カラースライムのテキ屋おじさん
喰寝丸太
第1話
カラースライム 前編
Side:ヘロン
俺はケチな3流詐欺師。
捕まったことはないが、詐欺の成功率は低い。
しかも、でかい山を踏んだことなんかない。
持っているスキルがカラースプレーなんだよ。
幻覚系の方がよっぽど良い。
石に金色を塗って、金塊だと酔っ払いを騙す毎日。
ある日、犯罪組織の幹部を嵌めてしまった。
酔いが醒めて、俺は追われる身。
自業自得だが、飲み代を盛ったぐらいの金額で、そんなに目くじら立てなくて良いのにな。
笑って済ますぐらいの度量がないと、出世できないぜ。
「おい、どっちに行った?」
しつこいな。
俺は獣道に入った。
こういう道は得てして断崖絶壁に出るもんだ。
そうしたら、樹にでも登ってやり過ごそう。
断崖の下に川があったら、石でも投げ込めば、飛び込んだと勘違いするさ。
霧が出て来たな。
こりゃやばそうだ。
崖下に転落なんて、終わり方は間抜け過ぎる。
かと言って、足を止めたら追っ手に追いつかれる。
やつらは追跡系のスキルを使っているに違いない。
霧ぐらいでは諦めたりしないだろうな。
ガサっと音がした。
くそっ、追っ手かよ。
見ると、蛇柄のスライム。
こいつは蛇スライムじゃないか。
参ったな。
追っ手よりやばい奴だ。
大きさは両手に収まるぐらいなんだが、噛みつかれると猛毒であっいう間にあの世行き。
おまけに素早いときてる。
スライムの危険種の中でも特に凶悪だ。
隙を窺っているのか動かない。
後退ると、飛び掛かってくるんだろうな。
背中を見せてやられるなんて、間抜けな落ちは勘弁だ。
「よし、良い子だ。ほれ、干し肉があるぞ」
俺は背負いから、干し肉を取り出した。
蛇スライムの目は干し肉を追ってる。
スライムの癖にこの種類は目があるんだよ。
噂では、鳥よりも遠くが見えるとか。
そして、スライムは体の全体が目。
目を潰しても、見えなくなるわけじゃない。
分かり易い弱点なんかあったら、危険種などと呼ばれてない。
干し肉をそっと投げた。
「ぴぃ」
あれっ、蛇スライムの鳴き声はシャーだった気がする。
だよな。
このひよこみたいな鳴き声は、蛇スライムもどきだ。
騙された。
詐欺師のプライドがズタズタだ。
「この野郎、騙しやがって」
「ぴぃぃぃぃ!」
蛇スライムもどきは怒ったようだ。
「ネタは割れているんだよ」
干し肉を食っている蛇スライムもどきを捕まえた。
噛みついて来ないから、やっぱり蛇スライムもどきだ。
追っ手が来たら、投げつけてやろう。
パニック確実に違いない。
さて、進むか。
霧が晴れて、現れたのは村。
こんな所に村なんてあったか?
「この村の名前は?」
「スペタイム村だよ」
「へっ、あの国境近くのか?」
「ああ、そうだ」
俺は1週間も掛かる距離を1時間ぐらいで踏破したらしい。
俺の懐から、蛇スライムもどきが飛び出した。
「ぴー!」
「おい、待て!」
「あわわわ! 蛇スライム!」
「慌てるな。あれは蛇スライムもどきだ」
「そう言えば鳴き声がそうだったな」
しばらくして、蛇スライムもどきは帰って来た。
ぴくぴく動くネズミの尻尾を口から出して。
「食い意地が張ってる奴だ」
「この村にいた猫が姿を消してしまってな。よければしばらくいてくれないか。ネズミが増えて困っているんだ」
詐欺で稼ぐのも悪くないが、とうぶん追われるのはこりごりだ。
しばらく厄介になるか。
それに、俺のモットーは非暴力。
詐欺師であって、強盗じゃない。
なるべく平和に行きたい。
辺境の農民は気が荒いと聞いている。
モンスターを相手にしてるからだろうな。
暴力沙汰になったら、1対1でも負ける自信がある。
あれっ、蛇スライムもどきが2匹になっていやがる。
増えたのか。
まあ、良いか。
たぶん、新しく増えた方がネズミを探しに行った。
そして、戻ってきて、最初の蛇スライムもどきにネズミを差し出す。
女王様みたいだな。
「お前はラミアだ」
「ぴぃ」
知能が高いのは女王だからか。
俺が手を出すと懐に入った。
兵士スライムは去って行った。
どうやら再び餌を探しに行ったようだ。
そして、1ヶ月、蛇スライムもどきが30匹を超えた。
ネズミは一向に減らない。
食糧庫での待ち伏せの狩りが効率が良いと学習したのか。
食糧庫の被害はゼロになって、村人に喜ばれた。
このまま、ラミアとこの村で過ごそうかなと思うぐらいには居心地が良い。
感謝される生活も悪くない。
兵士スライムを引き連れて、祠にやって来た。
祠に食料を奉げる。
「悪くはないだけどよぉ、詐欺師を引退して良いのかね。神様よぉ、どう思う?」
そう呟いたら、いきなり背景が変わった。
空を見るに夜だ。
だが、広場みたいな場所は、明るくて賑やかだ。
家族連れが多い。
みんな食べ物を手にして食べている。
美味そうな匂いの洪水。
この場所は何だ?
言葉が違うのに理解できる。
気持ち悪いったらない。
「あんた、助っ人か?」
「ああ」
何か知らないが、話を合わせる。
この男から、裏の者の匂いを嗅ぎ取ったからだ。
「商売道具は?」
「急だったんでな。必要なら取りに戻るが」
「リュックに入ってるのはゴザか。その生き物は売り物か?」
「そうだ」
「不気味な柄だな。マニアには受けるかも知れないが、売れないだろう」
「まあ、見てろよ【カラースプレー】」
兵士スライムの一匹にスキルで色を付けた。
「カラーひよこみたいな奴か。あれは禁止されてるが、その生き物なら問題ないだろう。まあ良い、来いよ」
なぜか、スライムに色を付けて売ることになった。
ぼったくってやろうと思う。
俺の国では、一番、高い硬貨は大金貨。
こんな値段じゃ無理。
2段階ぐらい下げるか。
となると大銀貨だな。
宿に10日は泊まれる金額だ。
この国の上から3番目のお金は二千円札というらしいが、その値段にした。
スライムが珍しいのか、飛ぶように売れて、完売。
その金で、食い物を買いまくったら、なぜか祠だった。
食べ物を買ったのは食料がないと、何日も逃げられないからだ。
懐にはラミア。
売った兵士スライムはいない。
食べ物が持ちきれないほどある。
夢ではないらしい。
祠にお土産の食べ物をいくつか供えて、村に帰ってみんなでお土産を食う。
美味いのもあったが、匂いほどじゃないのも多かった。
一体、何だったんだ。
思えば、あの霧からだ。
まあ、良いか。
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