Moon of Arch:EX「夜の果て」

 王龍結界 ムーン・オブ・アーク

「マイグラント」

 シルヴィアが崩壊してなお、砂漠を包み込む夜は明けないままだ。

「これは私のワガママなのですが……」

 フィリアがこちらを向き、同時にこちらの弾薬が補充され、損傷が癒やされる。

「今、エンドレスロールの管理権は私にあります。それはつまり、あなたを手放すか否か、その選択肢が私にあるということ」

 そしてフィリアの身体が輝き、間もなく、こちらと同じように損傷が修復され、おそらく弾薬も補充される。

「ふふ……

 ああもう……あなたとこうして闘うと決めた時点で、胸が高鳴って仕方ありません。受け止めてください、マイグラント」

 粒子を伴いながら浮遊し、こちらもパイルバンカーを吹かすことで応える。

「闘いだけが、私たちの居場所なのですから!」

 距離を取りつつ両腕のマシンガンを連射し、敢えてばらつきが激しくなるようにしてこちらの被弾確率を上げているようだ。こちらは高出力のブーストから斜めにジグザグに動いて弾幕を潜り抜けながら飛行ユニット内に内蔵されているアサルトライフルに両腕を入れ替え、三点射で撃ち返していく。フィリアは両肩の十六連装ミサイルを斉射してこちらの射撃を妨害しつつ、前へのブーストからチャージしたマシンガンでブレードを成し、右、左と踏み込みながら連続で振るう。上昇しながら撃ち返すが、彼女の機体表面を覆うエネルギーシールドに阻まれ、大幅に威力を軽減され、その瞬間にフィリアがシールドを反転して蒼光衝撃波を解き放ち、こちらも合わせて衝撃波を解放して相殺し、前方ブーストから両腕の武装を入れ替えてノンチャージでパイルバンカーを打ち付け、ブレードで一閃してから左蹴りを叩き込んで離れる。

「もうその機体に慣れてしまったんですね。

 あなたはどこまで強くなれるんでしょうか……」

 硬直が解けたフィリアは粒子を放出しながら後退、上昇し、再びマシンガンとミサイルの弾幕を張る。こちらは再びアサルトライフルに持ち替え、あちらとの撃ち合いに戻る。

「ふふ……ですが、あなたにはシールド展開を行う機構はありません。撃ち合いを続ければ、競り勝つのは私です……!」

 変わらず高出力で左側へ不規則に動きながら徐々に詰め、フィリアが偏差撃ちでこちらの進路を妨害しようとしたところで不意に静止し、スラスターで慣性を無理矢理殺しながら前方に一瞬全速力で詰め、今度は右側へ不規則に動いていく。間近に迫るとフィリアは左マシンガンをブレードにして踏み込みつつ切り払い、こちらが勢いのまま躱すと擦れ違い、彼女は反転しながら右マシンガンでこちらの背を狙って連射する。こちらは急反転せずにブーストを続けて大回りでフィリアへ向き直り、ブレードを振るために高度を下げて機動力が若干低下した彼女へ全速力で一気に詰め、即座に武装を持ち替えて蒼光ブレードを高出力で打ち付け、シールドを大きく歪ませて整波を狂わせ、蹴りで叩き割ってからフルチャージしたパイルバンカーを叩き込む。

