第2話 森の中、家を建てる

やばい異世界もの書くのめっちゃ楽しい。

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鳥の囀りが聞こえる。

風は柔らかく木々の葉が囁き合う音が耳に馴染む。気持ちのいい朝。


昨日は地面で寝た。


いや、正確には目覚めた場での寝心地が良かったから再び苔のカーペットにお世話になった。


眠れたかというと、案外ぐっすりできた。

自然がわたしという存在を受け入れてくれているようだった。


落ちてきた木の実を食べる。自然はわたしに恵んでくれるらしい。本当に優しい。


「しあわせだなぁ」


そして今日も実感する。

ここには誰もいない。

誰の声も、視線も、干渉だって…

わたしはただひとり。女の子になったわたしがひとりここにいる。


「今日も生きている」


今を生きる、そんなことを考えたのはいつぶりだろうか。

声にだして笑ってしまいそうになるが、わたしはひとりでやろうとしている。


自分で考え、自分の力で。


大丈夫。ひとりなら、わたしはわたしのまま。



◇ ◇ ◇



汗をかいた身体が服に張り付き、少しだけ気持ち悪さがあった。


「そういえば…水の流れる音したっけ」


耳をすませば、微かにせせらぎの音が聞こえてくる。


音の鳴る方へ歩き出すと、小さな沢が流れていた。


水は透き通っていて、岩の間をすり抜けていく。そっと手を浸すとひんやりとして気持ちよかった。


「…入ってみようかな」


周囲に誰の気配もないことを確認し、ほんの少しの気恥ずかしさを感じながらも、服を脱いだ。


女の子になってから、まじまじと身体を見るのはこれが初めてだった。


細くなった手首、柔らかい感触。

女の子らしさを感じさせる胸。

以前よりも小さくなった肩幅と、丸みを帯びた腰。


じっくりと眺めるように、確かめた。

鏡はないけれど、たしかに"女の子"の姿をしていた。


でも不思議と悪感情は湧いてこない。


「…これがわたしのからだなんだ」


ふと視線を水先から感じて、目を向ける。

そこで黒い髪を垂らした女の子と目が合う。


これがわたし?


前世の影響だろうか、目元はやつれていているが、顔は整っている。年代は10代後半に見える。笑顔は、年相応である。


「そっか…ふふ」


小さく呟いて、足先から水に入った。

ひんやりとした水が体の熱を奪っていく。

肩まで浸かってゆっくりと目を閉じた。


水音だけが、耳の奥で鳴っている。

澄んだ空気、森の香り。木漏れ日がきらきらと揺らめいている。


そんないまを実感し、心がフッと軽くなる。


「…ふふ」


小さな笑い声が、水面に優しく跳ね返った。



◇ ◇ ◇



森を歩く。

斧なんてないし、道具なんてどこにもない。ただ手足を動かす。


倒木や枝を探しながら、直感だけを頼りに、住むところが作れそうな材料を探す。


「まずは…住むところ、だよね」


簡単に拾えないかな…なんて考えながら、

木材を拾おうと手を伸ばしたその時、ふと視界の隅がきらりと光った。


「…ん?」


気のせいかと思ったけれど、手元を見ると今拾おうとしていた枝が空中に浮いていた。


びっくりしてすこし後ずさると、枝はふわふわとまたあった場所に戻り、静かに地面に落ちた。


「なんで、浮いて…これは魔法?」


その瞬間、胸の奥の方で何かがパチンと弾けたような感覚がした。

思考ではなく、感覚で理解できる。

これはわたしでも"使える"と。


片手をそっと前に出し想像してみる。さっきは考えながらやっていたからおんなじ事を考えてみる。


おねがい、あがって。


すると目の前に光が現れ、枝が空中にふわふわと浮かび上がった。


思わず嬉しくなって、その場ではしゃいでしまった。

でも、これで家が作れる。


たくさんの木材をここに集まるように念じて、木材の山を建てる。


そして両手をそっと前に出し、想像する。

木を組み立てる。空中で木材が合わさっていって、家の形を作っていく光景を。


すると――


ふわり、ふわりと。

枝が、幹が、風に導かれるように動き始めた。

空中に枠組みができていく。床、壁、天井と丸々形作っていく。


あれよあれよという間に、小さめの小屋のような骨組みが現れた。


「すごい…」


手が震えていた。でも恐怖ではなく歓喜であった。


"わたしはひとりでもやっていけるんだ"という感動が、体中を満たしていた。



◇ ◇ ◇



夕暮れほど、小さな木の家が完成していた。

不恰好ではあるけれど、雨風は凌そうな立派な家だ。


どうやらわたしが使える魔法は、念じると"その通りになるもの"みたいだ。


そのおかげで、窓もつけられたし、扉もある。

床の端っこの方には、木の棒とツルで作った簡易ベットもある。


もう日が沈みそうだ。


簡易的に作った暖炉のようなところに念じて、火を起こす。


まだ見慣れぬこの体を抱きしめるようにして、わたしは座った。


あたたかい。


家があるってこんなに落ち着くものだったんだ。


「…ふふっ」


思わず笑みがこぼれた。

誰もいないここで。


わたしは森に生きている。

そう、実感できた夜だった。



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