5話 ミハイルを強くする>>魔法使いを仲間にする
木々に囲まれた土の道をザクザクと音を鳴らしながらユージとミハイルは歩いていた。
「そういえばユージのランクってどんなもんだ?」
「俺は金、」
「普通だな」
少しイラッときた感情を丸めこみ歩く速度を早めた。ミハイルはその変化に気づきニヤニヤとしながらユージの後ろをついて行く。
「…………ところでよ、」
「うん?」
「後ろのヤツはどうするんだ?」
ユージとミハイルの後ろには杖を強く握りしめ不安そうな表情で歩くツクヨミの姿があった。三日月形のピアスを揺らしながら一定の距離を保ちながら歩いていた。
「まぁ、いつかは諦めてくれるだろ」
そうユージは呟くといつしか地面は土から草へと変化しており、木々が立ち込める林地帯に潜入する。─そうして目に入る見覚えのある石垣
「あ!ここは」
「俺とミハイルさんが出会った場所だよ、剣忘れたとか言ってたからな」
そこにあったのは石垣に立てかけられた剣。刀身が剥き出しではあるが立派な光沢がある。ユージはその剣を握りしめミハイルに渡そうとするが─違和感
「なんだこれ、ちょっと重いな」
妙に質量を感じた。貴族と言えど崩壊の危機、大層な剣は使っていないと思ったが宛が外れたようだ。
「ミスリル?で作ったらしい、色誤魔化してるけどな」
「はっ!?」
ユージは素材の名を聞いて仰天した。ミスリルといえば世界最高峰の金属の1つ、手がそう届く代物では無い。そこは流石貴族と言った所か
「これ売らないのか?」
「売ったらどんなもんになるんだ、それ次第だな」
「聖金貨4〜6枚くらい」
「よしいこう!」
即断即決だ。ミハイルが何か思い入れのある剣ならばそうはいかなかったが何一つ思い入れはないようだ。
「それでどこに売りに行くんだ?」
「武器屋、そこでついでに安モンの剣買ってやる」
「おお、気が利くじゃねぇか」
ミハイルは歯が見えるくらいに口角を上げながら肘でグリグリとユージの腕を押した。それはそうと
「あいつ、アタシらの会話聞いて喜んでねぇか?」
「まぁミスリルとか聖金貨とか聞いたら普通はテンション上がるんもんだよ」
ユージとミハイルから少し離れた木の影からツクヨミは嬉しそうに体を揺らしていた。テンションの起伏が体に出やすいのだろう。
「とりあえず行くか」
ユージはそう呟きながらユージは歩みを進める。少し歩き林地帯を抜ける。─その瞬間ユージの冒険者カードが光った。
「うおっ、なんだなんだ?」
ミハイルが五分の興味、五分の警戒が入った声色でそうユージを指さす。
「ああ、依頼達成の合図だよ。」
「ん?ああ、アタシのやつか」
「そ、ここがどうやら撃退の範囲らしい。」
「あの依頼書を騎士団のやつらに通すのは苦労したなぁ、ま、クレイバー家の力で何とかなったわ。」
大量の借金を抱え込む彼女が騎士団に依頼書を通せる程にはクレイバー家の功績かはたまた信頼が大きいらしい。権力等皆無どころか負の値に突入しているのだからよっぽどのものだ
報酬金は誰が出すだとか細かく複雑なことを加味するとさらにクレイバー家の凄さが滲み出る
しかし両者そんなことはもうどうでもいいと言うような雰囲気で足を進めた。その後ろを続くように気配を隠しながらツクヨミが着いてきた。
▼△▼△
──場所ははじまりの街。村とは対照的に既に活気に包まれており八百屋等、既に開店しているところがチラホラ。そんな中とある武器屋に武器を売付ける2人の姿があった。
「これは、、、銀貨2枚くらいだな、しょぼいわ」
「はぁ!狡いことしてんじゃねぇーよ聖金貨4枚くらいなんだろ?」
「いやー、俺から見たら手入れはしてあるがそこまで価値がないな」
既に5箇所目の交渉、だがその全てが高く買い取ろうとする店はなかった。本質を見抜く力がない訳じゃない。端的に言えば金が欲しいのだ。
安値で買い取り高額で転売しようとする浅ましい考えの輩がこの街には多かった。
「ミハイルさんやめとこうもう、」
「ここが最後なんだろ、いいのかよ」
不機嫌そうにユージを見つめるミハイルを宥めるとそのまま武器屋を後にした。
「とりあえずミハイルさんはまだこっちの方が使いやすいと思うから俺のと交換ね」
武器屋を出てすぐにユージは自身の剣をミハイルに渡した。質量のあるミスリルの剣、彼女が扱うには少し剣自身が役不足である。
従ってミハイルもその提案を承諾し剣の交換におうじた。そしてずっと着いてきてたツクヨミはというと
「分かりやすいくらいしょんぼりしてんな」
ミハイルはミスリルを換金出来なかった様子を見て肩を落とし、ため息を零していたツクヨミをみて同じくため息を零す。
ユージも呆れたようにやれやれと掌を天に向け首を振った。
「んで、換金出来なかったわけだが次はどうすんだ?」
「ああ、これからはクエストをこなしていきながらミハイルさんを鍛えるよ」
「お?世界最強への1歩だな」
「まだそれ言ってたのか、」
すっかり彼女の目標の一つになった世界最強の剣士、その事実を受けユージは呆れるようにため息をこぼした。
▼△▼△
陽の光が強まってきた頃、はじまりの街の集会所にユージ達は来ていた。
「村と違ってすげぇ賑やかだな」
見渡す限りの冒険者達、集会所の広さといい村と比べると随分と豪勢だ。ミハイルはその光景に圧倒される。
掲示板の数も6個存在し無数に依頼書が貼られていた。
「冒険者1人に対して受けられる依頼は1つ。でも俺たちはパーティだから実質2つ依頼を受けられる。適当な採集クエストを受注してくれるか?」
「おうよ、任せとけって」
ミハイルはグッと拳を前に突き出した後せっせと採集クエストが集まっている掲示板へと向かった。
一方のユージは討伐クエストの方を見る。ランクによる制限かあるクエストもあるが金であるユージはほぼ全て受けられる。村の方ではランクが高すぎて受注不可という事情に陥ったがここではそうはならなかった。
「ふむ、」
討伐クエストの方を見て手に顎を乗せ深く考える。ミハイルのレベルに合わせた、基礎の指導、複数クエストの攻略が出来る低レベルなクエストが良い。
「これだな」
そうしてユージが手に取った依頼書にはグレクスザウル五体の討伐と書かれていた。
手に取った依頼書に満足した笑みを浮かべた後、ミハイルを探す。どうやら彼女は既に依頼を受注したらしく仲間募集の掲示板をじっと見つめていた。
ユージも続くように依頼を受注した。村では却下されたがここではすんなり通った分、少し拍子抜け感はある。どうやら依頼数が多いが故に冒険者ランクの上限はないのだとか。
そうして受注を終えたあとミハイルの方へと足を運ぶ。
「なんかいい人材でも見つけたか?」
「いや、ほら見てみろよ」
ミハイルが指さす方には『ツクヨミお断り』と書かれた募集の紙だった。たった1枚の規模ではなく見渡せば指の数では埋まらない程にはその警告はなされていた。
ひっそりと着いてきているツクヨミをチラリと見てみる。彼女は肩身を狭そうに1人机に縮こまっていた。
「なんか、ちょっと可哀想だな」
ミハイルがツクヨミに同情を向けた。出会い頭やストーカーされていることを踏まえても彼女は同情を選んだのだ。
「よお、兄弟。至る所にツクヨミお断りの警告が書かれてるがありゃなんだ?」
するとユージが朝っぱらから飲んだくれていたゴロツキを彷彿とさせるイカつい男に話しかけていた。
「知らねぇのか?アイツは自分の身体を押し付けてくるんだ。死線を潜る仲間をそんな目で見るやつはいねぇ。あいつが孤立するのもそう時間はかからなかったぜ」
男は腕を組み目を瞑りながら過去を思い返すように神妙な面持ちで言葉を紡いでいく。
