呪いの予備校 第一章【見切り発車】
Fさんのお話はいかがでしたか?小休憩にはピッタリでしたね。
実はFさんへの電話、グループ通話だったのでもう一人参加者がいたんです。それは同じくバイト時代からの友だちのAさん。彼女も怪談を提供してくれました。
それは、Aさんが中学校の時に通っていた予備校についてのお話です。
僕とAさんは六本木のバイト先で出会いましたが、実は同郷だったことが仲良くなってからわかりました。しかも通っていたのは近くの高校。僕の高校より二つ三つレベルが上の進学校でした。
そんなレベルの高い高校に合格できたのも、厳しい予備校生活があったからだと容易に想像できます。しかし、ただ厳しいだけの予備校ではありませんでした。
「予備校って入る時期がだいたい決まっていて、私は1年の冬に入ったのね。入校した生徒を集めた説明会があるんだけど、その時に塾長から『この塾はお化けが出る』って言われたの。私は(そんなのいきなり言われても…)って感じだったし、男子たちは笑ってたのね、中学生だし。そしたら塾長が、『一年経ったら笑えなくなる』って。
その塾は一階に大家さん?が住んでて、2階と3階が塾だったの。2階は授業する教室で3階が自習室。
ある日ね、2階で授業を受けてると外階段をダンダンダンって駆け上がってくる足音が聞こえてきたの。その日だけじゃなくて、よく足音が聞こえてて、その足音がドアの近くまできたこともあったけど、教室には入ってこなくて。生徒かなとも思ったけど、そういうわけでもなさそうで。
しかもこれ一回だけじゃないし、他にも教室の中から声が聞こえてきたこともあったの。こんなことが頻発するから、最初のうちは泣いちゃう子もいたんだけど、みんなだいたい慣れていくんだよね。『あーまたか』みたいな。」
塾長の言う通り、お化けがいるとしか思えない現象が頻発したそうです。普段から足音や叩く音、声などがよく聞こえていたということですが、なぜかそれがピタッと止む日がありました。
「授業の後も夜10時まで自習をしなきゃいけないルールで、3階の自習室でほぼ毎日勉強してたんだけど、異様に静かな日があってね、雑音も一切しないの。とにかく静か。
次の日、また自習室に行くとね、窓の外から叩かれるようなすごい音がするの。別に風が強いわけでもなくて、2階に行ってもは別にそんな音しないのね。あまりにもうるさいから気になっちゃって、みんなで2階の窓から頭を出して3階の窓を見上げたり、3階の窓を開けて外を確認してたんだけど、特に何にもなかったの。そしたら塾長が来て『窓を開けるな』って言ってきて。
塾長が言うには、霊が外から中に入ろうとしているから開けちゃダメってことなのね。実は異様に静かだった日に、霊媒師みたいな人を呼んでお祓いをしてもらったらしいの。お祓いの時にすごく部屋が揺れたらしいんだけど、なんとか祓えたからあの日は静かだったみたい。」
その話を聞いた次の日、3階の自習室はいつも通り雑音がしており、「戻ってきたんだな」と思ったそうです。いつも通りの平穏じゃない日々が続くことになりました。
Aさんはボランティアサークルにも参加しており、ある夏休み、老人ホームに行って入居者と交流したことがありました。
老人ホームといってもそこにはしっかりとした入居者の方が多く、Aさんに「昔あそこには〇〇があってね〜」てな具合で、昔の話をしてくれました。話の流れでその塾のあたりについての話を聞いてみました。
そのお婆さん曰く、その土地には昔、火葬場があったのだそうです。
一通り話を聞き、僕はメモをまとめながら話を整理する時間をもらいました。こんだけ色々起こっており、土地もどうやら曰くつき。いわゆるラップ音以外にも起こりそうなものだと感想を伝えたところ、Aさんが補足で教えてくれました。
「塾長に全部憑いてたらしいよ。そのおかげで生徒には危害はないんだって。確かに塾長はげっそりしてたし。」
体を張って生徒を守るとは、まさに先生の鑑です。
それにしてもなぜ塾長は移転をしなかったのでしょうか?Aさんが通っていた短い期間ならまだしも、何年もその塾にほぼ毎日いるなんてハッキリ言って異常だと思います。これもまた”慣れ”なのでしょうか。僕はもちろん、今のAさんにも知る由もありません。
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