第4話

 それから3日後。軽く調べてみたところ、ケインとかいう男は、やはり肩身の狭い思いをしている様だった。

 酒を飲まされ、無理やり芸をやらされ、最終的に雑務を押し付けられている。その様子が、雇った探偵から伝えられた。

 資料を宿の部屋で見ながら、メグは独り言を呟く。

「ま、私には関係ないか……」

 その直後、メグは時計を確認する。そろそろ、新しい依頼の時間だ。

 メグは宿を発ち、いつも通りモンスターを討伐。当日中には、また宿に戻っていた。

 宿のベッドに雑に寝転がり、メグはしばらく、これまでの自分を思い返していた。

「……色々あったなぁ」

 新聞に広告を出し始めてから、まだ3か月くらいしか経っていない。だけど、メグは1年くらいの濃度を感じていた。

 色々勉強もしたし、相場とか、広告を出すときの工夫とかも調べてみたりした。

 そして――――メグは今、息をしている。食事を摂れている。幸せに生きている。

 メグはどこか幸せをかみしめている様子だった。

「……そろそろ行くか」

 浸るのを一旦止めて、メグはとりあえず新聞屋に向かう。繁華街を歩き、町はずれにある汚い小屋。

 新聞屋の中は、相変わらず雑多な書籍で埋まっていた。その中で――――メグは、あるポスターを見つけた。

「……うん?」

 そのポスターには『あなたも連載を持ちませんか?コラム募集』と書かれていた。

 そういえば、そんな記事あったな……そう思いつつ、私は普通に担当の人に話しかける。

「あの、すいません。広告を出したいんですけど」

「あ、いつものね。文言はどんなのにしとく?報酬は?」

「いつも通りで。あ、後……」

 瞬間、メグの脳裏に『良くない考え』が浮かぶ。しかし、メグはその考えを振り払えなかった。

 結局メグは、担当者に『自分の作戦』を洗いざらい話してしまった。


◇◇◇


 運よくメグは、中々倍率の高かった『コラム募集』の公募に受かった。そして、メグはコラムを連載しだす。

 そのタイトルは――――『柊メグのチームから独立するには』という名前。

 半分は受け売りの情報だが、自分が『独立』する上で役に立ったことを乗せている。

 まだ3ヶ月の若造が言っても説得力が無いと考えたメグは、他のフリーランスの人間にも掛け合った。

 その結果――――こうなった。

「……ふふんっ」

 鼻歌を奏でながら、メグは宿の部屋の中で過ごす。そんな時だった。部屋のドアがノックされた。

 メグにはノックの仕方だけで、相手がだれか察せた。

「……どうぞ」

「おい!なんのつもりだ、メグ!」

 入って来たのは、メグの元リーダー・カイルだった。軽い怒りの表情を浮かべている。

「あら?何の話でしょう?」

「とぼけるな。今朝の新聞に載ってたお前のコラム。あれを真に受けて、ケインが辞めやがった!」

「ケインって、あなたが食堂で『私よりも優秀』と紹介してた、あの人?」

「あぁ、そのケインだ。辞める時、なんて言ったか分かるか?」

「さぁ?」

 ひょうひょうとした態度を崩さないメグに、カイルは激怒した。

「『もうここではやっていけない。俺は自分の道を、自分の責任で歩む!』だとよ」

「へぇ……名ゼリフじゃないですか」

「ふざけるんじゃねぇ!ああ見えて、ケインは逆らわねぇし、無駄口叩かねぇ奴だった。それがなんだ、あの態度!」

 メグは既に、目の前の身勝手な男への興味を無くしていた。

 どうやら、メグの作戦――――コラムを通し、少しだけ〈蒼鷹の牙〉に復讐する作戦は成功したようだった。

「……カイル。忠告してあげる。そんな態度でいるから、人が離れていくんだよ」

「は、はぁ?」

「まぁ、せいぜい頑張って。カイル」

 メグはドアに向かって歩き、カイルを通り越して部屋から出て行く。

 丁度、メグはよさげな賃貸物件を見つけていたのだった。メグは背を向け、歩き出す。

「あぁ、ところで最後に言っておきたいんだけど、カイル」

 これで最後だからと、メグは言い切った。

「もう二度と、私の名前を呼ばないで」

 カイルはその場に立ち尽くした。宿の中、メグの後ろ姿を見る以外にできることはなかった。


◇◇◇

 

 その後、〈蒼鷹の牙〉以外のチームでも独立ブームが巻き起こり、その始まりとなった〈蒼鷹の牙〉は弱体化した。

 メグはその立役者としていくつかの新聞に呼ばれたが、元々文章を書くのは得意ではない。

 最初の新聞の連載が終わったら、すぐに文章業は畳んだ。そして、メグは今――――

「王都温泉行き急行汽車の切符、お願いします」

 駅の中で、そうやって切符を受け取るメグ。濃密すぎるここ数ヶ月を終えて、メグは単身、旅に出ようとしている。

 自分のすべての始まりである新聞を読みながら、メグは駅のホームを歩く。客車に乗り込み、メグは新聞の『広告』を見た。

 するとそこで、興味深い記述を見つけてしまった。

「……へぇ」

 そこには『元〈蒼鷹の牙〉リーダー、実力者派遣します。初回700ゴールド』と書かれていた。

 ちなみに、700ゴールドと言うのは、メグがコラムに『相場』として乗せた料金設定である。

「……ふふっ」

 少しだけ笑いながら、メグは窓の外を見た。列車の発車――――旅が始まるまで、まだ少し時間があった。

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【短期集中連載・完結保証】追放された少女、孤独を楽しむ。 日奉 奏 @sniperarihito

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