母の除霊 第一章【見切り発車】
僕は英語が好きです。喋れるかと聞かれれば、調子に乗って”a little bit”と答えますが、それは兎も角、言語として好きです。アクセントを基調とした小気味いいリズム感、文法のクリアさ、振り被らない皮肉の効いたユーモア。喋っていると自分のアティチュードも変わるので、なんとも不思議な感覚です。カタカナばっか使って、文章にも調子に乗っているのが出てしまっていますね。
特にカリフォルニア英語が好みなのですが、それを楽しめるのがNetflixのリアリティショー「セリング・サンセット」。不動産会社で働く女性たちのセレブっぷりやバチバチのバトル、西海岸のラグジュアリーな豪邸を楽しめる番組です。
こういったリアリティショーからはリアルな英語を学べるんですよね。例えばハーブである”sage”。セージ、ホワイトセージは、邪気を祓うハーブとしてネイティブアメリカンの儀式に利用されていたようですが、現在は日本でいうお香のような感覚で、火をつけて煙をたいて香りを楽しむ感じでカジュアルに使われているようです。
こちらはもちろん名詞なのですが、「邪気を祓う」という動詞として出演者が使っていたのです。毎回女たちがギスギスしているので、「オフィスをセージしないとね」みたいな感じで。僕の働いているオフィスでギスギスするたびにセージを焚いていたら、あっという間に従業員全員燻されてしまいます。
さて本題、今回の主役Rさんとは、バイト先で知り合いました。かれこれ5年ほどの付き合いです。
僕なんかよりも英語がペラペラで留学経験もあり、現在は旅行会社で働いています。普段はオフィスでの対応ですが、たまに海外出張もあるようです。それこそ、カリフォルニアに行っているのをインスタのストーリーで見かけたこともあります。
西海岸のようにカラッとした性格でニューヨーカーを超えるせっかちっぷり、怪談とは真逆な彼女から連絡が来たときは驚きましたが、提供してくれた話は、しっかりとした心霊体験でした。
Rさんが中学生3年生、高校1年生くらいのころ、一夜漬けでテスト勉強をしていた時の話です。
日付を跨いで流石に眠くなってきたRさんは、30分だけ仮眠をとることにしました。しっかりタイマーをセットしベッドで横になり、あっという間に寝てしまったそうです。
30分経ちました。タイマーが鳴る音がしっかり聞こえたそうです。ですが、体が動きません。金縛りにあったのです。体の自由が効かない中、目がパチっと開くと、目の前に怒りで顔を歪ませたおばさんの顔がRさんを睨んでいました。おばさんの体が見えないほど近かったそうです。怖いのに目を閉じることはできず、体も動きません。おばさんは怒りながら必死に何かを言っていたようですが、Rさん曰く「何言ってんのかよくわかんなかった」ということ。
何かを訴えるおばさんでしたが、みるみるうちにおばさんの顔が消えていく、Rさんの言葉をそのまま借りると「顔が溶けてなくなっていった」そうです。
顔が完全に溶けてなくなるとRさんの金縛りも解け、動けるようになりました。怖くなったRさんはとりあえずお手洗いに行く事にしたそうです。僕だったら漏らそうが何しようが怖くて歩けませんが、やっぱり度胸が違います。
諸々済ませドアを開けると、廊下をぼやっとしたいくつかの白い球が通り過ぎて行くのを見ました。連続で怪奇現象にあったRさんは「怖くてすぐ寝た。」そうです。
ここまで話を聞き震え上がっていた僕に、追い討ちをかけるように突然Rさんからの声が全く聞こえなくなりました。電話はつながっているのですが、全く音が聞こえない。(タイミング怖すぎるだろ)と思って電話を一度切り、再度掛け直すと音声は復活。ビビリな僕は、この時点でこの日の風呂キャンセルを確信しました。
改めてそのマンションのこと、当時のことを聞いてみると、「そのマンションに住んでいた時、妹にもなんかあったらしい」とのこと。妹さんに何が起こったかは残念ながら覚えていませんでした。
Rさん自身には霊感はないそうですが、少し霊感のあるお母さん曰く「霊が寄ってくるタイプ」出そうで、他にもこういった体験をしたことがあるということ。普段そういった話を全くRさんから聞いたことがなかったので、正直驚きました。まあ普段の会話でこんなこと話さないですもんね。なかなか信じてもらえるような話でもないし。
Rさんが大学生の時、池袋のとある公園でピクニックをしていた時、耳元で女の人に囁かれ、驚いてそちらを向くと誰もおらず、怖くなったそうです。何を喋っていたのかはよく聞こえなかったという事でした。
先ほどの霊もそうですが、どれだけ霊が話しかけても、Rさんには尽く話を聞いてもらえていません。というのも僕には心当たりがありました。Rさんは普段から声がものすごく大きいのです。なのでシンプルに耳が遠いのかもしれません。
直近の話もしてくれました。Rさんはよく旅行に行くのですが、韓国旅行から帰ってきた時、普段は懐いている犬がやたらとRさんに吠えたそうです。そうするとお母さんが「何か変なものもらってきたでしょ。」と、Rさんに聞いてきました。もちろん、怪しい物をもらってきたかを聞いたわけではなく、霊が憑いているかどうかについてです。
霊感のないRさんはもちろん心当たりはありませんのでポカンとしていると、お母さんがテキパキと何かを準備しています。うまい棒より一回り小さいサイズの何かに火をつけ、煙の出ているそれをRさんの体を添わせ、煙を纏わせました。
僕が「それ多分ホワイトセージだよね?」とRさんに聞くと、「多分そうだった!」と答えてくれました。
僕がスピリチュアルアイテムについて人並み以上に詳しいのもそうですが、Rさんのお母さんがいわゆる“スピっている”のを知っていたので、ピンときたわけです。Rさんから、お母さんに関する色々なスピエピソードを聞く限り、かなり欧米よりのスピ思想を好み、アイテムを取り揃えていたので、ホワイトセージを突然焚くのも容易く想像できます。
冒頭にも書きましたが、ホワイトセージは元来ネイティブアメリカンの儀式で用いられていたハーブです。日本人のRさんに取り憑いた韓国の霊を除霊するのに、果たして渡来のハーブは効果があったのでしょうか?
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