第6話 飲み会
「今日、全っ然仕事に集中できなかった…これではダメだ…」
居酒屋まで歩きながら、ぶつぶつ唱えていると、後ろからぬっと人影が現れた。
「田中さん、どうかしましたか?飲み会、楽しみですね♪」と
ウキウキした彼の姿を見ると、不安がすっと遠のく。
「あのさ…熊田…本当にみんなに言ってないよね?」
私は少し唇を噛み締めて言った。
「えっ?何がです?」
「終わったあぁ…もうこの世の終わりよ…」私はどんよりとした小さな声でつぶやいた。
「あっ、ああ〜あのことなら本当に誰にも言いませんから、安心してください!」
彼はガッツポーズをして、明るい声で応えた。
「すいませ〜ん!生7つ、鳥つくね2皿、もつ煮込み3皿、お願いします!」
熊田の注文する声が店内に響き渡る。
「熊田く〜ん!一緒に飲もうよ〜こっちこっち〜」
女性社員が手招きしている。
職場にはない、リラックスしたにぎやかな居酒屋の雰囲気の中、みんな話が弾んでいるようだ。
「おいおい〜田中〜全然飲んでいないじゃないか。もっと飲みなよ〜」
「見て見て、田中さん絡まれてる…あの部長しつこいのよね〜」
女性社員の言葉に熊田がすっと立ち上がった。
「じゃあ、田中さんの代わりに、私が一杯飲みます!」
彼はビールが入ったジョッキを持ち上げ、立ち上がった。
「それでは、いただきます!」
ゴクッゴクッと喉を鳴らし、彼は一気に飲み干した。その豪快さに周りはヒューヒューとはやしたてていたが、私は気が気ではなかった。
盛り上がりも少し落ち着き、私と上司の間に入って、座ってくれた彼に、
「ありがとう」と小さな声で言った。
「いえいえ、田中さん、何かあったらすぐに言ってくださいね」
と彼はそっと耳打ちした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます