カラースライム 後編

Side:美咲


 ああ、今日も疲れてクタクタ。

 仕事、帰りに途中の小さい神社で、お祭りしてるのが音と匂いと灯りで分かった。

 寄ってみようかな。


「カラースライム、いかがですかー!」


 ひと際、大きな呼び声。

 カラースライム?

 スライムって、あの小さいバケツに入ったどろどろした緑の奴。

 子供の頃に遊んだわ。

 色々な色があるのかな。

 そう言えば、ラメ入れたのをSNSで見たことがある。

 洗濯のり、重曹、コンタクトレンズ洗浄液で作れるんだったっけ。


 綺麗だったら、ガラス瓶に入れて飾ってみようかな。

 近づくとぴよぴよとひよこの鳴き声。

 えっ、カラーひよこ。

 動物虐待だよ。

 通報しないと。


「えっ、これ何?! ひよこじゃない! 一体なんの生き物?!」

「お嬢さん、カラースライムさ。安くしとくよ。二千円ぽっきり」


 こんな生き物を見たことがない。

 遺伝子操作?

 環境汚染で産まれた生き物?


 でも可愛い。

 大人しそう。

 ゴザの上から逃げる気配がない。


 通報するためにも買わないと。

 調査費用よ。

 無駄遣いじゃない。


「ピンクのを頂戴」

「まいど」


 手に載せられた。


「えっと、餌は何を食べるの」

「ネズミと水だよ」


 蛇なの?

 そう言えば、ひんやり冷たい。


 帰って、空の衣装ケースに入れる。


「ええと、ぴよ。あなたの名前はぴよ」

「ぴっ」


 可愛い。

 ぱっちりお目めも可愛い。


 途中のペットショップで買ってきた冷凍ネズミを与える。

 食べてくれた。

 いけない。

 電子レンジで温めるんだっけ。

 でも、食べたってことは平気よね。


 病気になったら、獣医さんに連れて行きましょう。


 スマホで撮影。

 写真や動画をSNSに上げる。


 作り物かなってコメントが多い。

 気にしない。


 次の日の朝。

 ぴよの体が、なぜか蛇の模様になってた。


 えっ、カラーひよこはスプレーで色を塗ってたけど、これもなの。

 スマホで撮影。

 動物虐待許すまじって添えて、SNSに上げる。


 これはツチノコだろって、コメントが付いて大騒ぎ。

 これって、ツチノコだったの?


 私の他にも買った人がいるみたい。

 みんなびっくりしたらしい。


 SNSには売ってくれとのメッセージが多数。


「ぴい」


 蛇柄でも良くみたら、キモ可愛い。

 一緒に遊んだけど、噛みついたりしないから、危険はないよわよね。

 他に買った人からも、そういう被害の報告はない。


 ぴよは絶対に売りませんとSNSに書く。

 会社に出勤して仕事。


 なぜかぴよの顔が見たくて、帰りが早足になる。


「ぴよ、お腹空いてるでしょ」

「ぴぴい」


 冷凍ネズミを与える。

 衣装ケースの中にゴキブリの足を見つけてしまった。


「げげっ、もしかして。ぴよ、ゴキブリ食べた?」

「ぴい」

「食べたのね。悪い子。でも助かったかも」


 インターホンが鳴る。


「はーい、どなた」

「夜分恐れ入ります。○○大学、生物学研究室の者です」


 SNSから身元を特定したの。

 ちょっと、プライバシー侵害よ。


「犯罪者に話すことはありません! 帰って下さい!」


 ドア越しに、そう言った。


「地球外、生命体の疑いがあるんですよ。政府も動いてます」

「ぴよが何をしたって言うんですか?! お帰り下さい!」


 そして、朝になったら、扉の鍵は壊され、ぴよは連れ去られていた。

 眠り過ぎた感じ。

 恐らく睡眠ガスを使われた。


 ぴよが睡眠ガスで、病気になったりしてたら許さない。

 こんなことして良いの。

 ここは民主主義の法治国家よね。

 独裁国家並みに酷いやり口。


 警察に盗難の被害届けを出し。

 SNSで呼び掛ける。


 他の人のツチノコも全て連れ去られていた。

 仕事してる場合じゃない。


 デモを企画。

 政府の犯罪は訴えた。

 マスコミも反応。


 総理大臣が謝罪。

 内閣は総辞職。

 議会を解散しろとの野党の声に与党から造反が出て、総選挙になるみたい。

 今の与党には絶対に投票しない。


 ツチノコ達は研究所でたくさんのゲージに入れられてた。

 一目でぴよが分かった。

 模様が違うから。

 元気みたい。

 良かった。


 私は駆け寄った。


「ぴよ!」

「ぴい」


 なぜか涙が溢れた。


「さあ、帰りましょう」


 ツチノコは粘菌の一種じゃないかとの政府の見解。

 茸の仲間だって構わない。

 可愛いは正義。


 神経も血管もないらしい。

 脳みたいな器官はあるみたい。

 でも、どうやって動いているのかも謎。


 ちなみに毒は検出されなかった。

 歯もなくて、体の中で溶かして消化してるらしい。

 そういうのが外から見えなくてちょっと安心。


 かなりの高温と低温に耐えるとのデータ。

 私が部屋にいない間にクーラーを点けっぱなしにしなくても良いみたい。

 エコで助かった。


 寿命の推測も不可能。

 長く生きてほしいな。

 亡くなったら、ペットロスになってしまうかも。


 ツチノコの飼い主はみんなうちの子が可愛いと自慢してる。

 手放す人はいないみたい。


 だって、一緒に遊ぶと猫みたいに媚びてくるんだもの。

 生物学者によれば、蛇柄なのは天敵に襲われないため。

 可愛いく見えるのも同様。

 動物の子供が可愛いのと一緒らしい。


 猫用の玩具で遊ぶ。

 猫じゃらし系の玩具がお気に入り。

 ぬいぐるみは興味なし。


 悪戯はしない。

 しても、これだけ可愛ければ許される。


 頬ずり。

 ああ、冷たい体が気持ちいい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

カラースライムのテキ屋おじさん 喰寝丸太 @455834

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