第13話 ティラミスとコーヒークッキー

「き、緊張する…平常心よ……冷静にならないと」


私は熊田の家の前で深呼吸をしていた。

              

              ピンポーン

「田中さん。ようこそいらっしゃいました。どうぞ、お入りください」

彼は満面の笑みで出迎えてくれた。


「こんにちは、お邪魔します」


私はそっけなく答えたが、内心は心臓バクバクだった。


部屋に入ると、オフホワイトの壁、ブルーのカーテン、部屋の隅に置かれた観葉植物の葉がいきいきと美しい緑を添えている…シンプルでとても落ち着く居心地の良い空間だ。横の棚にはスイーツのレシピ本が所狭しと並んでいる。


「田中さん、こちらにどうぞ」


私はエプロンを着て台所に向かうと、手を洗った。見たことのない材料やきちんと磨かれた調理器具が置かれている。


「私は何をしたらいい?」


「では、先にコーヒーを淹れておいたので、これをこのビスケットにスプーンを使って染み込ませていただけますか?」


「わかったわ」私はコーヒーの良い香りに包まれながら、スプーンを動かし始めた。


「隣でマスカルポーネのクリームを作っていますので、何かあればすぐに言ってくださいね」と熊田の優しい微笑み。


最後に、マスカルポーネのクリームをビスケットの上にのせるのに苦戦していた田中に熊田は優しくコツを教えてくれた。


「ありがとう」


〔胡桃の心の中〕(やっぱりさすがね…仕事もできる上に、教えることも上手なのね…)


「冷やしている間にコーヒーのクッキーも作りましょうか」


彼はそう言ってオーブンの予熱ボタンを押した。


クッキングシートの上にコーヒー豆の形に丸めた生地を手際良く並べていく。


「これなら絶対みんな喜んでくれる。一口大の大きさだから、食べやすいと思う」


                チーン!


「良い香り〜!」私はコーヒーの香ばしい香りに心を躍らせた。


「味見、してみますか?」彼はニコニコしながら私の方を見た。

  

       サクッ


「うーん!焼きたて最高!」


「田中さん、ティラミスとこちらのコーヒーもどうぞ」


彼は銀の縁取りで鋭角な持ち手の洒落たデザインのカップにそっとコーヒーを注いだ。部屋中に芳醇なコーヒーの香りが漂った。


「ティラミスこんなにも美味しいなんて!それにしても、本当にお菓子作りが上手なのね」


「実はティラミスを作りたいと決めた時から、練習していたんですよ」


熊田は少し照れながら応えた。


2人の幸せな時間がコーヒーの香りと共に流れていった。













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