22. おれからなにがうばわれた?

「あれ? ……僕のと同じ?」

 ポケットから全く同じ端末が出てきた。


 それより……なんだ今の違和感。

 同じ声でも、テンポや息の出し方がおれとどこか違う。

 それに。


 ——”僕“?



【4月20日6時??分】


 スマホはゆっくりと充電ランプが点滅している。


 正面にいる男、確かに顔は同じ。

 けど、こいつを見ていると……。


「バイト用。生活費……稼ぎたくて」

 前髪に隠れた目は視線が常に泳いでいる。たまにハッと振り返り、その度、安堵の息を吐く。


「バイトはまだ無理だよ、ショースケ」

 タクトが優しく声をかけた。


 頭に割り込んでくる奇妙な映像——この部屋。向かいに制服の”おれ“。

 今と立場が逆だった。

 制服の”おれ“は、吹き込み前のアニメみたいに口だけが動いてる。


 他にも浮かんでくる。

 ここじゃないどこか、物陰から敵らしい誰かを覗いている。時には不意打ちのように背後に回って、相手を沈めていた。


 そんな血生臭い絵がいくつもある限り、認めるざるを得ない。 

 警戒してビク付いているこの男の先が、おれなんだ。


「これでも、だいぶ良くなってきたんだけどね。話は通じるようになったし」 

 おれの言いたい事を察したのか、タクトは曖昧な笑い顔で続ける。

「それに、ちょっとだけ笑うようになったんだ」


 落ち着きなく辺りを見回すもう一人のおれ。この時、何を考えていたのか、濁った目をしたコイツからは、さっぱりわからない。


 ……お前、どこで何を奪われたんだよ。

 

 イラついた。こいつの理由、消されて残っていない。

 それでもやっぱりお前はおれなんだ。


「おれが聞くのも変な話だけど、何があったんだよ?」


 今気がついたかのようにそいつは目線をこちらに向けた。顎に乗せた手が小刻みに震えている。なのに顔には恐怖が出ていない。表情だけ何処かに置き忘れて来たみたいで、むしろおれの方が震えてくる。


「……今も……時々するんだ……銃を向けられる音が」


 ——!?


 肌に風が触れただけで、ショースケの体が反応したように見えた。それだけの恐怖が今も頭にこびり付いてるって事か。

 でも、おれは……。

 ——聞いたはずの音がどれも綺麗さっぱり消えている。



 と、その時、部屋にいい匂いがするのに気づいた。ドタドタとした足音が空気をぶち破る。


「朝ごはんだよ〜! ショースケ、ちゃんと食べなよ?」

 制服にエプロンをしたレイが、豪快にご飯と味噌汁をテーブルに置いた。

 ん? なんかレイの表情が、それに仕草も……。

「レイ、そんなキャラだったのか? 朝はもうちょいこう……」

 落ち着いていたと思うんだけど。

「あー、レイはお腹減ってると無愛想だからかな。喋らなくなるし」

 弾んだ手でおかずを並べていく。盛られた玉子の炒め物。ふわっと漂う味噌汁の香り。豆腐の乗った皿。

 途端に腹が鳴る。おれ、いつから食ってないんだっけ。

「ショースケの分もあるよ?」

「おれも、いいのか?」

「うん、この茶碗、ショースケのだし」

 差し出された茶碗も箸も真新しかった。

 それにこの味噌汁。一口啜ると、頭の中で何かが引っ張り出された気がした。この風味、塩加減。食った記憶は消えたかもしれないが、体が反応してる。

「……うまいな、これ」

 レイが嬉しそうに微笑む。

「本当? ありがと、ショースケ」

「レイ、どっちもショースケなの、ややこしいって」

「だって、どっちもショースケだもん」

 当たり前のように言うレイ。

 名前を呼ばれた後は、更に飯が旨くなった気がした。

 けど、ショースケの記憶が殆ど欠けたこんなおれでも……そう名乗っていいのか?


「ちゃんと食べなよ、ショースケ」

「ごめん……食べたくない」

 元のおれは何も手をつけず、箸を置く音が虚しく響いた。

 レイが無言でショースケを見つめる。

 ここよりもっと狭い部屋に全員が押し込められたように、息が苦しくなる。

「……倒れちゃうよ?」

 レイの言葉にも、俯いて首を振るだけだった。

 タクトと目が合うと、困ったように笑う。


「それより……」

 空気を破ったのは、意外にもショースケだった。


 半拍置いてから、俯いた顔を上げ、そっと目を閉じる。

 一度深呼吸したそいつは、揺れた目をおれに向け、か細い声で言った。

「キミのことも……教えてよ」

 

 ショースケから興味を示してくるとは思わなかった。 

 辺りを気にして一瞬目は泳ぐ。でも、すぐに視線をおれに戻そうとしていた。


___________


読むのにお時間を使ってくれてありがとうございます。

主人公と一緒に困惑、ドキドキ、過去のショースケに何があったんだ?と思われた方、ぜひ感想や星で声をお聞かせください

貴方の声で、ストーリーが変わることがあるかもしれません。

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