第2話 中学校

「あ、あの……最後に学校、行ってもいい?」

 美咲は、家の外で待っていた母に聞いた。


「……お母さん?」

 母は、引っ越しで荷物を運ぶ姿を見ながら確実に涙をこらえていた。


「いいわよ、その代わり10分以内に戻ってきて」

「……分かった」

 母は、普段の登下校時間を考えて答えたのだろう。

 いつも通りにいくと、10分なんて厳しすぎる。



「気を付けるのよ」

 そう言った母の言葉は、何だか重たい感じがした。



 美咲は、中学校に向かって走った。

 途中、車にぶつかりそうなこともあったが、やっと中学校に到着した。


 中学校は普段通りで、昨日と変わらない。けど、校門に立っていたのは、クラスのみんなだった。


 どうやら、ここでお別れ会をするらしい。

 ここは長く居たかったけど、母から告げられた制限時間があったため、お別れの挨拶だけをして、なるべく早く家に戻った。


 家に着いた頃には、既に引っ越しの準備が終わっていた。



 思えば、この家とも、さよならだ。


 この、熊山市とも。



 美咲は、じっと自宅を見つめる。


 さよなら。


 その言葉だけ思い、母と共に駅へ向かった。


 ここから駅までは5分ほど。アクセスは、そこそこいい。

 因みに父は、もう既に東京駅で待っているらしい。


 美咲と母は、いつもの道を通り、駅に着いた。

 駅には何度か来たことがあるが、何度見ても興奮する。


 みんなと別れるのは寂しかったけど、別れがあったなら出会いもある。

 向こうでも、やっていけるよね、きっと……。


 美咲は、気づいた頃には電車に揺られて眠っていた。

 電車は田んぼを超え走り出す。


 それから1時間後……。

「やめてくださいっ!!」

 東京、四方八方から狙ってくる無数の手、これが東京……。


 美咲は急いで逃げ出す。


 絶対に捕まる訳にはいかない……。

 何か分からないけど、この手に捕まれると絶対に駄目な気がする。


 しかし、タイミング悪く美咲は転んでしまった。

 無数の手は容赦なく美咲に迫っていく。


 もう駄目……。


 そう思った時、母は「大丈夫?」と声をかける。

 周囲に、あの無数の手の姿はなかった。


 夢だったのか。


「着いたよ? 東京に」


「とうきょう……」


 まだ意識が、はっきりとしていない。

 ただ、随分と長く眠っていたことは分かる。


「東京!?」


 やっと意識が戻った。

 「東京」という言葉を聞いた瞬間、美咲は元気を取り戻す。


「さあ、行くよ?」

「……うん!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る