「ま、今の時代サキュバスとか1人で満たせるマジックアイテムが流通してるから余計だな。とにかくあの女は付きまとってくるしヤベェやつだ。気をつけろよ兄弟。」
「おう、情報ありがとな、また会ったらその時はご馳走する」
そうユージと男はグータッチを交わした後ミハイルの元へと戻った。
「なんだよ今の」
「冒険者ってのは情報が命みたいなとこあるからああやって聞くのがマナーなんだ、」
「ふーん、」
ミハイルは興味無さそうにそっぽを向いた。だが貴族として生きてきた身では決して邂逅することの無い作法に心のどこかでは憧れを抱いているようであった
「それはそうとミハイルさんはどんなクエストを」
「おう、アタシが受けたのはこれだ。」
ミハイルは冒険者カードをユージに突きつけた。そこには金のリンゴ1つの採取と刻まれていた。
「────は?」
「なんだよ」
受けた依頼内容を見て開いた口が塞がらないユージに対して少し苛立ちを隠しながらミハイルが眉をひそめた。
「ミハイルさん、金のリンゴってのは幻の果実って言われてて、どの木で成るのかすら分かってないんだ。」
「まじかよぉ、ほんじゃ、変えてくるは」
「待って、」
依頼をキャンセルしに受付へと向かうミハイルの腕を掴み無理やり静止させる。
「なんだよ」
「依頼キャンセルには料金が発生するんだ。」
「は、マジかよ、」
依頼キャンセル料、それは本来報酬で貰える金額を上回る程の金を取られるのだ。
「じゃ、じゃあ金のリンゴ見つけられなかったらアタシずっとこの依頼受けたままなのか?」
「いや、基本的には制限時間に1日が設けられるんだ。ダンジョンの攻略や大型の魔物討伐とか日を跨ぐようなクエストはかなりの日数が貰えるけどね」
ユージはたんたんとミハイルに説明した。
そう、金のリンゴは幻と言えど採取クエストに過ぎない。設けられた時間は1日、もちろん制限時間内にクリア出来なかった場合は罰金があるのだが報酬金の半分にも満たない金額であるため、キャンセルするくらいならタイムオーバーを狙う方がよい。
「つか、そういうことは早く教えてくれよ、、」
「ごめん、まさか金のリンゴなんて選ぶと思ってなくて」
責任転嫁をするミハイルに頭を掻きながらユージは謝罪した。と言っても専門の学校では教えてくれる知識でも通っていなかったミハイルからすれば未知の領域
ここはユージがしっかりしないとダメなのだ。、
「ま、いいや、行こうぜ時間がねぇ」
「おう」
ミハイルに着いていくようにユージは集会所を飛び出た。勿論ツクヨミも後からこっそりと着いてきている。
▼△▼△
街を出て直ぐに広がる草原、そこでユージは剣を構えていた。
「いいか、ミハイルさんは構えからなってないんだ。」
そうしてユージは剣の塚を握りしめ、剣先を斜め上方向の天へと向ける。左足を半歩引き腰を少し落とした。
「俺の真似をしてみて」
「お、おう」
ミハイルはユージと同様の構えをとり剣を握りしめた。
「そのまま素振り」
ユージは強く剣の素振りを開始する。剣先が風を切り音を奏でる。
ミハイルはそれを見て思いっきり力いっぱい振るった
すると手から逃げるように剣がすっぽ抜け後方へと飛んでいく。
「ま、まぁ初めはそんなもんさ」
「お、おう、」
その後も何度も剣を吹っ飛んでいくミハイルを見て絶句が止まらないユージであった。
ユージが波のように穏やかにと助言しても力強く振るうだけなのだ。
(これは時間がかかりそうだ。)
こうして結局3時間は基礎の練習に取り組みようやくマシと言える所までミハイルを強くできた
復讐の熱冷めました @ikiritatuken10
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