四日目 第一章【見切り発車】

 大人になるということは、肩が凝るということです。肩が凝らないようなやつはまだまだけつの青いガキンチョです。

 ここ数週間、いや数ヶ月かな、左肩の痛みに悩まされています。肩こりだけならまだいいのかもしれませんが、左腕もなんだか調子が悪い。感覚的な表現にはなりますが、肩から先に血が巡っていないような、左腕だけ人のものがついているような違和感があるんです。

 

 あまりにも続くのでとうとう整体に行くことにしました。その整体には一時期通っていたことがあります。職場の社長が通っており、腕が良いということで福利厚生として契約してくれていました。なぜか社内での評判は芳しくなく、1年ほど経ってからその福利厚生はなくなってしました。

 僕はしっかり効果を感じていたので、今回もこのお店に行くことにしました。ここの良いところは、とにかくピンポイントで悪いところをほぐしてくれるんです。気になるところ以外にも、そこに繋がる筋肉を辿って負の連鎖を根源から断ち切ってくれるので、自分で揉んでもどうにもならない不調も結構楽になるんですよね。

 その日施術を行なってくれたのは、その店の店長。20回ほど通ってきましたが、店長の施術は初めてでした。というのも他のスタッフさんが辞めてしまったようなんですね。どの業界も人手不足は深刻なんでしょうか。

 左肩の不調を伝えて上半身を中心に施術してもらいました。肩はもちろん、首、背中、腰、脇、どこを揉まれてもまあ硬いしまあ痛い。筋肉が硬いなんて聞くと筋トレの成果かなとか思っちゃいますが、それとは違って、凝り固まってるんですよね。腹筋も6つに割れるくらい凝り固まってくれれば良いのに。

 通常30分でも十分なのですが、今回は久しぶりだったので60分たんまり揉んでもらいました。かなり楽になりましたが、左肩の違和感はやんわり残ったまま。店長もそれを感じていたようで、セルフケアを教えてくれました。どうやら左肩を中心に、左の肩甲骨、左腕が凝っていたようですが、どうも違和感の根源は別にありそうということ。

 体全体は非常に楽になったので大満足でしたが、同時に反省しました。(普段の姿勢がやっぱり悪いのかなー)とか、(左を下にして寝るのも良くないなー)とか。

 

 施術が終わり入口横のレジまで店長と向かうと、ぽろっとこんなことを言うんです。

「左肩厄介な硬さだねー、なんか誰かにずっと掴まれてるみたいじゃない?」


 そんなこと言われちゃったら、そんな気しかしません。例えば、赤ちゃんくらいの大きさの何かが肩にぶら下がっていて、小さな膝は背中に食い込み、腕はギュッと締め付けられている、とかね。こんなのも怪談になりますでしょうか?

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霊感零怪談 @katagurigura1

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