第2話
「みやちゃん!お・は・よ・う!」
同じ部屋の
「おはよう!」
目を合わせて、大きな口で話しかけてくれる咲苗ちゃん。
…トントン。
「?」
「朝ごはん!食べに行こう!」
私はコクリと頷いて、咲苗ちゃんの指さすリビングの方へ2人で行った。
「みやちゃん、伝わった?」
きゅるきゅるな目で私にコミュニケーションをとってくる咲苗ちゃんに、私はにっこりと微笑んだ。
「よかった!早く行こ!みんな起きてるかな、私たちのこと待たせてたりして」
「きっと、大丈夫だよ‼︎じゃあ、ちょっと急ご!」
私たちは、つぐみ園──いわゆる、児童養護施設で暮らしている。
そして、私は1歳の時の事故から、耳が聞こえない。
個室は2人部屋で、小学4年生の私たちは、昔からずっとペア。2人とも1歳や2歳のときからのベテランだから、大きいお姉ちゃんとペアにしないと…とかの配慮はいらないって判断されたみたい笑。実際、私たちは確かにここでの暮らしに慣れてしまっている。
正直、私はお家の記憶はない。ずーっとここ。慣れているも何も、物心つく前から住んでいる場所なんだから、ベテランなのは当たり前だよね。
「「おはようございまーーす!」」
「おはよー、
この人は園長の
「今日の朝ごはんはパンケーキだよ!都も咲苗も、それでいい?」
「はーい!いいよ!楽しみ〜」
パンケーキをウキウキで待ってる咲苗ちゃんに、
「私も‼︎パンケーキがいい!」
と続く。
「オッケー…それじゃあー、全員いるー?皆んな時間通りに起きてきてるね?」
「「「「「はーーーい!」」」」」
全員元気よく挨拶!特に小さい子とか可愛くて、つぐみ園で育った特権なんだよね‼︎
「今日は、皆んなにお知らせがありまーす!朝ごはん食べながら聞いてね。実は、新しいお友達が1人増えます!拍手!」
!?
また1人入るんだ。
どんな子かな。年齢はどれくらいだろう!女の子かな。男の子かな。頼れるお姉ちゃんもいいけど、可愛い弟分…ってのもアリよりのアリ…。
絶対絶対ぜーったい話しかけるんだ!
「それじゃあ、〇〇先生、中にお連れして〜」
拍手と好奇の視線の中、1人の男の子が入ってきた。
歳は同じくらい?それとも少し下?
どんな子かな。一緒に遊びたいな!学校も一緒ってことだもんね。歳近いって思うとますますワクワク!
けど、下を向いてて、あんまり顔が見えない…。
まあ無理もないよね。だってこの歳になって親から離れるなんて…。私には分からないけど、分かる。だって皆んなつぐみ園に入るときはそうだったから。悲しくて寂しくて、初めての土地に来てすぐ明るくなんてやってられないもん。
光のない目を持つその男の子は、暗いながらも一生懸命皆んなの前で自己紹介していた。
大勢の前なのに、もじもじしてる様子もないし…案外強気な子かも。
けど…。
「…。〜、…」
なんて言ってるの?もっと口を大きく言ってもらわなきゃ分かんないよ。
私は、真尋さんの方針で、耳が聞こえなくとも他の人と同じように話して会話する特訓を受けた。
人の話を聞くときは、相手の口を読む。
だから、園の子たちは分かりやすいように話しかけてくれるの。
「…」
やっぱり、ボソボソ喋っていてよく分からなくて。
「ごめんなさい。なんて言ってるのか分からないの」
どうしようもないから、私は意を決して発言した。
すると、最後に一言だけ分かった。
「僕は…目が見えません」
そう言うあの子は、焦点の合わないはずの眼差しを、真っ直ぐこちらに向けていた。
一瞬思考が停止した。
「
…ハッ。
…で、え?なに?なんか咲苗ちゃん立ってるし。皆んなこっち見てるし。あ、私も立てってこと?
あーあれか。咲苗ちゃんが自分の名前言ってるってことは…。
自己紹介してるのか。
私と咲苗ちゃんだけ立ってるってことは、あの子も小4?同級生だけ自己紹介する…みたいなこと?
「都!次お願いできるかな」
えっ。もう周ってきたの…。
待って待って。まだ何も言うこと決まってないんだよなぁ…。えーっと…。
「みやちゃん!自己紹介!」
「は、はい!えっと、私は佐々木都って、いいます。あー、えっと、あっすすす好きな食べ物はパンケーキ!でそれと…あ、学校も好きだよ!よ、よろしく…お願いします」
パチパチパチパチ…。
もぅ…。こんな急に言われたらできないって!
終わってからの方が恥ずかしくなってきちゃう。
「あ…それと、私、耳が聞こえないんだよね!あはは、だからえっとその、よ、よろしく!目が見えないって大変だよね、あ、だからさその…色々一緒に頑張ろうね!…なんつって…」
いや私何言ってるのー!?
はあぁぁ。もういいよ、あの子──積哉くん?だっけ、の第一印象は終わった…。たぶん図々しくて出しゃばりって思われたんだろうな…。
朝ごはんをヤケ食いして、放心状態を咲苗ちゃんとちびっこたちに慰めてもらってたところで、真尋さんと積哉くんが来た。
「都、咲苗〜。ごめんね、さっきの自己紹介ー。それで、追加でお願いなんだけどいいかな?」
「なんですか⁇」
「お部屋とかをね、案内して欲しいの!もちろん、先に先生が必要なことは全部説明してあるから、子どもたち目線で好きに案内してみて。小4組の仲も深まるといいねっ」
と言って、託された私たち。
…とは言ったものの?
まだ10歳になってもない私たちには到底無理なことで…。
「あ、積哉…くん」
「積哉でいいよ」
「積哉は、目が見えないのにどうやって歩くの?」
…咲苗ちゃんはすごいな。私にはそんな風に話しかけられない。そもそも…聾者(耳が聞こえない人)と盲者(目が見えない人)…って…どうなの⁈
「う、うんうん。私もキニナルナー」
「あぁ、これ使うんだよ。
「へー!すごい!そんなすごいこと、絶対私にはできないや!天才だね!積哉…!」
白杖って、こうやって使うんだ…。すごいな、私には全く関わりのなかった世界だ。
「すごくないよ…。──目が見えることがすごいことなんだから」
…ドクン。
…確かに?…今一瞬、心臓の鼓動が聞こえた。咲苗ちゃんも私も、なんて言ったらいいのか分からなかったから。耳が聞こえなくても分かる。すごくシーンってしてた。
目が見えることがすごいことだよって…。そうなのかもしれないけど…でも…。
どうしてわざわざそんなこと言うの?
私たちは、本当に積哉のことがすごいって思ったのに。
目が見えないこと、あんまり踏み込まれたくなかったのかな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます