さざ波も届かぬ森の奥で
ネル
第1話 森の中、ひとりで生きる
息抜きの短編(予定です)
__________________________________________
ふと、瞼に光を感じ意識を浮上させる。
目を開けると、柔らかな光が木々の間から降り注いでいた。
濃い緑の天蓋。土の匂い。草の湿り気。
どこかからか鳥の囀りが響いてくる。チュンチュン…と森で呼吸するように。囁くように。
俺は、苔のカーペットの上で仰向けで寝転んでいた。木の根元にすっぽりと包まれるように。
「あれ?」
聞き慣れない高さの声、透き通った音。
自分で発した声にびっくりして、反射的に喉に手を伸ばした。細い指先、柔らかい感触。
滑らせるように胸元に手が伸ばす。そこには服の上からでもわかる確かな膨らみがあった。
「あ、あー」
確かめるように声を出す。
そして――間違いなく女の子の身体であった。
しばらくボーッとしてしまう。何も考えられない。頭の奥の方がぼんやりと温かくて、夢を見ているかのようだった。
でも、不思議と恐怖はなかった。
むしろ安心すら覚えていた。
「ここはもうあの世界ではない?」
ふと背中が打たれるように今までの…前世の記憶が蘇ってきた。
満員電車、鳴り止まないスマートフォン、気を使ってばかりの上司や同僚とのやり取り。
誰かしらに合わせてばかりで、自分のことなんて後回し。気づけば、自分が"やりたい事"がなんなのかすら思い出せなくなっていた。
何度も壊れそうになった。その度笑っては誤魔化していた。そんな空っぽのまま働き―
…最後ってどうなったんだっけ、あんまり思い出せないや。でも、別にいいか。
『……本当におつかれさまでした』
ふと、そんな声が耳の奥で聞こえた気がした。
それきり、何も起こらない。周りには、ただ木の葉の揺れる音と風の匂いだけが残る。
「ありがとう」
どこから言われたのか、そもそも言われていないのか分からないものに返事を返す。少なくともその言葉には答えたかった。
頬に冷たいものが垂れるが、今はそれが逆に心地いい。気持ちを代弁するかのように、晴天が辺りを照らす。
「それにしても女の子か… ふふっ」
てのひらを頬に当て、らしくない笑い方をしながらも、この方が似合うなと考えを改める。
周りを見渡すと揺れる長い黒髪が、頬にあたりくすぐったく感じる。だがそれすらもいまはただ心地いい。
これは夢なんかじゃない。この景色も匂いも囀りも。
俺はゆっくりと立ち上がり、先ほどより高くなった視界で辺りを見渡す。
どこまでも続いているように見える木々。人が手を加えたような形跡は見えない。人の声も、騒がしいものも、なにひとつとしてない。
「…誰もいない。最高だ」
そうひとりで呟いて、静かに深く息を吸い込んだ。
この空気が、この地が俺の最初の一歩になる。
もう誰にも会わなくてもいい、合わせなくたっていい。ひとりで生きていく。
新しい環境に新しい性別、なにもかもやり直せるなら。俺は、いやわたしはここで"スローライフ"を送るんだ。
__________________________________________
なんか思いつきで書いてしまったのですが、ここからどう展開していくのか未定です(え?)思いつき次第随時投稿していくかと思います。
それと感想コメント等いただけるとモチベーション爆上がりです!よろしくお願いします!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます