第6話 飲み会

「今日、全っ然仕事に集中できなかった…これではダメだ…」

居酒屋まで歩きながら、ぶつぶつ唱えていると、後ろからぬっと人影が現れた。


「田中さん、どうかしましたか?飲み会、楽しみですね♪」と

ウキウキした彼の姿を見ると、不安がすっと遠のく。


「あのさ…熊田…本当にみんなに言ってないよね?」

私は少し唇を噛み締めて言った。


「えっ?何がです?」


「終わったあぁ…もうこの世の終わりよ…」私はどんよりとした小さな声でつぶやいた。


「あっ、ああ〜あのことなら本当に誰にも言いませんから、安心してください!」

彼はガッツポーズをして、明るい声で応えた。


「すいませ〜ん!生7つ、鳥つくね2皿、もつ煮込み3皿、お願いします!」

熊田の注文する声が店内に響き渡る。


「熊田く〜ん!一緒に飲もうよ〜こっちこっち〜」


女性社員が手招きしている。


職場にはない、リラックスしたにぎやかな居酒屋の雰囲気の中、みんな話が弾んでいるようだ。


「おいおい〜田中〜全然飲んでいないじゃないか。もっと飲みなよ〜」


「見て見て、田中さん絡まれてる…あの部長しつこいのよね〜」


女性社員の言葉に熊田がすっと立ち上がった。


「じゃあ、田中さんの代わりに、私が一杯飲みます!」


彼はビールが入ったジョッキを持ち上げ、立ち上がった。


「それでは、いただきます!」


ゴクッゴクッと喉を鳴らし、彼は一気に飲み干した。その豪快さに周りはヒューヒューとはやしたてていたが、私は気が気ではなかった。


盛り上がりも少し落ち着き、私と上司の間に入って、座ってくれた彼に、


「ありがとう」と小さな声で言った。


「いえいえ、田中さん、何かあったらすぐに言ってくださいね」


 と彼はそっと耳打ちした。





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