4話 冒険者登録>魔法使いを仲間にする。

弱々しい朝日がまたしてもユージを照らす。早朝の目覚め、こればかりは習慣化しているため抗いようのない目覚めなのだ。


「ふむ、」


秋桜色の髪を地面に広げ、寝息を鳴らすミハイルを見つめる。彼女は花提灯を作り一定のリズムで口を広げては閉じていた。


この時点で貴族らしい印象は何一つない。服を上げ腹を掻く彼女、その様は最早おっさんであった。


地べたに寝転ぶことに抵抗もない、その点で言えば「汚らわしい!」とか「クレイバー家の私が!」とか吠えられないのだから良いのだろうが。


「なんだかね、」


ユージは再び背を地面にくっつける。いつもならこのまま二度寝へと走るのだが今回は少し考え無いければならない問題に直面している為に思考を動かす。


言わずもがな隣で寝そべるミハイル・クレイバーについてだ。

彼女は弱い。スライム5体にボロボロになる様はお世辞にも冒険職に向いているとは言えない。


そうなるとすることは一つ修行だ。強くなるために鍛錬に励まねばならない。つまり冒険職は今の彼女にとっては少し遠回りな道になるかもしれない。


だが彼女の性格的に事務職につけるとは思わない。何かと問題を起こしてしまだろう。こういうのもなんだが彼女は容姿端麗ではある。


もしそうではなく、平凡な顔立ちだった場合、彼女はこの世界を生きていけない程には良い性格はしていない。


清々しいと言えばそうなのだが感謝もしなければ謝罪もない、物忘れも酷いし強引だ。褒めれる点は諦めの悪いところである。


挫けない精神というものは重要で彼女にはそれが搭載されている。この一点だけで冒険者に向いていると言えるだろう。


(なにより借金がなぁ)


聖金貨1500枚という途方もない数、最早それは国単位で何かをやらかさなければ到底そんな額にはならない。


と言ってもこれはユージに課せられた借金ではないのが救いか、幾分か心が楽だ。


(やめよう、もう考えるのは)


