第3話
夜中。村の近くにある森。メグは魔導書を構えながら、モンスターを探していた。
「……来るなら来いよ」
足元の落ち葉を踏みしめながら、彼女は耳を澄ます。すると、茂みの奥から低い唸り声。
次の瞬間、二本の角を持つ猪型の魔獣・グロウボアが突進してきた。
「……また強いのが来やがった!」
メグは素早く詠唱を始める。
「契約に従い、我が声に応えよ――《第七の環より這い出でし影、アスモデウス!》」
黒煙とともに現われる、影の形をした悪魔。突進してくる魔獣を片腕で受け止め、もう一方の腕でその首を叩き落とす。
グロウボアは呻き声を上げて倒れた。
「……やっぱりだ」
どこか、メグは『戦いやすさ』を感じていた。どうして?と、自問自答するメグ。
しかし、そんな問いをする時間は与えられない。今度は木の上から翼を持つ蛇・スカイルが滑空してくる!
「おいおいおい!?」
メグはすかさず魔導書を開き、別の術式を唱える。
「《断罪の穿ち》!」
空から雷が落ち、スカイルは焼け焦げて地面に落ちる。煙の匂いが漂う中、メグは息を整えながら周囲を見渡す。
「……もしかして」
メグはそのまま、森の中を走り出す。モンスターをおびき出すように、挑発するように!
チームプレイが重視される〈蒼鷹の牙〉では、モンスターを誘うなんて許されない。負傷した仲間もいるからだ。
でも――――今戦えるのは、メグしかいない!
「……おらぁっ!」
空から同時にやってくるスカイル2体!メグは魔導書を開き、また唱える!
「《断罪の穿ち》!からの《魂喰らいの糸》!」
1体は糸に切断され、もう1体は雷に打たれ堕ちた。
そして、その中に残されるのは……息切れしつつ、どこか楽しそうな顔のメグ。
「やっぱりね」
メグは思い返していた。嫌な先輩もいれば、未成年のメグにお酒を飲ませようとした先輩もいたことを。
そして――――メグは確信した。
「私、1人の方が向いてるわ」
そして、村を陣取っていたモンスターにとって、悪夢としか言いようがない夜が始まった。
悪魔アスモデウスを使いこなし、誰にも忖度せず、誰の指示も受けず、ただ孤高に戦う少女。
そして、朝になった時――――
「あれ?もう終わり?」
モンスターは、メグの手によって壊滅させられていた。
◇◇◇
またしても応接間。鳩が豆鉄砲を食ったような顔をする村長を見て、メグは噴き出すのをこらえるのに必死だった。
「え、えぇ……ありがとうございます。まさか、モンスターを掃討してくれるとは」
「いえいえ。問題ないですよ。それで、報酬は……」
「ば、倍払います!ありがとうございました……」
相場よりは低いが、まぁ多少は色を付けた額のゴールドを持ち、メグは村を立ち去ろうとする。
最後に覗いた村の中で、メグは村長が、小さな子供たちと遊んでいるのを見かけた。
「ねぇねぇ、そんちょ!今度から、村の外で遊んでいいの!」
「遊んでいいとは言えないなぁ。迷子になるかもしれないし……でも、遊べるようになる日は近いかもね」
「やったー!」
その様子を見ながら、メグは小さく微笑んだ。
安物買いの……だがなんだか言っていた村長だが、ちゃんと村長としての役割を果たしているあたり、立派である。
少なくとも、メグの元リーダーよりは。
そんなことを考えながら、メグはひとまず安宿に戻った。1つ部屋のグレードを上げた。
蜘蛛の巣はなくなった。後、ベッドが微妙に広くなった。新聞を無料でもらえるようになった。
「……はぁー、疲れたぁっ!」
そんな風にしてベッドに潜り込むメグ。とりあえず、明日からなにをするか。
広告に今回の実績は書けるな。とりあえず、また新聞屋にでも行こう。メグはそう考えたが、すぐに行動するのはやめた。
「……寝よ」
徹夜でモンスターを殺しまくったため、メグの疲労は限界であった。メグは普通に、3時間くらい寝た。
起きた後、メグは新聞屋に向かった。
◇◇◇
追放されてから、3か月ほど経過した。メグは順調に実績を積み、フリーランスの悪魔使いとして生きていけていた。
宿の部屋のグレードは上から2番目だし、小さな部屋を借りることも選択肢に入れている。
そして、メグは朝食を摂りに、小さな食堂に向かい――――不運な出会いを果たした。
「……あれ、メグ?」
窓際の席に座るメグに話しかけてきたのは、かつてのリーダー・カイルだった。
「……カイル?」
「こんなとこで何してるんだ?まさか、まだ“悪魔使いごっこ”続けてるのか?」
カイルの口調は軽く、だがその奥にある棘は隠しきれていなかった。メグは無視して、食事を続ける。
目玉焼きの黄身を割り、黙々と口に運ぶ。カイルも面白くなくなったのか、立ち去ろうとした。
その時だった。
「す、すいません!カイルさん!」
食堂のドアから、新しい男が入って来た。ローブを着た、魔法使いの男である。
「……おい、遅かったじゃねぇか。まったく……分かってんのか?」
「は、はいぃ……」
すると、カイルはちらりとメグを見る。そして、魔法使いの男の肩に手を置いた。
「なぁメグ。紹介するぜ。こいつは新しい魔法使いの【ケイン】だ。お前より数段優秀だぞ?」
そうやって、威張ってケインを紹介するカイル。メグは食事をしながら、少し思った。
自分とケインは、同じ目つきをしてる、と。
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