「マジか!この学校いる?」
「いるいる。その子も障害者の子なんだけどね。目が見えないから、あんまり喋ってないや。1組の、積哉って言うんだけど…」
「喋らないのに友達なんだ?」
「あ、あれなんだよ。私児童養護施設育ちで。積哉も同じとこで育ったから」
しくった…みたいな顔でこっち見るのやめてよ。
「そうなんだ。なんか、こんな初日に色々知っちゃっていいの?」
「まー、訊かれるからしょうがないよね?」
「ぐっ、ごめん。踏み込んじゃって」
「いいよ。別に自分ではなんとも思ってないし。それが普通だからね」
「そっかー…。あ、そろそろHR始まるぜ。じゃ、またよろしくな佐々木」
なんだかんだ良い人だったな、越田…くん?──いや、なんかきもいな。積哉のこと苗字で読んでるみたい。さすがに話さないとはいえ、同じ場所に住んでる子を苗字で呼ぶのはむしろ気持ち悪いから「積哉」呼びだけど、この越田くんも、名前呼びでいいかな…。だって積哉のこと苗字で読んでるみたいなの、本当に気持ち悪いんだもん笑!
「あのさ!」
「?」
「みなみくんって呼んでもいい?」
「いいけど」
「よかった!なんか友達のこと呼んでるみたいだからさ!じゃ改めてみなみくんよろしくね」
「お、おう!」
今日は満足。この1日の出来事をベッドで咲苗に報告する。
「でさー。びっくりだよ。積哉と同じ苗字って」
「越田…だっけ?積哉の苗字」
「そうだよ、同級生の苗字だよー忘れちゃったの?」
「いやいや、覚えてるんだけどさ!確認だよ!か、く、に、ん!」
ふふ。咲苗ったら焦っちゃって。
「咲苗の方は?新しい環境はまだ慣れない?」
「うん…そうだね。かなり大変だよ…」
「コールセンターだっけ?」
「そう。クレームとかも来るから結構大変でさー…」
「そっか…。私にはコールセンターはできないから、大変さを分かってあげることはできないけど、応援してるからね!ほら明日のためにも寝よ」
私は起き上がって咲苗の体をぽんぽんと叩いた。咲苗は起き上がって、二段ベッドの上の段に上っていった。
本当は、上と下で会話するのが理想だけど、私は相手の顔を見ないと分からないから寝る直前まで私のいる下段で2人ぎゅうぎゅうで寝転んで話してるの。
「おやすみ」
そして今日も、聞こえない返事をくれると信じて「おやすみ」を言う。
「おやすみ、みやちゃん」
私たちは眠りについた。
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