相方が絶望的や借金を背負っているという現実から目を背くように再び瞼を閉じた。


▼△▼△


「おい、起きろ、朝だぞ」


2度寝に心地よく浸っている所にミハイルが体を揺すり起こしにくる。いつまでも瞼の裏に上映された夢を見ておきたいがここは一旦起き上がろう。


「ん、」


「よ、ユージ、目覚めの気分はどうだ」


「最悪だよ」


「そりゃ良かった。」


ミハイルは櫛で秋桜色の長髪をとかし、他愛もないやり取りをする。


「んで、これからどうするんだ?アタシはさっぱりだ。」


彼女は三角座りをしながら自身の脹脛をなぞりながらそう呟いた。


「ミハイルさんは冒険者登録してるのか?」


「なんだそりゃ」


この女、自身の職に必須のことをやり終えていない。まぁだが想定内だ。


「冒険職をする為にカードを貰いに行くんだよ。ほら行くぞ」


「おう、」


ユージは結界を解き風になびかせる草原を踏みつけながら足を進める。ユージの後に続くようにミハイルも足を進めた。


「なぁ、どこで登録出来るんだ?」


「集会所あるところ、はじまりの村が近いからそこにする」


彼女は少し弱々しい声でそう聞いてきた。何やら違和感を覚えながらもユージは気にせず進むことにしたがふと耳に腹の音が入り込んできた。正体は言わずもがな


「ミハイルさん、お腹すいたの?」


「だって、朝飯食ってねぇし、」


ミハイルは少し恥ずかしそうに人差し指と人差し指をくっつけ俯きながらそう答えた。


「残念だけど借金ある以上は無闇に買ったりしないよ」


「えええ、もうお腹ぺこぺこだってのに」


「誰のせいだと思ってんだ」


借金の張本人である彼女が他人事のようにユージに嘆くように言い放った。


「一先ず、借金ある時は基本的には野うさぎを狩る。」


「へー、野うさぎか」


彼女は何故か野うさぎと聞いて目を輝かせていた。彼女にとって狩りという行為が未知なのだ。故に彼女の興味を擽らせる。


「なぁなぁ、今から狩り行くのか?」


「いや、見かけたら狩る程度だよ、」


「えええ〜」


ミハイルは不貞腐れたように口を尖らせていた。そのまま「ケチ、」とユージに頭突きを食らわせる。背中から食らったユージはエビの様に反り数メートル吹き飛んだ。


ユージとミハイルはその後悪態をお互いに付きそのまま歩みを進めた。険悪な雰囲気ではなく。なにかと相性は良さそうな2人であった。


▼△▼△


「ここがはじまりの村か」


再び、冒険者たちのスタート地点に足を踏み入れる。村の活気が少しずつ沸きつつある現在。店等はまだ開いておらず開店の準備を行っている。


そんななか常に営業しているのが集会所だ。集会所の扉を開けユージとミハイルは静けさがたち込む中に入った。


受付の人は1人、冒険者達もユージとミハイルしかいない。


「えらい静かだなぁ」


「まぁな、はじまりの村なんてこんなもんだ。王都とか行ったらこの時間でも大分人はいるんだがな」


「へぇ〜」


ミハイルは紫紺の瞳で辺りを見渡しユージの話を聞き入れる。そこまで多くない木製のテーブル席と椅子にカウンター近くにある2つの掲示板。そこにはクエストと募集と書かれていた。ふとミハイルは募集の掲示板に目が止まる。


「この募集ってやつはなんなんだ?」


「ああ、パーティメンバーを集めたい人が勧誘の為に書いているやつだよ。」


ユージは腕を組みながらその掲示板を見つめる。中には魔法使い1人募集と書かれたものもあれば、1人が仲間を集める為に募集してる紙もある。


「ま、とりあえず手続きを済ませよう。」


ユージは足を止めるミハイルに声をかけ受付の方へ向かわせた。


「おはようございます。今日はどういうご要件でしょうか?」


「冒険者登録をしに来たんだ、」


「かしこまりました。ではこちらの紙へ名前と役職をお書きください。」


そうしてミハイルは紙とペンを貰った。しかしミハイルは役職という言葉が引っかかりペンを走らせようとする手が止まる。


「役職ってなんだ?」


「剣士とか魔法使いとかそういうやつだよ。まぁ何時でも変えれるし今は剣士にしとけ」


「うい、」


ユージは少し上を向きながらそう答えた。ユージの指示を聞いたミハイルはペンをスラスラと進めていきあっという間に書き上げた。


「出来た」と紙を受付に提出し募集の掲示板を見つめるユージの横に立つ。


「何見てんだ?」


「あーちょっとな」


ユージの目には魔法使い1人が仲間を募集している紙が映っていた。そこには


『1人は寂しいです。今なら魔法を教えてあげますから仲間になってくれる人達いませんか。私は顔も可愛いですし胸も大きいですよお得ですよ。本当にスルーしていいんですか?1人のそこのあなた私と一緒に冒険が出来る…………………』


と長ったらしく永遠と私は凄い、魔法を教えてあげるという文が連ねられていた。


「魔法を教える、か」


「あははは、なんだコイツ、可哀想な奴だな!」


掲示板の前に並ぶ2人、捉える視線の先は一緒であったが得た印象が180°違う。


1人は魔法を教えるというその条件を、1人は長ったらしく書かれた惨めな文章を


(ミハイルさんに魔法をやらせてみるのもありだな)


(胸なんか脂肪の塊を自慢してるたあたり相当可哀想な生き方をしてきたんだな)


ミハイルの胸はお世辞にも大きいとは言えず実物を見た訳でもないのにそれに嫉妬するかのように心の中で悪態を突く。一方のユージは先を見据えミハイルの事を真剣に考えていた。