 淵源の蒼光で象った撃針にて弾き飛ばされ、フィリアは地面を滑って堪える。

「そうでなくては……」

 フィリアは姿勢を正し、両腕のマシンガンを捨てる。

「あなたの機体は、今の私の機体とスペックはそう変わりません」

 全身の装甲を展開してエネルギーシールドを霧散させ、広範囲に散布して侵食させる。

「あなたが技量だけでどこまでも強くなるというのなら、私は武装を以て応えるのみです」

 コア部分から赫々たる炎が漏れ出し、まるで闘気のように沸き立つ。

「あなたと出会って、信頼し合い、愛し合い……愛情というものが齎す暴力に、私は満たされました」

 再びフィリアはふわりと飛び上がり、ブースターを吹かす。背部に装着されていた八つの発振器が分離し、両腕に四つずつ装着されて籠手のようになる。

「闘いはいいものですね。私たちの、愛情表現には欠かせないものです……!」

 間もなく、こちらへ全速力で突撃する。接近する最中で右の籠手をチャージし、三叉槍のような巨大なブレードを形成して突進する。こちらが機動力に任せて右側に回避し、フィリアが続いて左籠手からも三叉槍を形成して下から掬い上げるように振り抜き、三本の巨大な光波を飛ばし、しかし既に見慣れたそれを、光波の合間に入ることで避け、フィリアは右腕を掲げて踏み込みながら振り下ろす。小さく左側に回り込むように躱し、蒼光ブレードで刺突を繰り出すと、フィリアは咄嗟に瞬間移動を行って後退し、だがこちらも刺突の勢いのまま飛行形態へ変形して猛烈な速度で詰め、彼女は軸をずらしながらブーストで素早く後退して両腕からレーザーを乱射する。左側へ大きく動いて避けながら人形態に戻り、好機と見たフィリアは乱射を止めてシンプルなブレードを形成し、瞬間移動から斬りかかる。右、左、そして両腕を同時に振り抜き、その振り終わりの瞬間にこちらの左肩の武装であるパルスキャノンを展開し、即座に撃つ。だがフィリアは直撃を甘んじて受けながらも、両腕で三叉槍を形成して同時に振り上げ、こちらから回避の思考が抜けた一瞬を突いて直撃させて大きく機体耐久を削って押し込む。あまりにも強烈な衝撃で僅かに硬直し、フィリアは再び踏み込みながら、大上段から三叉槍を振り下ろすが、反撃として胴体部から衝撃波を解放し、フィリアは直撃を受けて硬直する。シールドと衝撃波を捨てて常に放出される粒子により、彼女へ肉薄したこの状態で触れもせずにこちらの耐久が急速に削れていく。それでも構わず接近から蒼光ブレードで薙ぎ、蹴りつけて飛び退き、右肩のガトリングを連射してダメージを上乗せする。

「私がその機体を作っていた時の……シミュレーションにおけるパフォーマンスの限界値。それを遥かに上回る挙動です……!

 全くあなたという人は……!」

 損傷が蓄積しているのを気にもせず、フィリアは嬉々とした声を上げる。そして再び右腕に三叉槍を形成し、瞬間移動で前振りを見せないことでモーションからの読みを無効化し、真上から振り下ろす。変形して前に飛び出して避け、フィリアは左腕に三叉槍を生み出して瞬間移動し、こちらの正面を横切り、光波だけを撒き散らす。人形態に戻りながら反動で高度を上げて避け、彼女は反転しながら右の三叉槍を静止した状態で振り抜き、再び光波を飛ばし、両腕を交差させてあからさまに出力を上げながら姿を消す。光波の合間を縫って軽く避け、眼前に現れたフィリアの右刺突、瞬間移動を挟んで下からの振り上げを躱し、再び瞬間移動を挟んで背後を取り、両腕を突きつけようとしてくる。こちらの左腕のパイルバンカーをフルチャージし、それに伴い格納されていた三本の杭が露出して高速回転を始め、急反転して飛行ユニットを貫かせながら彼女の胴体にパイルバンカーを直撃させる。

 三本の杭もろとも撃針を叩き込み、連鎖爆発によって破壊されながらフィリアは後方へ激しく吹き飛び、そこで左腕が破壊される。

「終わり……ですか」

 フィリアはスパークしながら、挙動が停止する。

「不思議ですね。

 今は……お別れを言いたくありません。

 この戦闘もリセットして、ずっとあなたと向かい合っていたい、そう考えてもしまいます」

 程なくして内部からなおも溢れる炎が彼女を包み込み、機体を滅却していく。

「けれど、それではあなたの闘いを否定してしまう。

 それだけは許容できません。

 ですから……」

 いよいよエネルギーが暴走を始め、彼女の全身が光り輝く。

「勝ち続けてください、マイグラント……

 全ての闘いが終わる、その日まで。

 あなたにはその権利と、義務があります。

 私のため……何より、あなた自身のために」

 大爆発を起こし、大量の蒼光粒子が空へ飛び立つ。

 そして、陽が昇るとともに視界が白けていく。
























『私はずっと、ここで待っています』

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