第3話 偽




女の子が鏡の前で笑っている。


目元をくるりと黒で縁取って、唇を血のような赤に染めた。

「わたしは可愛い」

毎日100回言えば、本当にそうなれるって雑誌に書いてあった。


笑い方も、喋り方も、友だちに合わせてカスタマイズした。

恋バナを“盛れる”ように、嘘もちょっとだけ混ぜた。


だって――

「好かれたい」って、罪ですか?



---


ひとりの男の子に恋をした。


彼は真っ直ぐで、不器用で、ちょっと天然で、優しかった。

だから、近づくには“ちょっとずつ”が必要だった。


無理しないふりをして、無理をした。

気を引くための遠回しなメッセージ。見てほしい投稿。

「わたしを見つけて」が、どんどん重くなっていった。


ある日、彼に言われた。


「……君、全部“つくられてる”って気づいてる?」



---


言葉が、脳より先に胸を撃ち抜いた。


彼は悪くない。たぶん、正しかった。

でも、それを壊された瞬間、

「わたし」が音を立てて崩れていくのがわかった。


笑い方も、喋り方も、化粧も、投稿も、LINEのスタンプも――

全部、見透かされてた。全部、偽物だった。



---


帰り道、ふらつく足で歩いた。

スマホを開けば、自撮りが並ぶ。フィルター付きの顔が、何十枚も。


「可愛いでしょ? ねえ、わたし頑張ってるよね?」


でも、誰も見ていない。

彼も、きっともう見ない。


公園のベンチに座って、スマホを落とした。

画面にヒビが入って、割れた自分の顔が映った。


歪んだ目の奥に、

ぽつりと、泪がこぼれていた。



---


泣くほどのことじゃないって思いたかった。

でも――こんなふうに泣く自分だけは、

どうしても、嘘じゃなかったから。



---


「壊してくれて、ありがとう」

そう思った瞬間、心の奥が少しだけ――呼吸をした。










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