「おや、そこの2人、もしかして私の募集を見ていましたか」


すると2人の思考に割って入るように後ろから声が聞こえた。2人は同時に振り返るとそこには─


「私の名前はツクヨミといいます。」


女が立っていた。魔法使い特有のとんがり帽子を深々と被り、木製で先端が円を描くように丸く膨らんだ杖を持っていた。膨らんだ中には宝石のように紅く煌めく球体の物体がある。


癖のあるロングヘアで基本的には全体が青で統一されている。履いているタイツですら青っぽい。三日月のピアスをしているが目に髪がかかっているせいか根暗っぽい印象の方が強く持たせられる。


「私の募集表の前に立ってるってことは悩んでるってことですよねどうですか?私と共に冒険するのは今なら魔法も沢山伝授しますよ、男の人、私は結構デカイですよね?どうですか冒険者は職業柄ストレスが貯まりやすいですよね、私の仲間になれば目の保養という形でストレス緩和出来ちゃいますよ?」


「─────────」


「─────────」


マシンガンのように飛ばされる下手くそな口説き文句にユージとミハイルは共に紡ぐ言葉を失った。

ツクヨミと名乗ったその女は止まることなく言葉を連射する。


(ミハイルさんでも手一杯なのにこんなやばい子を仲間に引き入れたらダメだな)


ユージはミハイルをそっと見てそう心の中で呟いた。正直魔法使いは欲しい、是非とも仲間に向かい入れたいが、ミハイルですら呆れたように彼女を見つめている。それほどの難ありな性格なのだ。


「ミハイル・クレイバー、世界最強の剣士様〜冒険者カードを作成しました。ご確認をお願いします。」


するとツクヨミの声を遮るように受付の声が木霊する。─しかしユージは受付の言葉を聞いて眉をひそめた。


「ちょっとまて、なんだ世界最強の剣士って、」


冒険者カードに記載される名前は先程ミハイルが紙に書いた名前と同じ名前が登録される。そしてそれを受付が読み上げるのだ。


「いい意気込みだろ、アタシの2つ名にしてやるぜ」


「─────」


いい歳した大人が世界最強の剣士とか呆れるしかなかった。しかも当の本人は遊びとかではなくそれに本気でなろうとしているのだ。


「冒険者ランク石って、なんだこれ強いのか?」


「強いわけないだろ、下から石、銅、銀、金、プラチナ、ダイヤ、ミスリル、アダマンタイトの順だよ、ミハイルさんは最下級だよ」


「はぁあ!しかも特別免除不可みたいなのあるし」


「それは専門学校を卒業してないからだよ。ランクが上がる時に昇格クエストみたいなの受けるんだけどそれが免除されるだけ。」


「はぁあ!クソかよ!」


ミハイルは自身の冒険者カードに記載されている明確な情報を見て嘆き叫んでいた。人気のない集会所によく響く。


「あの、貴方達、剣士志望ですか?それなら私の出番です、剣士の方でも大丈夫、簡単な初級魔法なら誰だって覚えられるし、」


「なぁ、結局この脂肪の塊は仲間に入れるのか?」


「脂肪の塊!」


ミハイルはツクヨミの豊満な胸を指さしながらジト目でユージに聞いた。


「冒険者登録をする大事な書類の名前に世界最強の剣士とか入れる女でていっぱいだっての」


嫌味をつくようにユージはミハイルにそう答えた。


「はっ、いいのかぁ?それで世界最強の剣士になったら恥かくのはお前だぞぉ?」


「スライムすら倒せない奴がどう世界最強になるのかは見ものだな」


「はっ、言ってろ!」


ユージとミハイルはお互いに睨みつけながらそう悪態をつき合っていた。それに割って入るように


「まぁ、スライムも倒せないのですか?でも大丈夫です。私が魔法を教えれば誰だってスライムを倒せます。それどころか魔獣だって、いえこの際厄災と呼ばれた魔物だって───」


ツクヨミがベラベラと喋っている間に集会所の扉が閉まる音が響く。それにツクヨミが目覚めたように目を見開かせると受付が扉の方を指さし苦笑いしていた。


自身のトークに夢中になっている間に2人は忽然と姿を消していたのだった

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